表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/77

27話 機動要塞


地震が起きている。

そう思うほどの地響きが、近づいてくる。

ユウトは──いや、ユウト達は『それ』を待っていた。

国を出て少し離れた森の中。

そこには木などの植物はあまり生えておらず、不自然にぽっかりと空いたスペースがあった。

そこは『それ』が停まる定位置だとか。

「おぉ………」

やがて『それ』の全貌が見えてきた。

「デケェ」

ただ一言。ユウトはそれ以外に言う言葉が思いつかない。それほど圧巻で、とんでもないモノだった。

一体どれくらいの大きさがあるのか。首が痛くなるほど見上げなければ頂点が見えない。

「すげぇな。あれがヤドカリ型機動要塞か」

脚。顔を定位置に戻せば見えるのはそれだけ。

三段ホールケーキのように重ねられた建物。その周りについている巨大な足場はまさに『皿』のよう。

材質は、木か、鉄か、それともただの石か、ユウトには判別がつかない黄土(おうど)色。だがロルビスが言うには千年以上前からあるらしいので、ただの木材や石材ではないだろう。

『皿』の上にはかなりの数の家がある。聞いた話によると、機動要塞の上で暮らしている人もかなりいるそうだ。

さらに『皿』の下に生えている機械的な多脚。その様は、なるほど確かにヤドカリのようだ。

「ええ、あれが勇者ショウヘイ=サキヒラが創った機動要塞です」

ロルビスが説明してくれる。


ショウヘイ=サキヒラ。『カガクシャ』を名乗っていたかつての勇者だ。

その名は歴史に残る賢者メマルケスなどの高名な魔法使いと同様、知らぬ者はいないと言っていい。

その勇者ショウヘイ=サキヒラが残した偉業。機動要塞。

その13ある機動要塞の1つ。ヤドカリ型の機動要塞。

内部は広大なダンジョンとなっており、魔物から宝まで、様々な物が置いてある。

機動要塞は一年に一度、隣国のフェンバリック、その下にあるステュクス帝国、そして、ここガリュートル王国と三角形を描くように移動する。

今年はガリュートル王国。なので『稼ぎ時』である。

「あ、止まった」

ヤドカリ型機動要塞は森の中にある不自然に空いたスペースで止まると、脚を小さく折り畳みし始めた。


──ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ………ズンッ!


収納完了。

遅れて、軽い風圧がふわりとユウトの頬を撫でた。

森の空き地に腰を降ろした機動要塞はうんともすんとも言わなくなる。

「それじゃ────」


「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおーーーーーーーーーーーー!!!!!」」」


「───うるさっ!?」

(とき)の声を上げたのは、ユウト達の周りにいた冒険者たちだ。

彼らもユウト達と同じく、この『稼ぎ時』を持っていたのだ。

「オラ進め進めぇッ!」

「追い越されるな!」

「うぉおおおおおおおおおおーーーーーーーーーー!」

もう待ちきれないと言わんばかりに、冒険者達が走り出した。怒涛の冒険者達が機動要塞へ押し寄せる。

「なぁ、オレたちは行かなくていいのか?」

我先にと駆ける他の冒険者と違い、走らなかったユウト達はポツンと取り残された。

「なに、そこまで急ぐ必要はない」

答えたのはユーミラだった。腕を組み、微笑を浮かべながら沈黙した機動要塞を眺めている。

「脚を縮めたとはいえ、機動要塞はかなりの大きさがある」

「えっと、それってつまり………」

「ああ」

思わず見惚れてしまいそうな、不敵な微笑みを浮かべるユーミラに、ユウトは恐る恐る問うた。

「登るぞ」



  □ □ □ □ □



「ぜぇー、ぜぇー……………ひぃー、ひぃー………」

ヤドカリ型機動要塞は、脚を収納しても多少の高さがある。つまり、登る必要がある。

なのでユウト達は、ロッククライミング(?)をする羽目(はめ)になった。

元いた世界(前世)ではただの平凡な大学生だったユウトには体力がまったくない。登り始めて早々、ユウトは息切れしていた。

腰に着けるのは邪魔だと背中に背負った聖剣がやたらと重い。そろそろ手が震えてきた。

「ちょ……ちょっと、休憩……………」

ユウトの要望で、一旦休息を取ることに。近くにあった脚の出っ張りを休憩場所に選んだ。

全体を見ればその出っ張りは、ほんの一部かもしれないがユウト達が休むには十分な広さがあった。

「あ〜〜〜〜〜、疲れた……」

座り込み、息を整える。

「ユウト、体力無いんですね」

「うぐっ」

痛い所を突かれた。

ユウトは中学時代、部活動の超キビシイ鬼コーチに絞られて以来運動とは疎遠である。

高校では帰宅部。大学でも何のサークルにも入っていない。

「ロルビスは、体力あるんだね………魔法使いとか、エルフって……細くてあんま体力無いイメージだったけど…………」

「まさか。魔法使いなら尚更体力は必要ですよ。それに俺は千年間森で暮らしてましたから、それなりに体力はありますよ」

のほほんと言ってのけるロルビス。

千年。エルフからすれば短いのかもしれないが、ユウトからすると途方も無い数字である。

「あの、ユウトさん。少し気になったんですが」

「え、なに?」

ヘルヴィアが心底不思議そうに尋ねた。

「ユウトさん、身体強化使わないんですか?」

「え?」

「「え?」」

ユウトの後に、ロルビスとユーミラの二重奏の声。

身体強化。ラノベや漫画などで読み慣れてるけど、聞き慣れてはいない言葉。

「何かこだわりとかがあるならすみません。でも、気になってしまって」

「え、いや、ちょっと待って。身体強化? そんなのあるの?」

「え、もしかして、知らない?」

ユウト以外の全員が意外な顔をした。どうやら『身体強化』というのは常識らしい。

「えっと、ごめん、知らない。どうやるのそれ?」

勇者が身体強化を知らない。意外過ぎる事実に全員が唖然とする。

身体強化など魔力があれば誰でもできる。身体強化を使えば子供でも大人を倒せる。

そして身体強化には『肉体の硬度の強化』も含まれる。

ロルビスでも肉体の強化をすれば、身体にナイフが刺さらないくらいには出来る。

そんなふうに、誰でもある程度は強くなれる。それが魔力であり、身体強化。この世界の常識だ。

「簡単ですよ? 魔力を全身に巡らせれば」

「魔力……全身……」

言われてユウトは自分の内側に意識を向けた。


───魔力。魔力。魔力。


「…………………」

確かに、何かを感じた。

温かいような。

自分の中で不規則に形を変える空気のような。

でも自在に操れる身体の一部のような。

とても強い『力』が秘められている。

ユウトはそれを、解き放つ。

「うおっ」

突然来たそれに、ユウト自身も驚く。

「おっと、これは……」

「おおぉ……」

入れ物の許容量を超え、溢れ出してしまう水のように、それは出てきた。

あまりにも大きく、濃密で、膨大な、魔力。

その量は軽くロルビスを超えている。

「これが、勇者………」

ポツリとユーミラが感嘆する。

「な、なんか変な感じだな……」

なんだかフワフワする。

言うなれば、五感が拡張されたような。自分の身体に新たな器官が追加されたような。

周囲にあるものを魔力を通して感じ取ることができた。

「あの、ユウトさん……そろそろ…………」

「え、え?」

ヘルヴィアが辛そうにしていた。

あまりにも濃密過ぎるユウトの魔力に当てられたのか。少し体調が悪そうだ。

「え、いや、どういう事?」

「ユウト、魔力を抑えてください」

「え、あ、おう」

ユウトは体内(なか)から溢れ出ていた魔力を抑えて、しまい込む。

「はぁ……はぁ……」

「落ち着いたか?」

しばらく辛そうにしていたヘルヴィアの呼吸が整ってきたところでユーミラが話しかける。

「ええ、大丈夫です……」

少し元気になったヘルヴィアの背中を擦るユーミラ。なんか母性ある。

「もしかしてヘルヴィアさんって……」

「はい……」

「ヘルヴィア、いいのか?」

何かを打ち明けようとするヘルヴィアをユーミラが止めようとする。

「別にいいですよ。隠すことでもありません」

「………………」

やはりか。ロルビスはなんとなく予想がついた。

「ヘルヴィアさん、貴女は、過剰感知体質(オーバーセンス)ですか?」

「……はい、そうです」

「オーバーセンス?」

ユウトは首を傾げる。

身体強化、魔力、と来て今度はまったくわからない専門用語が出た。

「なあロルビス、そのオーバーセンスってなんだ?」

「魔力を異常に感じ取ってしまう体質ですよ」

過剰感知体質(オーバーセンス)。ロルビスが言った通り、異常なほど魔力を感じ取ってしまう体質のことだ。

症例としては珍しくはないが、決して多いという訳でもない。

本来なら魔力は身体が触れた時にしか感じ取ることができない。魔法や魔力の扱いに長けたエルフも同じだ。

だが、過剰感知体質(オーバーセンス)は触れなくても感じ取ることが出来てしまう。

人は身体が壊れないように、本来なら引き出せる力に制限をかけている。それは魔力も同じで、身体が壊れないように知覚できる魔力を制限して脳に負担をかけないようにしている──というのが有力説だ。

実際はヘルヴィアの魔力感知が異常に発達しているだけなのか、それとも脳の制限(タガ)が外れているだけなのか。それはまだ解明されていない。

「と言っても、私のはそこまで強くありません。せいぜい近くにいる人の魔力をある程度感じるくらいです。ユウトさんの場合は強すぎて少し魔力酔いしてしまいましたが」

そう言ってヘルヴィアは立ち上がる。もう問題は無さそうだ。

「さ、そろそろ休憩はいいでしょう。身体強化は使いながら覚えていけば大丈夫です」

「あ、ああ」

ユウトも立ち上がる。

そして、己の内側にある魔力を、全身へ巡らせた。

「ほっ」

試しに、軽く地面を蹴ってみる。すると、

「うおおおおおっ!?」

軽々と身体は宙に浮いた。重力に引かれて落ちる前に、ちょうど目の前にあった出っ張りに手を伸ばす。

「す、すげぇ………」

五メートルは跳んだ自分に。そして、それを可能とする魔力に、感嘆の声を上げる。

「まだまだ魔力の制御が甘いですよ」

少し遅れてロルビスとヘルヴィアもやって来る。

ロルビスはユウトを超えて十メートルは飛び上がった。ヘルヴィアも同じくらい。

「ハッ」

ユーミラは───飛びすぎて見えなくなってしまった。

「ははは、相変わらずユーミラさんは規格外ですね」

「まったくです。上で待ちくたびれて愚痴られる前に登り切りましょう」

二人は笑いながら再び登頂を目指す。

「え、いや、ちょ、なんでそんな軽いの? 人が一瞬で消えたんだよ? もっと驚かないの?」

唯一、ユーミラの規格外さを見慣れていないユウトだけは戸惑うのだった。


魔力って謎。


「面白い!」「続きが気になる!」など、応援したいと思って下さった方、是非画面下の「☆☆☆☆☆」のポチッと評価やブックマークをお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ