26話 嘲笑
「急にすいませんしたっ」
シュバッ、と頭を下げた。それに合わせて茶色がかった黒髪も下がる。
「いえ、気にしなくてもいいですよ」
ロルビスも干し肉がどうとか訊かれたが、なんか真面目に答えてしまった。今考えてみれば何故あんな真面目に答えてしまったのだろうか。
「とりあえず頭を上げてください」
言われて、少年は顔を上げる。ほう、とヘルヴィアが悩ましげに息を吐いた。
少年はいわゆる『美形』というやつだろう。
目鼻が整った顔立ち。だが長い前髪のせいで目元が隠れてしまっているのがなんとももったいない。
頭を上げたユウトはとりあえず自己紹介する。
「改めて、オレはユウト=カンザキ。まあ、よろしく」
気軽な感じで接し、話しやすい印象を与える。それを自然とできるようにユウトは心がけている。だが──
「あ、あれ?」
その場にいる全員が驚いた顔をしていた。
「………………ユウト=カンザキ……」
「もしかしなくても勇者か?」
「え、あ、うん、そう」
すると、周囲が少し騒がしくなった。ユウトの方を見てひそひそと話している。
嘲笑。
周りにいた冒険者たちはユウトを見て嘲る。
───勇者が今更何しに来た。
そう、ありありと顔に書いてあった。そもそもユウトが本当に勇者なのかすら怪しんでいる。
「あー、えっと………ごめん、今日は──」
帰ろう。そう思った。
見てわかる通り、ユウトはこの場に歓迎されていない。
他の町にでも行こう。勇者であることは隠して、そこで冒険者になろう。せっかく気の合いそうなヤツと出会えたが、しょうがない。
ユウトは立ち上がって、去ろうとした。だが、
「いや、ちょっと待って下さい。どこ行くんですか」
引き止められた。
空気が読めないのか、それともわかってて無視しているのか。判断のつかない表情でロルビスは言った。
「勇者について色々と聞きたいんです」
好奇心。ただ、それだけが瞳にあった。
良く言えば、色眼鏡で見ない。悪く言えば、他人にあまり興味が無い。
ロルビスが興味を持ったのは、ユウト自身ではなく、ユウトの持つ『強さ』だ。でも──
「わかった。オレに答えられることなら答えるよ」
───なんとなく、それが嬉しかった。
□ □ □ □ □
「へぇ、じゃあユウトは冒険者になるんですか」
「うん、そのつもり」
10分後、ユウトとロルビスはすっかり意気投合していた。
ロルビスは最初、ユウトのことを「ユウトさん」と呼んでいたが、本人の希望もあって「ユウト」の呼び方になっている。
「なんか、ずいぶんと仲良さげだな」
「男同士、気楽に話せるというやつでは?」
すっかり蚊帳の外に出されたヘルヴィアとユーミラがボソボソと話す。
「じゃあ、あそこの受付行けばいいわけね」
「ええ」
登録方法をある程度説明してもらったユウトは席を立つ。
いざ、冒険者登録へ。
バリッ、バリバリバリバリバリバリ───パキィンッ!
「ふぇ?」
ユウトが手を置いた水晶玉が、粉々に砕け散った。
突然の出来事に、ユウトはもちろん、ロルビス、ユーミラ、ヘルヴィア、それ以外にも受付嬢やそれを見ていた冒険者達も状況飲み込めなかった。
「おいおい、水晶玉が割れるなんて、今までにあったか?」
「いや、俺は三十年は冒険者やっているが、そんなことはなかったはずだ」
「てことは、マジで勇者なのか?」
次第に落ち着きを取り戻した周りの冒険者だヒソヒソと話し始める。
「えっと、オレはどうすれば?」
「ま、魔法適性が異常に高いんでしょう。そういう事にしておきましょう。はい」
彼女はロルビスの時にも魔法適性を測った受付嬢だ。その時はロルビスが魔法適性がまったくないのに魔法を使って完全に混乱していた。何しろ、マニュアルには無いことだ。
そして、今度はユウトが手を置いた水晶玉が破裂した。これもマニュアルに無いことだ。
哀れ、受付嬢。最近はマニュアルにない事ばかり。
その後、受付嬢は規律に違反した場合の処罰や死亡の際はギルドは一切責任を負わない、やらなんやかんや説明を受ける。このへんはよくわからないので聞き流しておいた。
「はい、これで貴方も冒険者の仲間入りです。ご活躍を期待しております」
そう言って渡された冒険者の証。金属のプレートには、
十級冒険者 ユウト=カンザキ
と刻まれていた。
ユウトはそれを首にかけると、ロルビス達のところに戻った。
「「「………………………………………」」」
戻ると全員が唖然としていた。ヘルヴィアなんて間抜けにも口を半開きにしている。
「これは……さすがは勇者、としか言いようよありませんね」
苦笑しながらロルビスは言う。その瞳には、確かな『羨望』と『嫉妬』が混ざっていた。
「早速ラノベ主人公みたいになっちゃったよ………」
女神の言った通り、チートのようだ。
「ところでユウトはこれからどうするんですか?」
「ん? オレは、まあ、駆け出しだし薬草の採取からでも始めようかな」
新米としては妥当なラインだろう。いきなり危険な魔物討伐の依頼でも受けて「調子に乗ってる」などと思われたくない。
「せっかくですし、パーティ組みません?」
「え、いいの?」
構いませんよね? というようにロルビスはユーミラとヘルヴィアに視線を向ける。
「うむ、反対はない」
「私も構いません」
「なら決まりということで」
「え? ちょ、え?」
トントン拍子で話が進んでいく。
ユーミラとヘルヴィアは共に三級。ロルビスは五級。それに対し、ユウトはまだ十級。正直、気が引ける。
「勇者の実力、見させてもらいますよ」
ポン、とロルビスが肩を叩く。ユーミラとヘルヴィアも興味がありそうだ。
「そう言えば、もうすぐ『アレ』が来ますね」
「ん? ああ、そういえばそうか」
ヘルヴィアが呟いた言葉に、ユーミラが同調した。
「せっかくの『稼ぎ時』だ。ユウトの実力を見せてもらおう」
「「稼ぎ時?」」
意味がわからず、ユウトとロルビスは同じタイミングで首を傾げる。息ぴったりだ。
「………………………………あっ、もしかして」
「何か知ってんの?」
しばし考え込んでいたロルビスが何かを思い出したように顔を上げる。
「ええ、千年前にも『アレ』はありましたからね」
「へぇぇ、千年前からもあるんですか」
興味深そうに呟くヘルヴィア。古代の産物に興味があるようだ。
「さ、さっきから何の話をしてるんだ………」
話についていけないユウトは一人、不安になった。
勇者が登場して、これからは『主人公が二人』のような展開になる事もあるかもしれません。それでも面白くできるよう頑張ります。
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