24話 誕生日
ロルビスは真新しい群青色のコートを羽織って血気盛んな表通りを歩く。
路傍では自分の店を広げて客を呼び込んだり、吟遊詩人が歌っていたりしている。つい最近まで魔族が潜り込んでいたとは思えないほど平和な光景だった。
「活気が良いのがこの国の特徴、だっけか?」
頭の中でクレナの言葉を反芻する。だが、いくらなんでも、ハシャぎすぎではなかろうか?
不思議に思ったロルビスは、耳に魔力を込めて聴力を強化。周囲の人間の会話を聞き取る事にした。
すると、耳に入ってきたのは──
「──魔王が倒された?」
なるほど。確かにそれならこのハシャぎようも納得できる。しかし、勇者が現れたという噂を聞いた覚えはないのだが…………。
どうしても気になってしまったロルビスは、たまたま通りがかったおじさんに話しかけた。
「あの、魔王が倒されたって聞いたんですけど、誰に倒されたんですか?」
「あ? なんだ、アンタ知らないのか?」
「お恥ずかしながら」
そう言うと、おじさんは笑顔で教えてくれた。
「剣聖だよ」
「剣聖………」
────って、誰だ?
「おいおい。まさか、アンタ剣聖も知らないのか?」
「まことに、お恥ずかしながら………」
ロルビスは自分がどれだけ世間知らずなのか、思い知った。
おじさんにはあまりの無知に心配され、挙げ句、今まで病気で寝たきりだったじゃないかと疑われたくらいだ。
その後、ロルビスはおじさんの誤解をなんとか解き、剣聖について聞き出した。
曰く、髪は薄い灰色で、女と見紛うほど長く伸ばしている。だが顔は精悍でとても男らしいし、身長も高い。
曰く、本人は至って寡黙。必要な事以外は喋らない。そのため、名前以外は一切わからない正体不明。
曰く、奇妙な魔剣を持ち、それで魔法や魔物を斬りつける。すると、不思議なことに斬りつけられた魔法は一瞬で消え、魔物は動けなくなるらしい。しかし、そんな謎めいた魔剣でありながら、製作者がわからない。
こちらもまた出所不明。
と、いうのがロルビスが聞き出した剣聖の情報だった。
要するに『よくわからない』というのが剣聖に対する主な認識だろう。一体何者なのか。
「剣聖か………」
魔王を倒した英雄。
間違いなく、この世界の『最強』の一角。
いずれ会ってみたいものだ。
□ □ □ □ □
「え、ここ?」
ロルビスの前には、豪邸といっても差し支えないほどの一軒家があった。高い塀に囲まれ、黒塗りの門は鉄格子のように厳重だった。
どっかの貴族や超金持ち冒険者の家でもなく、ロルビスの妹、セルレーナの家である。
「デカい……」
ロルビスは現在、セルレーナの家に来ていた。だが、あまりの大きさに一瞬間違えたと思った。
それこそ、敷地に足を踏み入れることすら二の足を踏むくらい。
ロルビスが森の中でサバイバル生活をしていたのに対し、セルレーナはかなり出世して金持ちになっていたようだ。
そうやって門の前で悶々としていると、セルレーナが出てきた。
「兄さん!」
パアァァァ、と擬音が付きそうなくらいの花も綻ぶ笑顔。今日も妹は可愛い。
中にいた警備兵と思しき男が二人、協力して開門させる。
セルレーナは門をくぐり抜けてロルビスに駆け寄るとそのまま抱き着いてきた。なのでロルビスも抱き締め返す。
「ああ、今日も妹は可愛い」
「兄さん? 急にどうしたんですか?」
「…………いや、なんでもない」
セルレーナの艷やかな髪を撫でながら、それより、とロルビスは続ける。
「こんなでっかい家、どうしたんだ? 聖女ってそんなに儲かるの?」
「いえ、前に魔物に襲われている人を助けたらその人が貴族だってので、お礼にこの家をポンと」
「マジか……」
そんな物語の中でしかないような展開があったのか。
「ま、そんなことは置いといて。兄さん、早く上がってください」
「……おう」
言われてロルビスは、一歩踏み出す。
いくら妹の家だとしても、こんな豪邸に入るのは気が引ける。だが、逃げることは決してしない。
何故なら、横で微笑むセルレーナが腕を組んで離そうとしないから。そして、ロルビスにも離す気はないから。
なにより───
『兄さん、楽しみにしててくださいね』
治療院でセルレーナが微笑とともに言った事が気になるから!
豪邸の正面、両開きの扉が主を守るが如く、立ちはだかっていた。
その扉が「ギィィィィ」という重々しい音を発しながら開かれる。
ロルビスは少し緊張した面持ちで豪邸に足を踏み入れた。
豪邸の中は、見事と言う他なかった。
天井に取り付けられた照明から床の絨毯に至るまで、それらの調度品全てから気品が感じられた。
「………………」
ただ、気になる事がある。
「なあ、セナ」
「はい、兄さん」
「あれは何?」
ロルビスが指差した、その先。開いた扉から見える、白。かなり大きさだ。部屋を丸々一つ占領している。
ロルビスは恐る恐る部屋を覗いた。そして、そこにあったのは、
「………ケーキ?」
「はい! 兄さんの誕生日ケーキです!」
セルレーナは満面の笑みで答えた。
「はは……」
ロルビスは乾いた声で笑う。
ズゥゥゥン、という効果音が聞こえてきそうなくらい、威圧的で、あまりにも巨大なケーキ。
その大きさは、1つ目の巨人を彷彿とさせた。
「私と兄さんが会えなかった、約千年分、味わって食べてくださいね♪」
テスト期間ですよ………。
6月にテストあったのにまたテストですよ。ほんとヤんなっちゃう。
余談、すみません。
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