23話 昇格
昇格した。
ロルビスは退院後、セルレーナの家に行くため冒険者ギルドで場所を訊くついでに顔を出しておこうと思い、ギルドに行ったところ、
「昇格です」
とカワイイ受付嬢のお姉さんに言われた。
理由は魔王軍幹部のオルガスを倒した事が冒険者ギルドに知られていたらしい。まあ、あれだけ暴れまわったならそれも当然か。
ちなみに、等級は十級から一気に五級になった。冒険者プレートも十級から五級に更新され、大量の金貨とともに帰ってきた。
「こ、これは?」
「報酬です。魔王軍の幹部を倒した功績が評価されました。それと、現在はギルドマスターが多忙なんですが、機会があれば一度お会いしたいようです」
「へ、へぇ、ギルドマスターが………」
どうやらロルビスは『期待のルーキー』的な存在になってしまったらしい。悪い気はしない。
そんな訳で、金が大量に手に入った。
なので、新しい服を買おう。
ロルビスが元々着ていた服はオルガスとの戦闘でビリビリに破けてしまった。そのため、今着ている服は治療院で貰った白のシャツと黒のズボンというシンプルな格好である。
この格好でも特段問題はないのだが、やはり服は自分好みの方がいい。
「せっかくだし他の装備も買い揃えておくか」
服屋に行く前にギルドのすぐ横にある武具屋に行くことにした。
ロルビスは特大の金貨袋を片手に、少しレトロな感じの木製扉を開く。チリリーンと鈴の音が鳴った。
店内の中は予想通りと言うべきか、壁には剣や槍などの武器が置かれ、棚には兜など防具が並べられていた。
店の奥にもこれまた予想通り、ドワーフのオジサンが剣を研いでいた。
「あの〜、すいません」
「……………………」
ロルビスは話しかける。だが、ドワーフのオジサンはチラリとロルビスの方を見ただけですぐに作業に戻ってしまった。
いかにもテンプレ。『話しかけるな』といった雰囲気だ。
「じゃ、商品勝手に見させてもらいますね〜」
仕方ないので、勝手に店内をウロウロすることにした。
ひとまずロルビスが欲しいのは、革鎧か鎖帷子といったところだ。ロルビスの戦い方は近距離〜中距離の魔法戦闘なので、俊敏性が失われるのは避けたい。
ロルビスはどういう防具が良いのか、そういった知識がないので、目に入ったものを片っ端から試着していく事にした。
着ては脱ぎ、また新しいのを取って、着て、合わなければ脱ぐ。
「あ、これ良さそう」
その中で一番丁度良いサイズの鎖帷子を選んだ。
ついでに、革製の籠手と脛当ても買っておく。敵によって気休め程度にしかならないだろうが、無いよりはマシというやつだ。
鎖帷子、籠手、脛当て、の三つを購入──したいのだが、やはりドワーフのオジサンは剣の手入れに夢中だ。終わるまで待つしかないだろう。
「……………………」
「……………………」
沈黙。
聞こえるのは、ひたすら剣を研ぐ音だけ。
人によっては気まずく感じるかもしれないが、ロルビスは何故かこの静寂が悪くないと思った。
「………………………………………」
だが、いつまで待てばいいのだろう。さすがに、ずっとこうしているとなると気まずくなってくる。
しかし、ロルビスの心配と静寂は快活な声によって破られた。
「親方! ただいま戻りました──って、客来てるじゃないスか親方!」
裏手の戸を、バン! と勢いよく開いて少し小柄な少年が入ってきた。着ている白いシャツは所々が黒く汚れ、前掛けには油汚れの付いている。おそらく、このドワーフの弟子だろう。
「いやー、すんませんッス。親方は作業中は滅多に話さないし、客が来ても必要最低限の会話すらしないんスよ」
そう言って少年は頭を下げる。近くで見ると、なかなかのイケメンだった。きっと年上のお姉さんにモテるタイプだ。
「お客さん、見ない顔ッスね。この店に来んのは初めてッスか?」
「ええ、最近この国に来ました」
「そっか。これからもよろしくッス! 俺の名前はクィユッスッス」
「く、くぃゆ?」
「だから『クィユッス』。それが俺の名前ッス」
なんともややこしい名前だった。
「変な名前ッスよね。俺はとある辺境の村出身なんでそんな名前なんス」
「へぇー、そうなんですか。あ、俺の名前はロルビス・クロスです。これからもお世話になるかもしれませんので、よろしくお願いします」
ロルビスはクィユッスに手を伸ばして、握手の意を示す。
「よろし──」
クィユッスも手を伸ばす。が、手を伸ばしかけたところでクィユッスの手が止まった。しばし静止した後、ロルビスの手をむんずと掴む。
「え? あの、どうかしました?」
「ちょっと来いッス」
「へ?」
ヘッドロックをかけられ、店の裏手に連れて行かれる。
「あ、あの、俺なんかしました?」
「いいから来いッス」
一体ロルビスが何をしたというのか。
ロルビスは頭の上に『?』を浮かべながら店の裏に連れて行かれていった。
□ □ □ □ □
「なんで連れて来られたわかってんのか? ああん?──ッス」
何故わざわざ『ッス』を付け足したのだろう。
「わ、わかりません」
わかる訳がない。
「オメェ、ヘルヴィアさんと同じパーティ組んでるそうじゃないッスか」
「は、はあ、それがどうかしましたか?」
「お前は、その…………」
急にクィユッスの歯切れが悪くなった。ゴニョゴニョと何か言いたそうにしている。
「えーっと、その、おまえは………………」
「?」
「ヘルヴィアさんと、その、お前はどんな関係なんスか!?」
意を決したように、クィユッスが顔を上げ、ロルビスに問い詰める。ものすごい剣幕だった。
「……………………。 ははぁ〜ん」
その理由がわかった時、ロルビスは意地の悪い笑みを浮かべた。
「お、おい! なんで笑ってるッスか!?」
「いえいえ。青春ですねー」
「はぁ!? 違うッス! 全然そんなんじゃないッス!」
「まぁまぁ、過剰な否定は肯定と同じですよ」
そう言われるとクィユッスは、ぐっ、と黙った。
「ま、俺とヘルヴィアさんは特に恋愛関係とかじゃありませんのでご安心ください」
「そ、そうなのか! よかっ────って、別にそんなこと訊いてないッス!」
今、絶対『よかった』と言おうとしたのだろうが、指摘しないであげよう。人の恋愛は遠巻きに眺めるのが一番だ。
「それと、そろそろ離してもらっていいですか?」
「あ、すみませんッス」
「あと装備を買いたいです」
「ホントにスンマセンッス!」
クィユッスは頭を下げると、大急ぎで店に戻っていった。
遅れてロルビスも店に戻ると、先程ロルビスが買おうとしていた鎖帷子と革製の籠手と脛当てをクィユッスは勘定していた。
ちなみに、ドワーフのオジサンはまだ剣を研いでいる。
「えっと、全部で金貨四枚ッス!」
言われてロルビスは金貨を大袋からぴったし四枚取り出す。
「四枚、ちょうど頂戴いたしますッス」
購入完了。これ着ければロルビスは、より冒険者らしくなるだろう。
新しい武具やお宝を見つけた時ほどテンションが上がるものはない、とユーミラが言っていたが、確かにその通りだとロルビスは思った。
「あ、あの、それだけ………ッスか?」
「はい?」
言葉の意味をわかりかねたロルビスは首を傾げる。
「それだけというのは?」
「鎖帷子の上から何か着込むんスか?」
「いえ、そのつもりはありませんが」
「鎖帷子だけって、キラキラして結構目立つッスよ? 普通の冒険者なら鎖帷子の上に鎧とか着込む人が多いッス」
「へぇ、そうなんですか」
確かに鎖帷子、革製の籠手に脛当て、これだけだと少し変かもしれない。
鎖帷子に合わせて革鎧も着けるべきか。いや、革鎧はああ見えて割と重い。身体強化を使えば何も問題はないが、ぶっちゃけ革鎧など気休め程度だ。ならいっそ着けなくてもいいだろう。
それに、革鎧は意外と高い。手間がそれなりにかかるらしく、品質によっては高価なものが多かった。
「じゃあ、これとかどうッスか?」
しばらくうんうんと唸っているとクィユッスが何かを持って来た。
「これは?」
「親方がどっかの行商人から買い取ったヤツらしいッス」
それは、群青色のコートだった。
触ってみると生地が薄からず、かと言って厚からず。普段から着られるし、肌寒い日には防寒具としても使えるだろう丁度良い厚さだった。
サイズはやや大きめだが、ロルビスの身長は平均より高いうえ、鎖帷子と籠手と脛当ての上から着るので問題ない。
「よし、これ買います。いくらですか?」
「あ、お代はいいッス。迷惑かけたんで、これはそのお詫びッス」
「いや、そういう訳にはいきませんよ。というか、勝手にそんなことしていいんですか?」
「お代はオレの給料から引いとくッス」
「いやいやいや」
その後、お互いの主張は平行線へ突入する。
結局、話し合いが『割り勘』で落ち着いたのはそれから10分後のことだった。
「ありがとうございましたッスゥ〜」
ロルビスが扉を開けると、チリリーン、と入ってきた時と同様の音を鳴らした。
クィユッスはそれを見送ると店のいつもの定位置に着く。
後ろからはまだ剣を研ぐ音が聞こえてくる。
「…………………」
「…………………………………………………………………………んがっ」
がくん、とドワーフの頭が揺れた。
「あ、起きた。親方、また居眠りしてたッスよ?」
「お、あ、あぁ。またか。すまん」
ドワーフのオジサンは素直に謝った。
「まったく…… 客が来たことにも気づかなかったんスか?」
「え、そ、そうなのか? 確かに誰か来たような気がしたんだが……… いやぁ、悪い事したなぁ」
そう言ってドワーフのオジサンは後頭部を申し訳なさそうにポリポリとかいた。
ダラダラの日常がこの後も少し続くと思いますが、日常回も面白くなるよう頑張ります。
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