19話 予告状
「はぁ!? 魔族に襲われたぁ!?」
「姉さん、声デカイ」
クレナの叫びが部屋中に響き渡った。
ここはクレナの学校の校長室。朝一番にロルビスはクレナに話があると言ってここに来た。
「そ、それっ、騎士団とか自警団にでも報告しなさいよ!」
クレナがずいっと身を乗り出す。
「いや行ったんだよ。そしたら『魔族がこの国にいるわけないだろう!』ってさ」
一瞬キョトンとした顔になると、ハァ〜、と深いため息をついてクレナは椅子に座り直した。
「それって見間違いじゃないんでしょうね?」
「あの姿を見間違いで済ませるのは無理があるよ」
人型から生えたあの翼、鉤爪。そしてロルビスの腕に刻まれた傷が何よりの証拠だ。
「そう………」
クレナは再びため息をつく。
「疑わないの? 俺が嘘ついてるって」
「弟を疑う姉がどこにいるのよ」
「探せばいると思う」
めちゃくちゃ姉弟仲が悪い人とか。
「それもそうね」
「あ、納得するんだ」
「世の中は綺麗事だけじゃないのよ。ついこないだ、弟を殺して姉が逃亡する事件が起きたばっかだし」
「うわ、そんな事件起きてんだ」
クレナとそんな関係にはなりたくないものだ。ペチャンコに潰されて死体すら残らない可能性もある。
「誰が『プレス女』ですって?」
「俺何も言ってないけど!?」
たしかにペチャンコに押し潰されるかもしれないとは思ったけど、プレス女とは思ってない。
「そ、それより姉さん! これからの授業はどうするのっ? 今までどおりにやるのかな!?」
「まぁ、魔族のことを言っても信憑性がないし、今までどおりでしょうね」
話題をそらすことに成功したようだ。だがクレナのジト目は未だロルビスを睨んでいる。
「じゃっ! 授業は今まで通りということで!」
ロルビスは早々に話題を断ち切って席を立った。
「あ、そうだ。姉さん、この国の地図ってないの?」
ロルビスは足を止めてクレナを振り返る。クレナは「う〜ん」と顎に手を当てて考え込む。
「言われてみればなないわね。なんでかしら?」
「……………」
今度はロルビスが考え込む番だった。腕を組み、目をつぶる。
「ロル?」
「………うん、ちょっと出かけてくる」
「へ? ちょ、ロル?」
ロルビスは校長室を出て後手に扉を閉めるとその場をあとにした。
□ □ □ □ □
ガヤガヤとした喧騒。笑顔で道をゆく人々。こういうのを活気のある国と言うのだろう。
つい先日に塔の崩壊事件があったが、人々の顔に不安がにじむことはない。これも現国王の人望あってこそ。
ロルビスはペンと紙を左手に、屋台で買った肉の串焼きを右手に持って街道を歩いていた。
「これ、けっこう美味いな」
程よくのった柔らかい脂身。パリッとした皮。そしてかかっている甘いタレがなんとも。
「また後で買いに行こう」
屋台の人が気前のいいおじちゃんだったし、まけてくれるかもしれない。
「っと、いけないいけない」
うっかり目的を忘れるところだった。
ロルビスは食べ終えた串焼きの串をペキリとへし折ってゴミ箱に捨てると、持っていた紙とペンを握る。
風にあおられてヒラヒラと紙が揺れる。下敷きが何か持ってくればよかった、と少し反省。
だが今更そんなことを気にしても仕方ないのでヒラヒラと揺れる紙に苦労しつつ、今歩いてきた道を書いていく。
地図作成者の知識なんて無いが、まあなんとかなるだろう。
「えっと、ここがこうなっていて…… うわめっちゃ入り組んでる……」
しばらく道を記しているうちに、いつの間にかここら辺の主要な道はだいたい終わってしまった。残りは裏路地などの狭い場所だけだ。
この前みたいに魔族に襲われないよね、と思いつつ裏路地に足を踏み入れる。途端に主街道に比べて影の薄暗さが際立った。
何も襲ってくるのは魔族とは限らない。
強盗、ならず者、町のチンピラなど、見るからにヒョロそうなロルビスは真っ先に狙われるだろう。
ロルビスは周囲を警戒しながら、慎重に、道を記していく。
所々かなり入り組んでいる場所もあるので、時には屋根を飛び越え、ズレのないように正確に書いていく。
「よし、この辺りもだいたい終わったな」
ロルビスは両足を身体強化。三階建ての一軒家を飛び越えて向こう側に着地する。
スタッと最低限の着地音。無論、ロルビスの足に支障はない。
ロルビスは地図作成の続きをするために立ち上がる。手に持ったペンと紙の感触を確かめながら裏路地を曲がったその時、ドンッと誰かにぶつかった。
「あ、すみません」
「ふん、どこを見て歩いて……… なっ!? お、お前!」
「ん? あ」
ロルビスがぶつかったのはいつぞやのイケメン魔法使いだった。
「あー、あなたは……えーっと、クールさんでしたっけ?」
「違う! そんな涼しそうな名前じゃない! ルークだ、ルーク!」
「あ、そうそうルークさん。こんなところで何してるんですか?」
「………………………………ふっ、お前などに言うことではない」
「なるほど。迷ったんですね」
「まだ僕は何も言っていないぞ!?」
この人面白いな、とロルビスは思った。
「それより、お前こそ何をしているんだ? というか、その手に持っているモノはなんだ?」
「ああ、これですか」
「ハッ、もしかしてそれは!」
ガシッ、とルークがロルビスの腕を掴んで紙を隅から隅まで見る。
「こ、これはもしかして地図か!?」
「あ、いえ、それは───」
「地図なんだな!?」
ルークはロルビスから紙を奪い取るとはしゃぎだす。
「やっぱり迷ってたんですね」
「…………」
ルークは顔をそらした。そこまで誤魔化さなくてもいいだろうに。
「ま、まあ、いい。これは貰っていくぞ」
「いえ、それは困ります。まだ完成してませんし。持ってんじゃなくて憶えていってください」
「…………わかった。ならそれを寄越せ」
意外とアッサリ承諾したルークは食い入るように紙を見つめ始める。
「あ、そういえばあの塔のことは何か知ってますか?」
「塔? ああ、あの崩れた塔か。さあ、特には知らないな」
「そうですか」
「あ、だが」
ルークが顔を上げてロルビスの方をを見る。
「予告状が届いたそうだ」
「予告状?」
「ああ。今夜、街の中心に建っている時計塔を壊す、ってね。塔を壊したのも予告状を出したやつの仕業だと騎士団も見てるそうだ。まあ、僕には関係ない」
「それは、本当ですか?」
「嘘をついてどうする。今夜は時計塔に誰も近づかないように騎士団が呼びかけてるだろうさ。───って、ああ、もう! 覚えたいのに覚えられないじゃないか! 話しかけるな!」
ルークはそう言うとそれっきり黙ってしまった。覚えるのに必死なのだろう。
(なぜ時計塔を? しかもこのタイミングで。それにあそこは位置的に……………)
もし仮に塔を壊したのと予告状を出した者が同一人物だとすると、なぜ塔を壊す時には予告状を出さなかったのか。
いや、そもそもなぜ壊すのか。犯人の目的は一体なんだ?
「────い。おい!」
「あ、はい。なんでしょう」
「だいたい覚えた。これは返す」
ぐいっ、とロルビスの胸に紙を押し付けるとルークは去ってしまった。本当に自己中なヤツだ。
「今夜………」
既に太陽ほ傾いて夕方だ。予告状に時間は記されてなかったが、太陽が沈んだ瞬間に時計塔を壊す可能性もある。
「早くこれを完成させよう」
ロルビスは半分以上隠れてしまった太陽を見つめながらつぶやいた。
本文はまだ上手く書けるのですがタイトルとか考えるのが難しいです。何か別の良いタイトルあったら教えて下さい。
評価、よろしくお願いします!




