18話 襲撃
「どうしよう、迷った………」
ポツリとロルビスは裏路地の暗闇でつぶやいた。
太陽が沈んでからだいぶ時間が経っている。既に辺りは暗くなり、深夜の時間帯に突入しようとしていた。
「ここ、どこだよ………」
ロルビスは現在、道に迷っていた。
この暗闇と無駄に入り組んだ道も相まってさながら迷路のようだ。こんな迷路みたいな道だったら当然迷う。
「はぁ…… 素直にエリー先生に案内してもらえばよかった………」
ロルビスの頭の中であの会話が再生される。思い返すだけでとても恥ずかしくなってくる。
時は少し遡る。瓦礫の撤去作業もつつがなく終わり、夜の帳が降り始めた頃、ロルビスはエリーに話しかけられた。
「ロルビス先生はどこに住んでいるんですか?」
「家は持ってないんで宿屋に泊まっています」
「大丈夫ですか? ここら辺は道が入り組んでて迷いやすいですけど」
「ええ、まあ、たぶん大丈夫ですよ」
ちなみにユーミラは依頼の報告をしに一足先に帰っている。ユーミラに案内は頼めない。
ここから魔法学校までの道のりへわかっているので、少し遠回りになるが学校を経由して宿屋に行けば帰れるだろう。
「そうですか、では明日学校で」
「はい、また明日」
と、爽やかに別れたのだ。一人で帰れるから大丈夫だと言ったのだ。なのに──
「迷った…………」
ダサい。最っ高にカッコ悪い。明日学校でどんな顔してエリーに会えばいいのだ。
夜中に一人でいることがこんなに心細いとは。
「それにしても……」
この道、凄く通りづらい!
裏路地の人目につきにくい場所とあって『そういうお店』がたくさん並んでいる。ピンク色に妖しく光る灯りが店内にいる人のなんとも艶めかしいシルエットを浮かび上がらせるのだ!
「ハァ〜イ、お兄さんカッコイイわね〜。寄ってかな〜い?」
「い、いえ、結構です〜……」
お色気ムンムンのお姉さんのお誘いを断って他の店の目に付けられないようにそそくさと歩く。
ああゆう店に入ったらなんかもう元に戻れない気がした。
しばらく歩いていると、少しだけ広い道に出た。先程までのような入り組んだ路地ではない。灯りもピンク色ではなく、量産型魔具『電球』の光だ。
ようやくちゃんとした道に出れたことにロルビスは安堵する。このまま進めばメインストリートに出れそうだ。
ロルビスは灯りが一番多い方向に向かって歩き出した。
そして、ロルビスの動きに合わせるように物陰に潜んでいた者達も動き出した。
(………………尾けられてるな)
尾行されるようなことをした覚えはないのだが。
気づいたことに気付かれないように今までと変わらず、ゆったりとしたペースで歩く。
ロルビスは裏路地に迷い込んだ時点で既に尾行に気づいていた。
気配や殺気などで気づいたわけではない。そんな曖昧のものを感じ取れるほどロルビスの直感は冴えていない。
シンプルに、身体強化の『聴力強化』を使っただけだ。『聴力強化』によって強化されたロルビスの耳は尾行者の立てる僅かな衣擦れや足音すらも聞き取る事ができた。
追跡者は二人。一人は足音がほとんど聞こえないので体重の軽い者、おそらく女だ。
もう一人はかなりの大男のようだ。『聴力強化』を使ってなければ聞こえないだろうが、女と比べると足音が大きい。ズシリと重みのある歩き方だ。
金が目的のチンピラにしては随分と慎重な動きをしている。一体何者だ?
「撒けるかな?」
アヴウェノシアは宿屋に置いてきている。魔法のみでは少々不利か。
ロルビスは歩きながら魔力を操作、両足に魔力を込める。
道が分岐に差し掛かったところで、ロルビスは全力で走り出した。
常人なら目にも留まらぬスピードで暗闇を駆け抜ける。周りの建物が次々とロルビスの後ろへと流れていった。
が、一筋縄ではいかないようだ。二人はしっかりとロルビスについてきていた。
尾行に気付かれて焦ったのか、それとも足音を消す必要はないと判断したのか、大男はドシドシと地を響かせんばかりに道を走ってきた。
巨体だというのに意外と速い。このままだと追いつかれそうだ。
「撒くのは無理か」
ロルビスは意識を「逃走」から「戦闘」に切り替えた。
2対1。
人数では不利だが、手数の多さで押し切る。魔法陣を描くため、体内の魔力をかき集める。
虚空で淡く光る魔力。ロルビスはその光を形にしようとした、その時、ヒュッと何かが空を切る音がした。
ロルビスは咄嗟に魔法陣を描くのを中断。身体をひねって頭をそらす。
先程までロルビスの頭があった場所を何かが横切る。そして『カッ』と壁に刺さった。
それは黒光りするナイフのようなものだった。
顔を上げれば屋根の上に人影が見える。この暗器を投げたのはヤツだろう。
身体をピッタリとした黒色のスーツで覆っている。おかげで身体の凹凸から女だと判断できた。
────ヒュヒュヒュヒュッ!!
再び暗器がロルビスめがけて投擲される。
ロルビスは風魔法で障壁を作って黒ナイフを防ぐ。やはり風魔法は応用性が高くていい。
ロルビスが虚空に魔法陣を描いている間に大男が突っ込んできた。
繰り出される拳。それを身体強化した腕で迎え撃つ。
バン! と拳と拳の衝突だというのに炸裂音が響いた。踏み込んだロルビスの足が地面にめり込む。
「ぐっ……おっ!」
体格でも、力でも、相手に部がある。数秒ほど拮抗していたが少しづつ押され始める。
ロルビスは押し切られる前にスッと身体を引いた。ぐらり、とロルビスが一歩引いたことで大男がよろめく。
その隙にロルビスは男の顔前に魔法陣を描いた。
ゴオッ、と紅い炎が吹き出し、大男の顔を焼く───寸前で大男はバックステップ。ロルビスから一気に距離をとった。そして大男と入れ替わるように暗器が飛んでくる。
ロルビスは再び魔法陣を描き、風で飛んできたナイフを弾いた。
(あの黒色のナイフは厄介だな……)
この闇の中、どこからともなく飛来する黒ナイフ。見づらい上、狙いが正確だ。
そして、おそらく毒が塗ってある。ナイフは最初からロルビスの足や背中など守りづらい所を狙って飛んできていた。まるで掠りさえすればいいかのように。
「なら、まずは貴方からですね」
あのナイフが少しでも当たれば、それで終わり。
ロルビスはあの大男ではなく、女を先に倒すことにした。
女も狙いがこっちに切り替わったの覚ったのか、その場からすぐ移動した。
そのまま闇に紛れるつもりだろうが、そうはさせない。ロルビスは両足を身体強化。魔法で大男を牽制しながら壁を駆け上がって屋根に登る。
駆け上がりざま、逃げるために背を向けていた女に魔法を叩き込む。
虚空に描かれた魔法陣は2つ。まず1つ目から炎が吹き出し、2つ目から出てきた風が炎を追い上げる。
燃え上がる炎は一回り大きくなって女に襲いかかった。
「─────ッッ!!」
女は横に跳ね、屋根の上をゴロゴロと転がってロルビスの魔法を無理矢理回避した。
そこへ追い打ちをかけるように、上空から電雷が矢と化して落ちてくる。
「なッ!? ぐあああああぁぁぁぁぁぁぁ!?」
雷撃をまともに食らった女は苦悶の叫びを上げながら倒れた。ロルビスの魔法はそこまで威力はないから死んではいないだろう。
少し遅れて大男が屋根に屋根に上がってきた。跳躍の勢いを利用して上からロルビスの脳天目掛けて拳が振り下ろされる。
この攻撃は受け切れないのでバックステップをして回避、大男から距離を取った。バコンッと大男の拳が屋根に穴を開ける。
「さてと………」
ここからどうするか。
大男の攻撃は躱せないほどではない。魔法と身体強化を組み合わせれば対応可能だ。
だがロルビスの魔法の威力は低く、身体強化は相手の方が上。つまり、決め手に欠ける。
なら攻撃力の低いロルビスが狙うのは相手の『弱点』、頭部だ。
「よしっ!」
やるべきことはハッキリした。
まず、ロルビスは魔法陣を描いた。だがそれは相手に向けるためのものではなく、自分の“後ろ”に。
数は5つ。放たれる魔法の進路上に、ロルビスは立つ。
魔法陣から放たれたのは風だった。放たれた風はロルビスを押し上げ、飛ばす。
それと同時に、ロルビスは足裏から魔力を放出。風の力も合わせて、猛スピードの弾丸と化す。
ロルビスは今までにないほどの速度で、大男に突っ込んだ。
「─────ッ!」
大男はあまりの速度に一瞬怯んだ。だがすぐに冷静さを取り戻し、回避行動に移る。
渾身のロルビスの体当たりは、アッサリ躱された。体当たりが空振りに終わったロルビスは勢い止まらず、そのまま屋根の上を進む。
大男がその隙を逃すはずもない。体当たりの姿勢のまま、無防備なロルビス。その背中に拳を叩き込もうとして、
ドドドドンッ! と四連続で背中に強い衝撃を受けた。
「──ぐっ、がっ!?」
大男は後ろを振り返る。しかしそこには誰もいない。何かあるとすれば、少し離れた所にある魔法陣。
その魔法陣はもう役目を終えたと言わんばかりに消えていった。
最初から、これが狙いだった。
ロルビスは魔法陣を5つ描いたが、そのうち発動したのはたった1つ。残りの魔法陣は、あえて成立させなかった。
体当たりが躱されることなど、あらかじめ想定済み。
ロルビスが体当たりをし、魔法陣から注意をそらす。そして魔力の遠隔操作でその場に残っていた魔法陣を完成させる。
もし大男が避けず、ロルビスの体当たりを受け止めていたらもっと違う結果になっていただろう。捨て身とも言える特攻だった。
もろに魔法を背中から食らって、大男がよろめく。
ロルビスは大男に駆け寄ると身体強化を施した腕で、大男の顔面を殴る。
いくら身体が頑丈だろうと、鼻に強い衝撃を受ければ涙が出るか、気絶する。
急所ならロルビスが身体強化しなくても相手を気絶させられる場所だ。
大男の鼻っ柱を折るつもりでロルビスは拳を叩き込んだ。軽く魔力圧縮放出も使う。
ガンッと確かな手応えも感じた。
だが、大男は倒れなかった。むしろロルビスの腕をガッシリと掴んだ。
「────んなっ!?」
ロルビスは咄嗟に胸部へ全魔力を集中。己の肉体を限界まで強化した。
直後、胸部に走る衝撃。
「かはっ!」
肺が圧迫されて口から空気が漏れる。
ロルビスは顔を苦悶に歪めながら空高く打ち上げられた。
どんどん地面から離れていき、街並みが小さくなっていく。
王国全体が見えるようになってもなお、勢いは止まらなかった。ロルビスは自分の背後に魔法陣を展開、風で勢いを殺す。
ロルビスは上空約百メートルまで打ち上げられた。もし身体強化が使えなかったら死は免れない高さだ。
「た、高い……」
切羽詰まっていてわからなかったが、気づいてみるとけっこう高かった。
ロルビスは足元に魔法陣を描いて上昇気流を発生させ、ゆっくりと降りながら考える。
(……………なんで)
何故、あの大男は怯まない?
ロルビスの一撃は確かに大男の鼻を打った。なのに、気絶どころか怯みもしない。それではまるで──
その時、バサッバサッと羽ばたく音が聞こえた。それはただの鳥の羽音ではない。
鷹、鷲、それよりももっと巨大な、別の何か。
「この音は……」
ロルビスは振り返る。
目に入ったのは、翼を持った人型の生物。人とは異なる、異形なる生き物。それは、
「魔族………!」
ギラリと翼を持つ魔族の鉤爪が光った。
ロルビスは直感で左腕を盾にする。瞬間、鋭い爪が腕に食い込んだ。
「くっ……!」
ジワリ、と赤い血がにじむ。
ロルビスは魔法陣を翼の魔族の目の前に展開、バンッ! と圧縮した空気を爆発させた。
近距離で空気の爆発を受けたロルビスは地面へ一直線に落ちる。
ロルビスは魔法陣を身体の横に描き、風を生み出した。風で落下方向をずらし、少しでも衝撃を減らす。
地面へ一直線だった軌道が、斜め下に変わる。
ロルビスはそのまま屋根の上に落ちた。「ガタガタガタッ!」とレンガの屋根の上を滑る。
ドカァァァーーーーーン!!
「くはっ………」
どうやら荷馬車の上に落ちたようだ。幸い、骨折もしていない。
フラフラと立ち上がって荷馬車から下りる。
「あ、あのっ、大丈夫ですか?」
「え? ああ、大丈夫です。問題ありません」
周りを見ればかなり注目を集めていた。人が空から降ってくればそれも当たり前か。
「魔族に襲われた、って言っても信じてくれないだろうな………」
ロルビスは親切な通りがかりの人の手当を受けながらつぶやいた。
書くのに少し時間がかかりました。
小説書くのって難しいですね。
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