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16話 修羅場(?)

気まずい。「ズーン……」と効果音が聞こえてきそうな程、空気が重かった。

出来れば今すぐここから逃げ出したいが、それは叶わない。

今、この重い空気を作った原因はロルビスにあるのだから。

「…………」

「…………」

クレナとユーミラが睨み合う。

それだけで物理的にも精神的にも、プレッシャーが押し寄せてくる。

「ね、姉さん…… 迷惑だから帰──」

「アンタは黙ってなさい」

「はい……」

部屋の隅でおとなしく縮こまる。ロルビスにこの場で発言する権利はないようだ。

時を遡ること数分前、クレナはロルビスからあらかじめユーミラに聞いていた宿の場所を聞き出すとそこへ直行。

開口一番で「うちの弟を返してもらうわ」と言った。

そして今に至る。

「今、ロル殿を弟と言ったな。つまりロル殿の姉か?」

「ええ。初めまして、クレナ・クロスよ」

「ユーミラ・ケルナンドだ。よろしく頼む」

二人共ちょー怖い。殺気バチバチ。

こんな時に頼りになりそうなヘルヴィアはいない。今すぐ帰ってきて欲しい。

「よくもうちのロルビスを誑かしてくれたわね」

「誑かす? なんの事だがわからんな。むしろ、私からロル殿に惚れたのだぞ?」

ギロリ、とクレナがこちらを向く。

「いやいやいやいや、俺に矛先を向けないで!」

両手をブンブン振って無罪を主張。しかし効果はイマイチのようだ。

「まぁ、この際どっちでもいいわ」

クレナはそう言ってユーミラに向き直った。

「私の学校は生徒が自分の伸ばしたい部分を伸ばせるようにしているの。でもロルが教えた生徒は魔法陣の授業をやりたいけど教師がいないから授業を受けられない、そうなると苦情が来てしまうわ。うちの売りがなくなってしまう」

「つまり、何が言いたいんだ?」

「ロルは冒険者じゃなくて教師になるべきよ」

「なるほど、だがそうするわけにはいかん。ロル殿ほ私が落とすのだからな」

話しが平行線に突入しそうだ。なんとかしてこの場を収めなければ。

「姉さん!」

「な、なに?」

急に大声を出したからだろうか、クレナが驚いた顔をする。

「俺、教師をやるよ」

「え? そう、なら──」

「でも冒険者もやる!」

「「………は?」」

ピタリと二人の動きが止まり、ロルビスを見つめる。

「ロル殿、私は教師なんてやったことはないのだが……冒険者と掛け持ちできるものなのか?」

「わかりませんが………がんばります!」

「ふーん、後で投げ出したりしないでしょうね?」

「ああ、もちろんだ!」

「そう。なら頑張りなさい」

姉も了承してくれた。よし、これからは教師兼冒険者として頑張るぞ!



  □ □ □ □ □



というわけで翌日。

ロルビスは授業を受ける生徒全員分のプリントを持って教壇に立っていた。

いや早すぎない!? とツッコんだが、ロルビスが代理で授業したのが科目選択の前日だったらしい。

『決めたら即行動』が方針の、この学校は希望する科目を選択したらその翌日から授業を受けることになっている。

ロルビスの授業を選択して生徒は約二十名。ロルビスが教えた生徒の半数以上が選択していた。その中にはなんとあのマリカもいた。

正直、そこまで良い授業をしたつもりはないのに。

そもそも魔法陣を教えるにしても教科書がない。どう教えればいいものか。

クレナはそのあたりの事は全てロルビスに任せているので口出しは一切しない。喜ぶべきか悲しむべきか、少なくとも頼ることはできない。

とりあえず、1から教科書を作るにしてもかなり時間がかかるので教科書の代わりにプリントを配ることにした。

プリントを作る際は、印刷の量産型魔具(アーティファクト)『プリンター』があるので当日の授業内容を一枚にまとめてそれをプリンターにかければいい。

とは言え、いかんせん手書きの、しかも教科書など作った経験のないロルビスが作った物だから随分不格好なものになってしまった。

王族が持つような至高魔具(レガリア)があれば話は別だろうが、贅沢は言えない。

「えー、それじゃあプリントを配るので後ろの人まで回してくださーい」

並んでいる列の人数分にプリントを分け、配っていく。

内容は『魔力発光現象』を利用した魔法陣の描き方。基礎中の基礎だ。

「まずは魔法陣の描き方ですが、皆さん魔力を発光させることはできますか? できない人は素直に挙手してください」

生徒の三分の一ほどが手を上げる。マリカは手を上げてないが、強がりかもしれない。

「できなくても仕方ありません、魔法を行使する時にわざわざ光らせる必要はありませんからね。ですがこの科目では絶対に必要なのでちゃんと習得しましょう」

ロルビスは指先に魔力を集め、光らせる。そしてその光でスッ、と線を描く。

「魔力発光現象を起こす時に重要なのは魔力を一定量以上集め、これに『流れ』を持たせること。まずこれができなきゃ始まりません。少しずつでいいのでやっていきましょう」

生徒達が魔力を集め始める。拙いながらも、なかなか良い出来だ。習得までそう時間はかからないだろう。

その中でも、ロルビスは特に苦戦している生徒に声をかける。

「魔力操作はニガテですか?」

「………っ!」

ビクリとマリカが肩を震わせる。やはりあれは強がりだったようだ。

マリカはロルビスをチラリと見るとすぐに「フンッ」と顔をそらしてしまう。

「それじゃ、落ち着いて、よく見てください」

ロルビスはマリカの後ろに回り、そっと手を掴む。途端、マリカは顔を朱に染めて抗議してくる。

「ふにゃ!? ど、どこを触ってるのよ!」

「集中して。感覚を覚えてください」

己の内側にある魔力を、操り、循環させ、指先まで持ってくる。そしてそこに集中、凝縮させる。

「大事なのは魔力を集め、流れを持たせること。川を想像してください。その川は(はば)は狭いですが、とても深い」

スーッと手を動かす。すると、虚空に一本の線が描かれた。

「今の感覚です。わかりましたか?」

「わ、わかったから! 離っ、しなっ、さい!」

マリカはロルビスの手を振りほどくと再び顔をそらす。箱入りお嬢様っぽいから異性の触れられた経験がないのかもしれない。

悪いことしたなぁ、と思いつつマリカから離れて他の生徒も見に行く。

その際、後ろから「フンッ、意外と簡単じゃないっ」と聞こえてきた。順調そうでなにより。

ロルビスは生徒を一人ひとり見てアドバイスすることにした。

「魔力操作自体は上手く出来ていますよ。あとはもっと魔力を集めてその状態を維持できるようにしましょう」

「はっ、はい!」

「光が少しぼやけています。発光させる部分とさせない部分をしっかり分けましょう」

「わ、わかりましたっ」

その後もちゃんと教えられるか不安だったが、つつがなく授業は終了した。50分の授業時間だが、やってみると意外と短いものだ。

休み時間に入ると緊張が解けて生徒同士で話し始める。先生がこれ以上長居するのは生徒の邪魔だろう、ロルビスは廊下に出た。

「お疲れ様です。ロルビス先生」

「オルガス先生」

廊下に出たところで話しかけてきたのは頭に巻いた大きめのバンダナがチャームポイントのオルガス。通称オルちゃん先生。

体育教師みたいなガッチガチの体だが割と気さくな人で生徒からも慕われている。

「いやぁ、教えるのって大変ですね。特に魔力操作なんかどうも抽象的になってしまいます」

「ええ、わかりますよ。私も最初は上手く教えられませんでした。ところで、いいんですか?」

「はい?」

「生徒達が魔法陣を使えるようになるのか、正直私は半信半疑なんですよ。ロルビス先生ですら習得にかなり時間がかかったそうじゃないですか」

その気持ちはわからないでもない。

魔法陣を描くのに要求される、魔力操作や魔法陣の理解、暗記。生徒が覚えるには少し難しいかもしれない。

でも、それは──

「大丈夫ですよ。彼らには『才能』がありますから」

「才能?」

「ええ。俺には才能がなかったから、千年もかかってしまいました。でも彼らは違う、才能がある。だから俺よりも早く習得できるはずです」

ロルビスにはその確信があった。

何か根拠があるのか、と訊かれても特にない。教師や冒険者と比べると、まだまだ未熟な魔法使いの卵たちだ。

でも、きっとできるようになる。

なにしろ『未熟』ですらなかった、無能であるロルビスができるようになったのだ。きっと出来る。

「そうですか」

荒唐無稽(こうとうむけい)な話しだがオルガスは納得してくれたようだ。ウンウンと頷いてくれている。

「あー、でもやっぱり本職には敵いませんね」

「本職?」

「ええ、俺よりもオルガス先生の方が魔力操作が上手いでしょう。常日頃から魔力を制御してるようですし」

ロルビスがそう言うと、オルガスが驚いた顔をする。

「気づいていたんですか?」

「ええ、本当に僅かですが、魔力が体中を巡っているのを感じ取れます」

「そうですか。隠れて努力していたのがバレるのがこんなに恥ずかしいとは思いませんでしたよ」

アハハ、と苦笑いしながら後頭部を掻く。

それでも傲らないところがまた凄い。男が惚れる男とはこのことか。

「それじゃ、次の授業がありますので───」

ロルビスとしてはもう少し話して親睦を深めたいのだが、忙しいようだ。

回れ右をしてオルガスが歩き出そうとした、その時。


ドガアアアアアァァァァァァン!


と、巨大な何かが崩れる音がした。

ようやくここまで来ました

授業をするところはどうしても書きたかったところです。


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