第16話.銀髪の少女
誤字・脱字にはご容赦下さい
●16.銀髪の少女
生まれてこなければ良かった。
どうしてこんな事になったんだろう。
少女は粗末な馬車の貨車に乗せられて、視界に見える大きな霊峰を眺めながら呟いた。
ここはアステル王国の辺境、西部の町ラサンへ向かう小さな小道。
小道には行き交う馬車なんかは見えず、ただ一面に広がる乾いた荒地が広がる。
ただ馬車は延々と西に向かって続いている小道をゆっくりと進んでいる。
貨車には水を入れた小さな木桶があった。埃っぽい貨車の中で、少女はふと中を覗き見ると桶の底に映っていたのは自分の顔だった。
そういえば自分の顔を最後に見たのはいつだったろうか?
髪はバサバサ、あかぎれのある細い腕で髪をかき上げると、光の無い瞳で自分を見つめる薄汚れた自分の顔があった。
少女はボロボロの粗末な服を着て、その首には光沢のあるタグがついていた。
私は売られた。
親の面影はもうぼんやりとしか覚えていない。
でもその頃の私はもっとまともな服を着ていたと思う。
その頃を思い出す事には私はいつも部屋で一人でいた思い出だ。
たまに会う両親は優しかった。でも私はいつも一人で周りに友達はいなかった。
寂しそうにしていると父親はいつも私の頭を撫でてくれていた。
父と母は研究者で王都の研究所に働いていた。
でもそんな両親は、勤めていた研究所で悪い事していたという理由で、ある時、兵士に捕まった。
そしてその後、すぐに裁判にかけられて二人は街の広場で処刑された。
その後、私の住んでいた家は取り上げられた。
私はその後、遠い親戚の家に私は引き取られたが、犯罪者の子供という事で家畜同然のようなひどい生活を長年させられていた。そんなある時、国の西部に新たな金鉱が発見された。近隣には新しく開拓された街が沢山出来たとか。そんな中、私は商人に買われ、その街の富豪たちに奴隷として売られる事になったのだ。
私の髪は銀色だった。
もう長いこと洗ってなくてくすんでしまっている。
父の髪も銀色だった。でも母は金髪。この国にいる大部分の人たちと同じ。
あとは少数だけど黒色の髪の毛の人や赤毛の人だってこの国にいる。
でも銀色の髪の毛の人間は私と父以外には見たことがない。
幼い頃、父にその事について聞いたことがある。
父のお父さんも銀色の髪だったってこと。父の家系は代々銀色の髪だったらしく、祖父も曾祖父も銀色の髪で元々は遠い国からこの国に来た移民だと言っていた。
明日には商隊最後の目的地のラサンの街に到着する。
しばらくすると開けて乾いた荒地となっていった。夕日が辺りを染めだした。
「おい、降りろ。」
貨車の外から声が掛かった。
私を買った奴隷商人だった。
私は乱暴に腕を引っ張られ貨車から降ろされた。
「今日はここで野営するぞ。」
奴隷商人は連れている二人の護衛と三人の従者に声をかけた。
「積荷はそのままで、さっさと降りろ。おまえはこのランプを持ってろ。」
私はボロボロの毛布とランプを渡され馬車近くで立っている
貨車の中には奴隷である私という商品の他には
ここに来るまで立ち寄った街で仕入れた嗜好品や交易品が積んであった。
三日前に立ち寄った街までは貨車に私の他、ニ人の奴隷もいた。
そんな彼らはもう既に売れてしまった。
今はもう私一人だけ。つまり売れ残りだ。
奴隷とはいえ食べさせる為の食料がいる。売れない奴隷に商品価値は低い。
まして私は力のないガリガリに痩せて薄汚れた子供。背も低い。
豊満で魅力的な女性としての価値は全く無い。しかも髪は銀色。
立ち寄ってきた街で「呪われているガキ」と言われ、私は気持ち悪がられていた。
交易路の西果ての町ラサンに着けば、私が飢え死にする前にきっと二束三文の価格で売り飛ばされるのだろう。
「テントだけでいい。」
商人の従者が貨車からテントだけ卸すと一行は野営の準備を開始した。
そうして次第に辺りは暗くなりはじめ、野営の準備が終わるころには真っ暗だった。
「オオカミが吠えてやがる。縁起でもねえな。ここなら見晴らしもいいし問題ねえだろう。」
従者はぼやくと少女の持っているランプに火を灯した。
この辺りはオオカミや魔物がうろつく。
少女に明かりを持たせて見張りでもやらせるつもりなのだろう。
この辺りでは商隊がオオカミや魔物の群れに襲われる被害もあったりするのだ。
奴隷商人と従者たち一行は小さな焚火を囲い食事を始めた。
スープの匂いがする。当然、少女の分は無い。
幸運にあったとしてもありつけるのはわずかに鍋に残った冷えた残飯ぐらいだろう。
少女は毛布を巻き付けて焚火を見ないようにしながら馬車の周りで空腹に耐えていた。
しばらくすると後ろの方から馬の蹄の音が聞こえてきた。
数はたくさん。その後馬車が大急ぎで掛けてきた。
「盗賊がいるぞー!! 囲まれる前に早く逃げろ!」
大急ぎでキャンプの横を通り過ぎる別の商隊の馬車の御者がこちらに向かって叫んだ。
「なんだと!」
奴隷商人は立ち上がって叫んだ。
キャンプは騒然となった。
奴隷商人と従者と護衛を引き連れて馬車へ乗り込もうとする。
ビュン ビュン ビュン ビュン
ガガガガ
暗闇から矢が飛んできた。
うおおおおおおおおおおおーーーー!
周辺から盗賊たちの雄たけびと馬の蹄の音かが聞こえてきた。
怖い。
「馬車を急いで出せ!」
奴隷商人は叫んだ。
少女も急いで従者へランプを渡し、貨車へ乗り込もうとする。
ドカッ!
少女は先に馬車にのった奴隷商人に貨車から蹴り落された。
「邪魔だ。さっさと馬車を出せ!」
馬車は走り出した。
矢はどんどん飛んでくる。
倒れた少女は離れていく馬車に向かって手を伸ばすも馬車は大急ぎで駆け出していった。
少女はもう絶望で立ち上がることが出来ず、既に見えなくなった馬車の方向の暗闇を小さな手で力いっぱい握こみ、地面を叩き声も出せず泣いた。
しばらくすると
だか、だかだか、だかだかっ
倒れた少女のすぐ横を沢山の馬が通り過ぎていった。
少女は恐ろしさのあまり馬が通り過ぎるまで頭を押さえ蹲りながら震えていた。
そのままにしていると
ずいぶんと先の方に明かりが見えた。何かが燃えている様だった。
いやだ。死にたくない!
少女はよたよたと立ち上がり。
なにも考えずに暗闇に向かって走り出した。
どれだけ歩いただろうか。
真っ暗な暗闇の中を恐怖に囚われながらただひたすら。
空が次第に次第に白じんで来た時、疲れ果てた少女はようやく襲撃から生き残った事が分かった。
此処がどこかも分からない。
馬車の通る街道すらどこにあるのかも分からなかった。
少女はその後一日彷徨い歩き続けた。
ヨロヨロと亡者のように歩いているとやがて目の前には谷がありその下には川が流れていた。
「み、水・・・・」
少女は斜面をころげ落ちるように下り
這いながら水辺にたどり着いた。
体中擦り傷と埃まみれ。
ひとしきり水を飲んだ後、少女は疲れ果てその場で意識を失った。
有難うございます




