08 空飛ぶ円盤同乗記
リスペクト
ジョージ・アダムスキーの『空飛ぶ円盤同乗記』
地上のコンテナ基地には二人しか残していない。
猫の手も借りたい状況だが、無人にする訳にもいかない。
運転担当の部下には、本国への報告後に、折り返しでポイント1へ戻る様に指示した。
エル達がベースキャンプを出て、UFOが来て、穴を貫通させるまでに15時間が掛かった。
が、遺跡からのカプセル搬出は、思いのほか手間どって、18時間も掛かった。
いや、これは遺跡ではなく、宇宙船なのだろう。
彼等は、サンプルカプセルをUFOで引き上げ、地上の穴に隠蔽用の器具をセットする。
以後の捜索を副官に任せて、ベネディクトは現物と共にUFOに同乗して、本国へと報告の為に飛んだ。
幸いにも『お客様』は、遺物に興味津々で、ベネディクトの肉体を詳しく調べようとはしなかった。
ベネディクトにしてみれば、初めて体験する異星の本物の技術に、キョロキョロしていたが、地球人でも同じ行動をするので、許容範囲として見逃されていた。
南極宇宙船の資料と、このUFOの映像を、指環型のデバイスで記録しているが、本来が小さいベネディクト達の器具は、観測機器も小さいので検知される事が少ない。
ついでに、特殊スーツの機能も動いたままなので、ノイズとしてしか関知されないだろう。
一度、成層圏を抜けて、ほぼ宇宙空間を本国へと向かう。
監視衛星の居ないタイミングを見計らい、研究施設の倉庫の屋根が開き、UFOごと収納して閉じる。
倉庫では、宇宙技術に詳しい者が集まっていたが、ベネディクトにしてみれば、役不足に思えた。
ベネディクトは、倉庫外に待機していた車に乗り込み、上司である枢機卿への連絡に向かった。
送迎車中で、自分のセクションに居る部下に連絡を取り、カプセルの解析に参加する様に指示を出す。
「リチャード博士、メールで送った場所に、解析援助に向かってくれ。未知のエイリアンの死体と、コールドスリープカプセルがある。目的は完全な蘇生手順の解明と、エイリアンの延命処置の解明だ。」
「ベネディクト様、マジですか?担いだら細菌兵器をばら蒔きますよ。」
「まだ、上には申請してないから、却下されるかも知れないが、準備しておけ。」
「頑張れ!ベネディクト様。愛してる!」
「神父に変な噂を立てるなよ。」
電話を切った後に、彼は自分の私用車にメールを送る。
先のリチャード博士は、ベネディクトの生体情報隠蔽の為に、脳にコントローラーを埋め込んである。
ベネディクトの私用車からの思考コントロールや、情報提供が可能で、一般には自他共に『時々、素晴らしい発想をする学者』と認識されている。
メカニズムに関しては、ディ達の技術は秀でているが、生物学に関しては、ベネディクト達には及ばない。
リチャードを投入する事で、蘇生の成功率を上げて、南極宇宙船の正しい情報をも入手するのが、ベネディクトの考えだ。
失敗しても、損はない。
前もって、コンテナ基地から連絡を入れていたので、枢機卿との面談は、すぐに叶った。
「お手元の資料の通り、遺跡は大型の宇宙船と思われ、内部への侵入は果たしました。が、技術の解析には時間が掛かると思われます。エイリアン蘇生の可能性も考慮し、コールドスリープカプセルの解析から始めております。」
「ベネディクト神父。これは大発見だぞ。一度に二つのエイリアンと交流を持ったに等しい。これで我々の権威は、一気に大きくなる。」
エイリアン同士が、接触を避けている理由を、ディから聞いていたベネディクトは、枢機卿の興奮が理解出来る。
しかし、実際にディ達の技術と、南極宇宙船の技術とを手に入れるベネディクトこそが、一番の漁夫之利なのだ。
ベネディクトは、笑いを堪えるのに必死だった。
リチャードの名声が、けっこう知れ渡っていたのか、枢機卿が思いっきり乗り気だったのか、リチャードの投入や、多くの機材の追加導入も、すんなり通った。
ベネディクトはリチャードにメールで連絡を入れ、自分のセクションに戻って、南極で必要になるであろう調査器具を用意する。
あまり、沢山は積めない。
機材を、スポーツバッグ二つに詰め込み、職場の近くに止めてある私用車に乗り込むと、先ずは軌道上の中継ステーションと情報交換をする。
「まだ、エクソダスの気配は無いか。」
ステーションでも、他者の動向を探っている。
天文学的にも、異常は無い。
ベネディクトは、私用車でUFOとリチャードの待つ研究所へと向かう。
表向きは、UFOで南極へ戻る為と人員の節約だが、私用車を使う本当の目的は、リチャードとの通信を確保する為だ。
研究所の地下駐車場に車を停めて、リチャードとのリンクを確認する。
「後は任せたぞ。」
[了解しました。リチャードの生物学的知識を地球基準でバックアップします。]
私用車に確認をとってから、ベネディクトはスポーツバッグを二つ持って、研究所内へと向かった。
エイリアンのエルが見守る中、別のエイリアンが、カプセルを解体しはじめていた。
別室でリチャードが、ミイラ化した死体をCTスキャンにかけている。
横には、エアロックで見つけた腐乱死体も並んでいる。
ベネディクトは、進行状況を見ながら、エルに声をかけた。
「エルさんは、技術解析をしないのですか?」
「私の専門分野は、別のものなので。」
「もし、可能であれば、南極に戻りたいと思うのですが?」
「そうですね。向こうの状況も気になりますね。」
明らかに、手持ち無沙汰な様子だったエルに、声をかけたのは、間違いではなかった。
「ベネディクトさん。荷物が増えましたか?」
「はい。向こうの状況を見て、必要だと思える物を、追加で持ってきました。」
UFOに乗り込む時に、荷物の事に、文句を言われた。
地球制の器具は、メモリーなどが常に通電しているので、エイリアンの機械にはノイズとして観測される。
ベネディクトは知らなかったふりをして、申し訳ないと頭を下げるが、勿論、嘘であった。
彼は、エル達のUFOを、より調査する為に、わざとノイズの出やすい地球の機器を選んでいる。
当然、ベネディクトの星の探査装置には、それらのノイズを事前に登録しており、逆に利用すらして、UFOの情報を集める様に調整されている。
エル達が地球に与えた技術と、これらの探査データを照合すれば、彼等の技術が多く入手できるのである。
ベネディクトが頭を下げる位は、安い物だった。
そうしながら、更なる異星人の技術を入手しに、ベネディクトは南極へと飛んだ。