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06 出張

二大大国が、テルツット・アーの襲撃を受けた様だ。


テルツット・アーの事件が起きてから、ベネディクトの居るセクションでもエイリアンの出入りが多くなった。


その度に、ビクビクするベネディクトだが、ついに、枢機卿から決定的な辞令が下った。


「ベネディクト神父。調査隊と一緒にイタリアのマリオ・ズッケリ基地へ行ってくれないか?」

「マリオ・ズッケリ基地ですか?聞かない名ですけど、イタリアの、どの辺りですか?」


イタリアならは、そんなに遠くは無い。

車で行ける範囲だ。


「いや、南極大陸だ。」

「なっ、南極ですかぁ?」


南極大陸には、複数の国の40以上の南極地域観測隊基地が存在する。

その目的は、天文・気象・地質・生物学の観測と様々だ。


マリオ・ズッケリ基地は、そんな基地の一つだった。


「調査隊には、彼等も同行する。」


そう、紹介されてドアから出てきたのは、ホールで時々見掛ける彼等だった。

腕時計の辺りが、チクチク痛む。


「失礼ですが、こちらの方々は?」


ベネディクトは、面識は無いので、知らない振りをする。


「君の部所なら詳しいだろう。宇宙からのお客様で、我々の協力者だ。」

「そうなんですか。私の立場だと、面識はないもので。はじめまして、ベネディクト・ホランドと言います。」


そういった習慣がないのを知っていて、白々しく握手の手を出したが、アッサリ握られて、対応されてしまった。

ベネディクトは驚いた表情を出さない様に、注意した。


「はじめまして。ディとお呼び下さい。」

「私は、エルと呼んでください。慣れない習慣も有るので、よろしくお願いします。」


二人のエイリアンは、外観的には問題が無いが、ボロが出た時のサポートに、ベネディクトが選ばれたのだろう。


確かに、妥当な人選ではあるが、他にも居るだろうと思わずにはいられない。


『私用車を持っていけないじゃないか!』と、文句も言えないベネディクトだった。


「猊下。出発前に、お時間は頂けますか?南極で調査となると、一年以上留守になると聞いておりますので。」


移動時間も入れての話だろうが、下手をすれば二年越しになるとも聞いている。


「そなたは、その地位にあっても、孤児院などへの奉仕を怠らないと聞いている。素晴らしき事だ。儂からも予算を出してやろう。」

「御気遣いに感謝致します。」


枢機卿は、エイリアンの方をチラリと見て。


「実際には、現地に行ったと言う既成事実が必要なだけで、必要があれば、彼等の乗り物で帰ってこられるのだがな。」

「では、他の隊員は、私の部下の方がよろしいでしょう。機密厳守もお客様との対応も、心得ておりますので。」

「調査員などは、お前に任せる。」


枢機卿の許可も得て、ベネディクトは調査中の、自分の地位を確保した。


調査隊を組むのは、渡航記録も無いのに、いきなり調査隊が居ては、明らかに不審なので、行き帰りの行程だけは演じておこうと言う話なのだろう。

隠蔽工作をしても、何かの拍子に露見するかも知れない。

衛星写真も馬鹿にならないのだ。


「で、南極まで、お客様と何の調査に行けと?」


枢機卿が目配せをして、エイリアンの一人が、写真を出してきた。


「南極の氷の下から、古代のエイリアンの物らしい施設が、発見されたのですよ。」


古代とは言え、異星人の技術を解析できるチャンスに、ベネディクトは目を見張った。



◆◆◆◆◆



南極大陸へ行くには、南アメリカ、オーストラリア、南アフリカのいずれかまで飛行機で行き、船で向かう。

南極到着後に船からヘリコプターで基地まで移動したり、物資を運ぶのである。

ヘリでの移動は、夏に限られるので、北半球を発つのは、秋頃になる。


実際に、時間をかけて渡航するのは、ベネディクト達だけで、エイリアン達は現地集合となる。

調査現場に、部外者の訪問があっても、人数が一人二人増えても、判る筈がないからだ。


偽装の為の手間を負担するので、現地から本国までのエイリアンクラフトによる一時帰国の許可も貰った。

末端仕事の多い部下には、初めてのUFO同乗に、希望者が増えるだろう。


マリオ・ズッケリ基地とは別に、地質調査拠点があり、そこのコンテナ基地に追加のコンテナ基地と資材を運んで調査する段取りになっている。


実際の調査は、エイリアンが主体だが、地球側にも恩恵が有って然るべきとの事で、エイリアン技術の技術者と諜報部のベネディクト達が同行する事となった。


多少は荒事にも慣れているベネディクトの部下達であったが、船酔いと南極周辺の回流の揺れと砕氷航行で、到着時には心が死んでいた。


地質調査拠点の人員は、案内人を除いて退去しており、既存施設の説明と引継ぎが終わり次第、マリオ・ズッケリ基地へと帰る手筈になっている。

比較的元気な部下三人に引き継ぎを任せ、残りの人員は休憩を取る事にした。


流石のベネディクトも、体調不良が制御の限界を超えており、ダウンしている。


数時間後に、雪上車の音で彼は目覚めた。

案内人が立ち去った様だ。


新コンテナ基地の状況をチエックリストで確認しながら、起きてきた部下に指示を与えると、ベネディクトは通信装置でエイリアンとの交信をする。


このコンテナは、エイリアン技術を導入しているので、大きさのわりに高性能だ。

加えて、エイリアンクラフトでの往き来が出来るので、資材の問題も少ない。

飲料水などは、雪を溶かさなくても、自動生成してくれる。


皆で食堂に集り、お茶を飲んでいると、アラームが鳴った。

エイリアンクラフトが、コンテナ基地の上に到着したようだ。

勿論、迷彩処置をしているので、肉眼では見えない。


「ようこそ。早い到着でしたね。」


ベネディクトが迎えに行き、会議室に集合して行程確認をする。


「まずは、見に行って見ませんか?」


エイリアン達の期待は理解できる。

船での移動中に、資料は頭にはいっているので問題は無いが、無理して部下を失うのは、無能な上司だ。

エイリアン達とは到着までの負担が違う。


「申し訳ないが、部下達の体調が万全ではありません。明日にお願い出来ませんか?」


部下達の疲労具合いを見て、彼等も渋々と承諾した。




さて、翌朝には薬も効いて、問題の無い程度には動ける様になった部下達を連れて、地質調査の坑道へと向かう。


エイリアン技術の詰まった特殊スーツに身を包み、格好だけの防寒着を羽織る。


外見だけ雪上車モドキの電動車に乗り込むと、基地に隣接した岩盤むき出しのトンネルへと進む。


降下角度30度程の下り坂トンネルをひたすら下る。

途中で幾つもの脇道や折り返しが有るのは、坑山などと変わりがない。

ゴーグルの補正機能が無ければ、ライトに映る氷の白と、岩石の黒に、目がチカチカするだろう。


電動車には、坑道の立体図付きのナビが付いているが、坑道の天井にペンキでラインが書かれて居るので、見なくても問題は無い。


むしろ、危険なのは、坑道の狭さと車両間隔だ。


近より過ぎてはラインが見えず、しかし下り坂では速度が出やすい。


「目的地まで、直線でも三百キロ。行程だと五百キロ近く有りますから、時間がかかりますよ。」

「よくも掘ったものですね。」

「有力候補地が、他国の管轄地でしたからね。深く、秘密裏に行ったらしいですよ。」

「五百キロですか。普通の移動手段だったら、酸欠か充電切れで立ち往生するところですね。」

「我々も技術提供をしたからな。」


部下との会話に、ディが割り込んでくる。


「移動だけで9時間近くかかります。我々は、このスーツが有るから大丈夫ですが、お客様は問題ないですか?」


地球人の着ているスーツは、エイリアン技術が利用されており、宇宙空間でも3日は生存できる。

地下だと、落石や酸欠など問題が多いが、これが有れば不慮の事故でも生存確率を上げられる。


「我々も、スーツを着てはいるが、これくらいの環境なら、スーツ無しでも問題ないですね。」

「へぇーっ。凄いんですね。」


エイリアンは、目的地の環境に合わせて生体改造を行っているのだが、普通の地球人は、知らない。

ベネディクトは、あえて驚いてみせた。


「今回の様な共同技術調査や開発は、宇宙でも盛んなんでしょうなぁ?」

「いや、技術的な接触は避けています。宇宙にも好戦的な種族は居るので、必要以上に技術向上されると困る場合もあるのでね。」

「そうなんですかぁ。」


エイリアンの相方であるエルが、口角を上げて、こちらを見ている。

勝ち誇る行為を覚えたのだろう。

ベネディクトは内心で新参者をアザケり笑った。


三時間置きに休憩と運転手交代を続け、着いた目的地は、大きく複数のブルーシートで覆われていた。


「これが、遺跡か?」


好奇心を抑えられないのか、二人のエイリアンは、何枚かのブルーシートを次々と剥がしてゆく。


露見した、金属製の扉の様な物を横目に、ベネディクト達は機材の荷下ろしと、簡易休憩所の設営をはじめる。


「隊長、彼等が勝手に・・・」

「相手は『お客様』だ。問題が無い範囲で、好きにさせろ。」


勝手に扉を触ったり、削り始めたエイリアン達に憤慨した部下が、口にするが、ベネディクトは宥めた。

本当は、ベネディクトも、地球人達も、さっそく遺跡に触りたいのだが、やるべき事をやっておかないと、後が大変だ。


扉の脇には、横から入ろうと掘削した跡があるが、やはり金属製の壁に阻まれている。


拠点の準備が終わり、機材を持ち出して、地球人は物理的に。エイリアン達は電子的に、扉の解錠を試みるが、上手くはいかない。


「そもそも、これが扉ではないのでは?」

「・・・・」


全体を監督していたベネディクトの言葉に、皆の手が止まる。

ベネディクトの本体にとって、扉とは10センチ径の丸い物だし、10メートル越えの巨人にとっては2メートルクラスの板などボタンに過ぎない。


「さ、流石です隊長。固定概念は、いけませんね。」


調査隊は、扉らしき物の周囲の岩盤や氷を、慎重に剥がして行く。


案の定、扉らしき物の下方に、大きな窪みが見つかり、氷を取り除くと、通路の様になっていた。


「まだまだ、奥に続く様です。隊長のお陰で、無駄な作業が省けそうです。」


そして、ベネディクト達は、本当の扉を開く事となる。


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