02 神父
本編に入ります。
私は、ベネディクト・ホランド。
神父をしている。
「神を信じ、正義を信じ、善なる行いに勉めなさい。主は乗り越えられない試煉を、お与えにはなりません。」
今日も、迷える子羊達に教え説き、教会では定型句の様に使われる言い回しだが、正直に言って理解が出来ない。
この宗教では、神を肯定し、悪しき事には悪魔の関与を仄めかす。
悪魔は、人を誘惑して破滅させたり、神を失望させるのが目的だと言う。
では、この試煉 = 困難な状況に至る原因は、自分か隣人に対する悪魔の誘惑では無いのか?
悪魔が試煉に導いたならば、運命の悪魔は乗り越えられないか自滅の試練しか与えないのではないか?
人に、この試練が、神と悪魔のどちらが与えた物か、見定める事は出来るのか?
少し考えれば判る事だが、中世の身分制度を受け入れさせる為の、この定型句が、今でも使われているのは、教会内でも残っている身分制度の為か?現状を解決できない者の逃げなのか?
あぁ、確か、ヒンズー教にも現世の苦難が、前世/神界での行いの業だと言って、身分制度を受けいれさせる教えがあったと聞いている。
理解に苦しむ。
人間社会で育てば、常識として受け入れる事に、私が疑問を持つのは、人間としての人生より、別の経験が基盤にあるからに他ならない。
別に、異世界からの転生者とかではない。
細胞複製技術を使い、精巧な赤ん坊の肉体を作り、それに潜み、経営状態の良い孤児院の前に放置すると、社会的手続きをして、地球人としての戸籍まで与えられる。
ある年齢までは養育もしてくれる。
本体が、小さい我々だから出来る芸当ではあるが、この方法は、一番バレにくい。
そう。私、ベネディクト・ホランドは、地球人の肉体を持った、純粋なエイリアンだ。
私が育ったホランド孤児院の運営が、宗教団体だった事もあり、成人後の企業就職のあとに、修道士になったのは、同然の流れと言える。
途中で企業に就職したのは、奨学金返済の為だ。
さて、今、私の前で助けを求める子羊は、かつて大国の諜報部員をしていた様で、面白い経験を持っている。
地球人は、他者にストレスの原因に関する事を話し、情報を共有化する事で、孤独感から解放され、ストレス軽減しようとするらしい。
この宗教団体にも、懺悔室があり、罪や迷い事をぶちまけている。
特に、この男の様に、面白い情報を持っている者には、特別な装置を使い、情報を引っ張り出しているが、本人の記憶には残らない。
ただ、スッキリは、するらしい。
「ほぅ、それで、そのホテルで、宇宙人と一緒に、本物の悪霊を見たと?」
「はい。部屋中の装飾品が暴れだし、悪意を持った光が飛び回り、協力者の宇宙人も、かつてない動揺を見せていました。」
この男の素性は調べさせている。
大国の諜報部員だったのは本当で、エイリアン関係の仕事をしていたらしい。
大国の情報部にも、我々の協力者は居るのだ。
一部の、オカルト話しは、エイリアンが関与している。
つまり、大国に協力しているエイリアンよりも上位のエイリアンが、活動を始めた様だ。
かねてより、地球に来訪している大手エイリアンに干渉する存在は知られていたが、こんなにも、大胆に動く事は無かった。
何かの事態が動いているのか?
「まさか、エクソダスを始める頃合なのか?」
「はっ?神父様、何か?」
「いや、何でも無い。」
無駄でも、少し調べさせた方が良いだろう。
懺悔室に特殊なガスを流して、子羊を落ち着かせる。
古くは、香に芥子などの麻薬を混ぜて、ストレス軽減させていたが、昨今は科学薬品を用いている。
その為に、昔から懺悔室は、狭く密閉性が高い。
香やガスに習慣性はあるが、それは宗教への依存と、宗教団体の利益に繋がる。
昔から免罪符は、お金で取り引きされていたのだ。
子羊が帰った後に、配下である特殊部隊に連絡をとる。
俗に言う悪魔祓師だ。
心霊現象と言われる物には、本物と、人為的細工と、低周波音騒音などによる偶発現象と、エイリアンによる物がある。
つまりは科学的測定器と、各分野のエキスパートを動員しなくてはならない。
宗教団体ではあるから、表向きは否定していても、本当はエイリアンの存在を認識して対処しなくてはならないのだ。
「ルーベルトか?あぁ、私だ。モードAで部隊を招集しろ。そうだ。情報は、追って伝える。モードAだ。判ったな?」
大国に協力するエイリアンより上位の存在に、無駄なのはわかっているが、動かない訳にもいかない。
「これは、本星の方にも連絡が必要だな。」
この惑星も、そろそろ潮時なのかも知れない。