1日目 ロンドン時間 15:00〜16:00 ベッドの上で遅めのランチ
ロンドン時間 15:00
スコットとハリエットの二人は、下着だけを身につけ、ベッドの上でピザを食べていた。
「アンドラで行方不明になったわけじゃないのよね」
スコットは頷いた。「聞いた感じだと、ケントはただ、アンドラにいるだけみたいだ。行方不明になった捜査官についての情報を聞かれただけらしい」スコットは、ベジタブルピザを一つ取った。
「最近、ピレネー山脈の麓で行方不明者が続出しているって話がある」ハリエットは、ベッドの上であぐらをかき、ステーキピザのステーキだけを自分の手元に寄せながら言った。
スコットは、ハリエットを見た。「そう言う話はどっから聞くんだ」
「企業秘密ね。女王陛下のおかげとだけ言っておく」ハリエットは、その細長い指で、ステーキをつまみ、その先をかじった。
スコットは、彼女の目を見た。付き合いは先月からだが、人間を見るのは物心ついた頃からだったので、スコットには、ハリエットが何かを考えているのがわかった。「行くの❓」スコットは言った。
ハリエットは、ステーキを噛みながら、考えるように、何処か一点を見ていた。「今考えてる」
スコットは考えた。ハリエットは、天才や秀才、精神異常者など、得意な内面世界を持つ人間や、タダで飲み食いできる場所、美しい景色や芸術品の溢れた場所に惹かれる人だ。美しいピレネー山脈を望めるアンドラ、カルト教団、顔馴染みのケント(タダ食いの可能性)など、この件はハリエットの大好物だらけだろう。
ハリエットは、ステーキを飲み込んだ。「あの国は、フランスの大統領と、スペインの司教が統治してるの……」
スコットは頷きながら考えた。学校はオフラインでも受講できる。この部屋を一時的に貸し出すための手続きをしよう。
ハリエットは、何事かを考えるように宙を見つめながら、独り言を続けた。「先月はフランス政府のために働いてあげたから、フランス政府の助力は望める。新人捜査官の教育っていう名目なら、2、3人は助力を望めるかもしれない。このままフランスとの距離感を縮めていったほうがいいかしら。それか、カトリックと仲良くするのも良いかもしれない。あるいは、その二つと連絡を取り、その二つをつなげる橋渡しにもなれば良い。一石三鳥ね」ハリエットは頷いた。「ここからアンドラ……、ドーバー海峡を泳いで、カレーからピレネーまで走るとなると、1日……」
スコットは笑った。「魔法使いはタフだな」
ハリエットは小さく笑った。
スコットは指をナプキンで拭いた。「俺も行きたいな」
ハリエットは、スコットを見て、一瞬だけ何かを考え、頷いた。「そうね」
「今何を考えた❓」スコットは、少し考えて、答えに行き着いた。「当てるよ。俺のように鈍感な一般人がいれば、君に取って都合の良いコマになる」
「あなただけでなく、あらゆるものがコマになるのよ」ハリエットは、油だらけの指をナプキンで拭った。「それに、わたしのことを少しだけ誤解してるわ。あなたのことをそんなふうには思ってない」
「じゃあ、なんだ❓ おしゃべりディルド❓」
「可愛いおしゃべりディルド」ハリエットは、スコットの顎に右手を添えて、左手でつまんだステーキを彼の唇に挟んだ。「冗談よ。でも、あなたと一緒に行くっていうのは悪くないかもね。わたしはあなたと毎晩楽しめるし、あなたはまた臨場感のある記事を書ける」
スコットは、口をもぐもぐしながら、ハリエットから目を逸らせた。たしかに悪くない……。ハリエットの裸で頭がいっぱいになっていたために、スコットは、視界の端でハリエットが手を拭っていることに関して、深く考えたりせずにスルーしてしまった。
柔らかい手が、自分の体を包み込む感触に、スコットは飛び上がった。
ハリエットは、声を上げて笑いながら、ベッドから出て、パイプに火をつけた。「ご馳走さま。美味しかったわ。夕方には出るから、荷物まとめておいてね」
おそらくですが、物語は3日ほどで終わる予定です