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アンドラ・ファイル 2018/10  作者: Winifred Riviere
3/8

1日目 12:00〜13:00 泥酔と不眠症

酔い潰れたアーデスのそばで、俺とダリルは、ドイツ語で話をしていた。


酔っ払っているダリルのドイツ語は鉛がキツすぎて、酔っ払ったフランス人がテキサス訛り英語に挑戦しているかのようにめちゃくちゃだった。


俺は、ビールのグラスを置いた。「それで、そのスコットに連絡をとってみれば、各国の警察の捜査情報を知れるんじゃないかと思ったんだが、どうかな」


スコットとは、パリの事件をきっかけに知り合うこととなった、イギリス人の男の子だ。


童貞を卒業することに異常な執念を見せるような一面を持つ、16歳らしい16歳の男の子だったが、先月、パリでウェールズ人のおねえさんに童貞を盗まれてからは、慎ましい年金生活を送るご老人のような落ち着きと闘争心のない柔らかな笑顔を浮かべるようになった。


彼は、ただのパリ旅行にタキシードを着てくるような変わり者であると同時に、イギリスの貴族階級出身だが、2人の兄や彼のご両親、親戚一同と違い、世俗で生きることを選んだ変わり者だった。


彼は、物心ついた頃からデイリー・スコットというブログを運営しており、日記や、各国の日常生活の様子、新聞などに寄贈した記事について、そして、世界各地の友人から聞かされた事件についてなどを載せている。


統一性のないブログだが、そのジャンルの濁り具合からむしろ一つのジャンルとして確立されているようで、月間のPV数はかなりのものらしい。


そして、中でも、1番の人気カテゴリーは、事件についての記事だ。


彼は世界各国の警察機関に友人がいるらしく、ことあるごとに記事を書いて犯人を挑発することなどの、あらゆる協力を求められたりする。


そして、そういった捜査協力の見返りに、彼は捜査の内容を一般人以上に知り得ることができるのだ。


だが、パリの記事以来、彼のブログは、彼のセンスから産み出される平和的でありながらも挑戦的で個性的な、ただのジョークマガジンになってしまっていていた。


事件があると聞けば、彼は食いつくだろうし、そうなれば、彼は交友関係を駆使して、この件についてありとあらゆる情報を集めてくれるはずだ。


だが、酔っぱらったダリルは首を横に振った。「そいずぁ、俺にはなんとも言えんだがや……。俺一人で、そういう勝手な指示を出すってのもいかんぜ。それなら、スコットを経由せずに、こちらからしたほうがええ」彼は、すでに笑えないくらい酔っており、自分のグラスに入っているビールがノンアルコールビールだということにも気付いていなかった。


俺は、俺たちのテーブルを担当してくれているウェイターに5ユーロを渡し、これ以上ダリルに飲ませないようにとお願いする羽目になった。


吐瀉物の匂いなど嗅ぎたくないし、着替えが1着しかない上に、財布にもそれほど余裕があるわけでもない現状では、服を汚すリスクは負いたくなかった。


「スコットを経由した方がすんなり行く場合もあるだろうし、情報源は多い方がいいだろう」


ダリルは唸った。「わからんなぁ……。今は信頼できるやつ以外に情報を広げたくないねん……」


俺は頷いた。「そういう配慮はできるやつだ。聞いてみるよ。あいつは記者気取りのブロガーだから、世界中に友人がいるし、面白そうなら、やってくる」


「巻き込んで良いやつなんか❓」


「一人じゃこないよ。魔法界の警察か、元警察か、インターポールか、元インターポールが一緒に来る」俺は、ブラックベリーを取り、メッセンジャーで、スコットにテキストを送った。


返事が来た。


ビデオチャットだ。


そこには、数週間ぶりにみる友人の顔があった。


青い目、チョコレートブラウンの髪、白い肌、精一杯伸ばした頬の産毛が微笑ましい。背が高くほっそりとしているが、肩がガッチリしている。最後に見たときは、カジュアルなデニムとシャツだったが、今は、上にタキシードを着ている。これといって特徴のない顔だが、どちらかと言えばイケメンなタイプ。なのだが、今は、目の下にクマがあった上に、しばらく髪を洗っていないようだった。『やあ……、ケント……』声は枯れていた。頬もこけている。メガネは油ぎっていて、笑顔も疲れている。肩には毛布をかけていた。体調を崩していると言われれば信じてしまいそうだ。


「よう。スコット。調子どうだ❓」


『絶好調さ……』スコットは、咳を二回した。『そっちは……❓』


「悪くない。イメチェンしたか❓」


『は……❓ いや……、どーかな……、したかも……』スコットは、クリーム色のカップから何かを飲んだ。


「……何飲んでんだ❓」


『コーヒー……。インスタントで……、ティースプーン5杯入れた……』


俺は失笑を漏らした。「濃いな」


スコットは頷いた。『ああ……』


「……最後に寝たのいつだ❓」


スコットは首を傾げた。


「……シャワー浴びたのいつだ」こいつ大丈夫かな……。


『あぁ……、あれ……❓ いや……、ちょっと執筆が楽しくてな……。詳しいところは……、ブログを見てくれ……』


俺は頷いた。「楽しみだ。実は今、アンドラにいるんだ。ちょっと事件があってな」


『どんな事件……❓』


「魔法界のインターポールの一人が、行方不明になったんだ。それについて、今調査をしてる」


スコットは、声を上げた。『おぉー……っ!』スコットは、声を上げた後で、大きな咳を二回した。『本物の捜査官になったってわけか……❓』一瞬だけ輝いたと思った彼の目は、再び濁りを取り戻した。


「いや、変なやつに調査協力求められてんの。興味あるか❓」


『あるけど……、行けないな……』


「別件か❓」


『まあ……、そんなとこ……。いや……、学校なんだよ……』スコットは、ため息を吐いた。『オンラインでも授業受けられるけど……、クラスに可愛い女の子がいるんだ……』


俺は笑った。「狙ってるってわけか」


『真面目な良い子なんだ……。メガネで清楚系……』


「お前が好きそうだな」


スコットは、力なく笑った。『そうなんだけどね……。ハリエットが忘れられない……』


「初めての女は忘れられないさ。ハリエットとは、その後どうだ❓」


『連絡はとってるよ……。今……、リスボンにいる……。密室殺人だって……』


「あの人が好きそうな事件だな」


『ハリエットに教えてみようか……。興味持つかも……。どんな事件だ……❓』


「電話じゃ、失踪事件だとしか言えない。さっきも言っただろ。魔法界のインターポールの捜査官が消えたって話だ」


『危険そうだな……』


「わからん。自分から消えたのか、それ以外の理由か。ハリエットに連絡してみてくれるか❓ 俺は、ローラとラシェルさんに聞いてみる」スコットは恐らくハリエットを喜ばせられるならなんでもしたいと思ってるだろうから、彼に任せることにした。「頼んだぞ」


『おう……。気を付けろよ……』


「ああ。メガネちゃんとハリエットによろしくな」


『あい……』


スコットは、本当にくたびれているようだった。


俺は、通話を切った。


「ハリエットって言うのは、探偵だよ。元警察だ」言いながら、俺はダリルを見た。


ダリルは、テーブルに頭を乗せて、いびきをかいて眠っていた。


アーデスも寝てる。


彼といつもお話を楽しんでいるウェイトレスのヴィクトリアは、ビールのグラスを握ってテーブルに頭を押しつけ眠っているアーデスを指差して、俺に、何か口パクで伝えてきた。


その表情には、呆れたような色が見て取れた。


俺は、何も言っていない口パクを返して、彼女に笑って見せた。


ヴィクトリアは、鼻を鳴らして、店内に戻った。


入れ替わりで外にやってきたのは、こちらのテーブルを担当してくれているウェイターだった。


俺は、人差し指を立てて、ウェイターを呼んだ。「チェック」


俺は、ウェイターから受け取った伝票をダリルの手の下に滑り込ませて、そのままテーブルを立った。

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