4 料理の師匠ってまさか……
お師匠様♪
「どうですか?」
「いや、美味いんだが……これ、本当にお前が作ったのか?」
夕飯はオーソドックスな肉じゃがというメニューなのだが、なんだか知ってる味のような気がする。というか、これ親父が作ったのと同じもののようにも感じるが……
そんな風に思っていると、美澄はくすりと笑って言った。
「ええ、だってお義父さまに料理習いましたから。多分再現出来ると思いますよ」
「親父に習ったのか……」
「ええ、嫁入りするのならその家の味を再現するのも妻の役目です」
ちょっ!?子供達の前で何故そんなことを言うんだと思って慌てて2人に視線を向けるが……特に気にした様子もなく美味しそうに食べていた。
「ねぇちゃん!おかわり!」
「ちゃんとよく噛んで食べてね」
「うん!」
「あ、寧々ちゃん。人参ちゃんと食べれて偉いね」
「えへへ、おねえちゃんのごはんおじいちゃんといっしょでおいしいから」
「偉い偉い」
……なんか、お父さんだけ蚊帳の外で寂しい今日この頃です。ええ。てか、美澄子供達のことちゃんと見てて少しびっくりだわ。こんなに子供の扱い上手かったのか。
「晴太さん。おかわりはいりますか?」
「……ああ、貰うよ」
おまけに気が利くところも凄いな。ていうか、俺が知らない間に色々手回ししてあって怖かったけど、子供達の様子を見るとそう悪いことでもないのかと思ってしまう。
……いやいや、惑わされるな。俺は教師でアイツは教え子。そこに余計な関係を付け加えるのはよろしくない。それに、今更玲子以外の女を愛する資格が俺にあるとは思えない。
俺はアイツを……肝心なところで助けられなかったんだから。
「晴太さん。焦らなくて大丈夫ですよ」
「え……」
「別に今すぐ答えを出さなくてもいいんです。私の気持ちはもう決まってますから。だからゆっくり私を好きになってください。私は絶対に貴方から離れませんから」
まるで心を読んだかのような台詞に驚いてから俺はため息混じりに言った。
「一生ストーカー宣言か?だいたいそれって俺には好きになる以外の選択肢がないだろうが」
「ふふ、バレましたか。でも、少なくとも私は絶対に晴太さんから離れられない運命にありますから」
「なんだよそれ」
「私の心からの願いです」
そう笑う美澄。本当になんでこいつは俺なんかを好いてるんだ?本当に心当たりがないんだが……それでも、少なからずこいつからの好意が嫌じゃないのが問題だよな。
そりゃ、可愛くて慕ってくれる年下の嫁とかリアルでいたら嬉しいよ。うん。でもさ、仕事上大切な教え子なのにそれを無視して男女の関係として見るのはなんか違う気がするしね。
それにさ、子持ちでバツイチで特別ルックスも良くない俺なんかより優良物件は他にいくらでもあるし、美澄の総合的な幸せを考えるとやっぱり俺が相手なのは不足だと思う。まあ、結局はそれでも美澄自身の幸せを優先してやりたいとも思うが……難しいよなぁ。
それでも……
「晴太さん。はいどうぞ」
「……ああ。ありがとう」
「いえいえ、沢山食べてくださいね」
今、この時は少なくともこいつも子供達も幸せそうなのでいいかなっとも思ってしまうのだった。