12 だからあなたを愛してます
「自殺……?お前がか?」
想像してなかった台詞に驚く。そんな要素は微塵も感じられないが……
「小学生の頃の話です。今はそんなことは考えてませんが……ある人に私は救われたんです」
「ある人?」
「その反応だとやっぱり覚えてませんよね」
なんだそれ。まるで俺がそれに関係してるみたいだが……美澄と会ったのは高校生になってからのはずだ。それ以前は全く面識はなかったと思うが………
「ある冬の日のことです。私、その頃に学校で地味な嫌がらせ……まあ、いじめを受けてたんです。ただ、家族にも言えなくて先生も笑ってスルーするので本当に困って、帰りに公園のブランコで泣いてたんです」
冬、公園、ブランコ……なんだ、なんか似たようなことがあったような……
「そうして泣いてたら、通りがかった人が私を心配して声をかけてくれたんです。まあ、普通に見たら事案ですが……お人好しだったのでしょうね。持っていた肉まんをくれて話を聞いてくれんです」
「なぁ、それってまさか……」
「はい。お察しの通り晴太さんです」
そうだ。前にそんなことあったな。まだ子供達が生まれる前のこと。新婚の頃に別の学校で何かの案件で出かけていた帰りに公園で泣いてる女の子を見つけて声をかけたんだ。
「私の話を聞いてから、晴太さんは私に強くなれる魔法の言葉を教えてくれました。それを言えばどんな時でも笑えるって魔法の言葉を」
「………『大丈夫』だろ?」
まあ、それ以外にも確か別の先生にも相談しろ的なことは言ったはずだが……その当時はとにかく美澄のメンタルがヤバそうだったからダメ元でもそうして自分に暗示をかける言葉が必要だったんだ。
「それで私は救われたんです。それから頑張って晴太さんの特徴から晴太さん自身に行き着いて……その頃にはもう、奥さんが亡くなられてたことを知りました」
「……そうか」
「ええ。だからこそ、私は晴太さんのいる学校を選んだんです。晴太さんを今度こそ私が救うために」
なるほど。だからここまで根回しが良かったのか。
「恩義なんて感じなくていい。結局は清香が自分で解決したんだからな」
「はい。でも、私はあの頃から晴太さんにずーっと一目惚れしてたんですよ?」
そう微笑んでから美澄は俺を抱きしめてから言った。
「だから苦しんでるあなたを放ってはおけません。私はどんなことをしても晴太さんに笑って欲しいんです」
「……だが、俺は守れなかったんだぞ?お前を守れるとはとても……」
「晴太さん。守られるだけが女ではありませんよ?好きな人を守るのに男も女も関係ないんです。だから私がこれからは晴太さんを守ります」
「どうしてそこまで……」
「だって……私は晴太さんを大好きですから」
そんな笑顔を見て俺は玲子が事故の瞬間に浮かべていた笑顔を思い出す。そうだ、あいつはどこかホッとしてたようにも見えた。まるで俺が無事で良かったと言わんばかりの笑みを……
気づくと俺は涙を流して美澄に抱きついていた。情けない話だが……多分この日俺は美澄に本当の意味で救われたのだろうと思う。それが美澄を意識する切っ掛けだったと後に思う。