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森の向こう側




 翌日。私達は昼間は休息を取り、夜に動こうという話になった。


 昨日1日中動いていたこともあり、疲れた体をブルーノおじさん宅で休める。明け方に寝てから目が覚めたのは夕方頃で、私とアランは身支度を整えてからまた、例の森の場所へと向かうことにした。


 出発直前、アランに今日の見張り当番を確認するように言われたのでブルーノおじさんに確認したところ、午前中は子ども達、午後はブルーノおじさん率いる年配の方を中心としたチーム、夜はオスカルおじさん率いる40代のおじさん中心のチームとのことだった。


 ちなみに、今日は盗みの事件などは起こらなかったとのことである。



「なんかピンとくることあった?」


「んー、微妙」



 アランと森への道を歩きながら聞いてみるが、アランはぼんやりとした返答しかせず。というか、昨日言っていた良い考えが何かというのも聞けていない。なんて秘密主義なんだ。


 教えてくれてもいいのにな、なんて考えながら、昨日も通った道を突き進む。一度通ったことがあるのもあって、昨日よりは難なく歩くことができた。


 やがて例の大木のある空間を出る。そして、野菜が置かれていた地点へと足を進めた。注意深く地面を見続けながら進んでいく。丁度昨日と同じく50m程歩いたかと思われる地点に来ると、



「あれ、野菜がなくなってる」



 包みは綺麗になくなっていた。代わりに、茶封筒が1つ。



「なにこれ」



 手にとってアランに見せてみると「開けてみよう」と言われる。良いのかな、と思ったが、封筒は糊付けなどがされていなかったので、難なく開けることができた。



「『野菜ありがとう。またよろしくお願いします』って……」



 内容を読み上げる。アランは「やっぱりな」と呟いて私から手紙を受け取った。



「これもしかして、村の誰かが野菜をここまで持ってきたってこと?」


「多分そうだろ」



 封筒に手紙を戻して、アランは元の位置へとそれを置いた。そして、「進もう」と私の背を軽く押してくる。それに急かされるようにしながら、昨日は進まなかったその先へと歩き出した。



「誰がそんなこと、」


「少なくとも子どもだろう。大人がこの道を通るには狭すぎる。それならもっと広い道ができている筈だ。俺達だって、枝を折らなきゃ進めないしな」



 言われてから、ふと聞き込みで聞いた内容の1つを思い出す。確か、直近の事件があった日。昼の見張りをしていたのはランディを中心とする子ども達だった。そして、もう1つの情報も頭を巡る。



 ――子ども達の中で真っ先に見張りを手伝うって言い出したんだよ。



「……もしかして、ランディが?」



 ぽつり、呟くように吐き出した私の声と、ポキリと足元で木の枝が折れる音が重なる。



「1人でやるには無理だろ。見張りの目がある。かといって、主犯なのかどうかもわからない。ただし、この事件に関わっているのは間違いないだろうな」


「なんで……」


「その答えがこの先にあると俺は思うぞ?」



 アランがそう言った直後、視線の先の方に小道の出口が見え始めた。出口の向こう側の景色はまだあまり見えないが、月の光が差し込んでいるように思える。


 誰かがいる可能性もあるので、ゆっくり慎重に足を進めた。そして出口の手前で一度、足を止める。


 人の気配が周りにないか、息を潜めた。



「……大丈夫そうだな」



 後ろでアランが呟く。それに頷いてから、ゆっくりと出口に近づき、外の世界を確認した。


 そこには、キコ村と同じような村があった。けれど、村は村でも様子がおかしい。


 夜だから、というのもあるとは思うけど――活気がないように思える。



「行こう」


「え、でも、」



 アランの掛け声に、焦って止めようとしてしまう。だってここはもう、おそらくシナ国の領土だ。ここはシナ国の村だ。それなのに、入ったりして大丈夫なんだろうか。



「大丈夫だろ。夜だしそんなに人に会わないよ」


「ええ……」


「最悪、俺達は外から来た旅人で、道に迷ったとでも言っておけばいい」



 本当だろうか。アランはそうやって済ませるけど、一応私はヘーゼ国の王女である。そんな人物がシナ国に密入国してたら問題になりそうなものだ。


 けれど、私の容姿を見てすぐに王女だと判断できる人なんて、たとえ同盟国であるシナ国の人間でも王族のみかもしれない。実際、アランだって私のことを知らなかったっぽいし。


 それなら大丈夫、なんだろうか。



「ほら、早く行くぞ」


「あ、うん、」



 アランがあまりにも平然とした顔で私を追い越していくので、自分が考えすぎなように思えてきてしまった。慌ててその後をついていく。


 もう夜ということもあり、村は寝静まっているようだった。しかし、進むに従って先程活気がない、と感じた理由がわかってくる。


 村は木造で出来た家々が並んでいて、田畑もあったのだけれど、そこでの栽培は上手くいっていないようだった。土が悪いのか、枯れてしまっていたり、野菜ができていたとしてもやせ細った形のにんじんや、葉が虫食いだらけのキャベツばかりである。とてもじゃないが、良質な野菜ができているとは言えなかった。



 森1つ隔てただけでこんなにも変わってしまうのか、とショックを覚える。


 夜だが、誰かから聞き込みをすることができないかと思いながら進んでいった。不気味な程寝静まっている様子に、少し怖くなってくる。

 

 気持ちを落ち着けようと、アランの服の袖を少し拝借した。きゅっと服の袖を握ると、アランはちらりと私を見やったけれど何も言わなかった。


 許してくれるらしい。


 そのまま暫く歩いていると、村の出入り口と思われる門が見えた。木製の開け閉めが可能だと思われるその門の前には、人が立っている。村の見張り人だろうか。



「少し迂回して、他に出入り口がないか調べてみよう。外から話しかけた方がいい。ただの村人ならともかく、門番だと村に出入りしている人間を管理している可能性がある」



 アランの囁きにこくりと頷いた。確かに、村の内部から外へ見知らぬ人物が出ようとしたら怪しまれるかもしれない。なんにせよ、ここは外から訪れたという体を装って、門番の人から話を聞き出したい。


 門番の人に気づかれぬようにして、民家の間にある細道に入り込んだ。細い道を進む中で、たまに家の中の様子が見える。


 大抵の人が寝ていたが、うなされるように、苦しげな表情をしている人が数名いた。中には、その寝ている人の横で看病をするように座ってまだ起きている人も垣間見えた。


 人に気づかれぬように進んでいくと、村の端についたらしい。そこには木製の壁が立ちはだかっていた。横を見ると、壁はずっと続いているようである。



「どうやらこの村は、この壁に囲まれているらしいな」


「閉鎖的だね……どうする?」



 これでは、村の外に出るのは難しそうだ。ただ村の様子を見て回っただけで、聞き込みもできないままに帰ることになってしまう。


 アランは少しの間考えてから、壁を入念に調べ始めた。



「人が通れそうな穴がないか、もしくはよじ登れそうな窪みとかがないか、壁を調べてみよう」


「わかった」



 穴を通るか壁を越えるかして外に出ようという魂胆のようである。村をここまで閉鎖的にしている壁だし、そんなものないような気がするけど、とは思いつつ探してみた。


 しかし探し始めて15分。やはり見つからず。


 空が少し白み始めて、夜明けが近づいてきていることに気づいた。アランと顔を見合わせて、うーん、と唸る。



「……戻るか。暗がりなら顔が見えづらいから村人から話を聞くのもありだと思ってたけど、明るいと顔を覚えられる可能性がある。それはちょっと避けたい」


「そうだね」



 結局その後、私達は注意深く村人に出会わないようにしながら来た道を戻った。村を抜け、小道を通り、大木のある空間に来てから一息吐く。


 その頃には、朝日が大木広間の空間に差し込んできていた。



「はー、疲れた」



 ごろん、アランは服が汚れることも構わず大木の下に仰向けに寝転がった。確かに、ずっと気を張っていたので疲れた。


 私もアランに倣って寝転がってみる。そして、森の向こうで見た景色を思い出してみた。


 活気のない雰囲気。品質の悪い野菜。窓から見えた、体調が悪そうに眠る人々。閉鎖された村。



「……なんか、苦しそうな村だったね」



 生活に苦しんでいるのではないか。そう思えるような要素が多々あった。少なくとも、キコ村と比べたときに、どうしても差があるように感じられた。


 貧しい村、そんな印象である。



「それが、今回の事件を起こした犯人の動機かもな」



 アランの言葉に、私はこくりと頷いた。まだ憶測の域を出ないが、この事件の全容が見えてきたように感じる。


 アランと私は少し休んでから、村に戻った。そして仮眠を取り、夕方に目が覚めたとき――また、野菜がなくなってしまったとブルーノおじさんから聞かされた。





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