最終回 想い
バイトの飲み会を減らしてから、私は学生時代の友達と飲むようになっていた。
思い出話に花が咲いていた、話題は高校の頃の恋話。
ただ、自分たちの恋話では、なく同級生のだれとだれが付き合っていたとか、そんな話を懐かしげ
に話す。でも、みんなの心の中は、その時の彼氏や好きな人を思い浮かべているのかもしれない。
私の心の中にも、彼がいる。(まだ、いる?)そう、心に問いかける。
「ねえ里花は、だれか好きな人いた?」
なんでも、知りたがりの亜美だ。
「うーん、いたけど秘密。」
何年もたった今でも、恵の前では、言えない。
恵は、高校の頃、私とちがって彼にちゃんと気持ちをぶつけていた。
その恋は、実らなかったが、彼女は新しい恋を見つけて今度結婚する。
みんなと別れたあと、私は恵と二人でバーで飲み直した。
ジャズと薄暗い雰囲気のバーは、この雰囲気だけで酔えるような気がする。
「里花、好きな人って岩澤くんでしょ?」
私は、唖然とした。
「なんで、わかったの?」
恵は、心配そうに私を見つめていた。
「なんとなく。今でも引きずってるでしょ?」
私は、うなずくことしかできなかった。
付き合いの長い恵を鈍感だと思っていた。
鈍感は、私だ。
そして、その夜は、カクテルを飲んで酔いしれた。
恵と何かを約束した気がするけど、わからない。
この酔いに、この恥ずかしさを忘れたい。
月に新しい恋を願ったあの日から、どれくらい経ったのだろう。
今日は、あの夏の日を思いだしながら祭りに行こうと思う。
昔と違う、とびきりの大人なっぽいメイクに渋めの浴衣。一人で彼におぶられたあの道を祭り会場の方へと歩いた。
卒業前まで、また会えないかと来るかもわからない彼を待つために、この道に通っていた。
祭りの提灯の灯りがその時の気持ちを思いださせる。
(あの時、何時間も待っていた私はまだ彼を待ってるのかな?)
(待っていても、彼が来るはずないか。)
祭り会場についてから、屋台の見ながら周りのカップルや家族ずれを見た。幸せそう。
とりあえず、友達がいたらできないことをやってみることにした。
ビールを片手にイカの丸焼きにかぶりつく。
大人になったら、やってみたかった。いつも、友達の前では着飾ってしまうからできなかった。
気持ちがいい、でも一人の祭りは寂しい。
祭会場をひと回りして、帰ることにした。
帰りの道も、あの道を通った。昔とちがって、一人歩く、でも一つだけ同じことが起こった。
やっぱり、下駄は履きなれない。
「痛い。」
私は、その場にしゃがみこんでしまった。
「大丈夫ですか?」
しゃがみこんでいた私に男の人が、足に絆創膏を張ってくれた。
「あっ。」
お互いにだれか、わかった。彼だった。
彼が私の前にしゃがんだ。
「ほら。」
昔と同じ彼は、やさしい。
「いいよ。恥ずかしい。」
気持ちが思い出させる、忘れたことがない。
「初めてじゃないだろ。いいから乗って。」
私は、彼の背中に乗った。
なんだか、おかしくなってきた。あんなに会いたかった彼がいる。会いたいときに、会えなかったのに会えないと思った時に会えるなんて、変な奇跡。
心臓がどきどきする、熱い。
大人になっても、緊張する。
言葉がでない。彼にあったら、いいたいことはいっぱいあったのに。
「あのさ昔、俺、この道をさけて通ってた。友達におまえが待ってるて、冷やかされて。好きな子を待たせるって最低だよな。今も引きずってる。里花が今でも好きです。」
彼の言葉に、私は泣いた。
「私もずっと引きずってた。ずっと気持ち言えなくて、あなたに会いたかった。あなたが好きです。」
涙が止まらない。
「泣き虫。」
彼は、優しく笑顔で私の頭をなでてくれた。
二人で、卒業してから遠回り、今度は、二人でこの道を通りたい。
待つのは、終わり。
終
最後まで読んでくださりありがとうございましたm(__)m