始まりの日
神託の儀というものがある。15歳になると、子供たちは教会に集められ、神からの神託を受け取るのだ。
君はこれに向いている、と。
君はこうしたほうがいい、と。
一種のカウンセラーだろう。
まだ多感な15歳という子供に、道を教えてくれる。
そんな儀式だ。
そして、神託の儀で最も重要なのが、受け取る職業である。
適正、と行ったほうが正しいだろうか。
魔法使いでなくても魔法は使えるが、魔法使いの方が威力や効果がより発揮されやすいのである。
しかし、騎士やら魔法使い、その他諸々とある中で、一際特別な職種がある。
それは、魔王が現れる世代にしか発現しないと言われている、聖女と勇者である。
「…ごめんね」
「どうしたんだよいきなり」
「だって、一緒に英雄になろうって……」
メリエルは泣きながらこう言った。
現在、彼女は王都へ向けて出立するところであった。こうして喋るのも、御者に無理を言って時間を取ってもらっている。
なぜ彼女が王都へ行かなければならないのかというと、彼女は神託の儀で聖女に選ばれたからであった。
聖女と勇者という職業は、魔王がいる世代にしか発現しないと言い伝えられており、つまり裏を返すと、聖女と勇者が発現するのであれば、魔王が現れているという事である。
魔王とは伝承にしか聞かないため定かではないが、人間を憎み、滅ぼす者とされている。
そんな魔王を討伐するため、勇者と聖女は、王都へ向かわされるのだ。
「あんなのガキの頃の約束だろ?もう無効だって「無効なんかじゃない!」
突然声を張り上げて、言葉を遮ったメリエル。周りにはメリエルを祝福するため、多くの村の人々が押し寄せていたこともあり、その場が一瞬静寂に包まれた。
「私が英雄になったら、告白の返事、聞かせてもらうって。絶対無効になんかさせない」
彼女の言葉には怒気が含まれており、若干威圧させられるものであった。涙目で、頰を膨らませて、身長の問題で上目遣いになっている彼女。そんな姿を見て、俺は微笑んだ。
「あの〜、そろそろ……」
「なら、さっさと行かないと。御者さん、困ってるだろ」
「………うん。ごめんね、大声出しちゃって」
「お騒がせしました、今乗せますので」
「い、いえ、こちらこそ急かしたりなんかして」
彼女は渋々馬車に乗り込む。王都からの迎えなだけあって、それはすごく豪華なものであった。
見た目は質素だが、中は魔法で2倍ほどの広さになっており、振動もほとんど伝わってこない。
そして、それは出発した。
ガラガラと音を立てて車輪が回り、馬の荒い息遣いとともに進み出す。
「絶対、ぜったい!英雄になるから!私!」
「おう!」
「そしたら返事!ぜったい聞かせてもらうから!」
「分かってるって!」
最初は俺個人に。
「みんなも!元気でね!」
「メリエルちゃんも元気でね〜!」
「風邪引くなよ〜!」
「気をつけろよ〜!」
今度は村全体に叫んだ。
そうして、その馬車が完全に見えなくなるまで手を振っていた村人たちは、そのままちらほらと散会し始めた。
その日の夜。
俺は両親に、旅に出る旨を伝え、今まさに出発しようとしていた。
「本当に行くのか……」
「あぁ、止めないでくれ」
「いや、止めるというか……」
両親は顔を見合わせて、少し困った様子で話す。まるで、子供にはじめてのおつかいをさせるかのような。
「メリエルちゃんのところに行くんでしょ?」
「お前、バレたらカッコ悪いからな」
「分かってるって」
つま先でトントンと地面を叩く。
「よし、行ってくる」
「あー、なんていうか」
「うまくやるのよ?」
「はいはい」
ドン、と地面を蹴り、宙に浮く。
そして魔法を使う。地面魔法の応用で、頭の地図を視認化するものであった。
赤い点はマーキングポイント。任意の物体の現在地である。
つまり、メリエルだ。そしてそのまま赤い点めがけて、夜空の下を飛んで行った。
キールがいなくなった家では、両親が心配そうに彼のことを話していた。
「大丈夫かなぁ、あいつ」
「きっと大丈夫よ、うまくやるわ」
「今まで言わなかったけど、なんでキールが勇者じゃないのかすごく疑問なんだ」
「………そうよね…神様は一体、何を考えているのかしら…」
☆☆☆☆☆
神界。
そこの住人が今、下界を見下ろしていた。
「ついに始まった……」
その視線の先には、一人の女と男。メリエルとキールである。
キール
半神半人
age15
ー
ー
スキル『神格』
メリエル
人間
age15
聖女
HP2580/2580
MP3650/3650
スキル
『聖女』『剣術3』『聖魔法極』『体術4』
ふわぁ、と女神はあくびをした。
「ま、せいぜいうまくやるのね」
そう言いながら、寝室へと向かうのであった。