毒
「未来、先、そのあと」なんて誰にもわからない。だが、だからこそ人生は楽しいのだ。先のことがわかっている人生なんて…
え?「先のことがわからないから不安だし、迷うんだ。」だって?確かにそうだが…ふふふふふふ。まあ、この話を読めばわかるだろう。その考えが一瞬にして変わることを期待しているよ。
え?「ところでお前は誰だ」って?…ふふふ…さあ予想してごらん。未来は誰にもわからないがね。
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それは、悪魔が住んでいる家。とは思えないほど真っ白な家だった。汚れ一つ無く、白鳥のような白でまんべんなく塗られた壁が印象的であるその一軒家からは、かぐわしい甘い香りがただよっていた。
□
「京姫、何読んでんの?」
安らぎの部屋(和室)で本を読んでいた京姫が声のする方を見ると、ミニスカートをはいた少女がいた。
「本読んでんの。『心に元気を』っていうやつ。」
「へー…ってこれクレモの本じゃん!」
「おー知ってたんだ。綴。」
京姫が感心していると、綴が驚いた顔をして、
「いや、知ってるっていうか、知らないっていうか…次のターゲットっていうか…」
そう言って、綴は持っていたパソコンの画面を見せた。そこには紫色の字で毒姫と書かれていて、
『クレモを殺してください。』と、血のような赤い色で書かれていた。
◆
「えーウッソークレモの作品好きだったのに〜」
悔しげに言う京姫の横で、「そんなに有名な人なの?」と、言った事を綴は4〜5秒後で後悔する。
「天使は私に笑いかけてくれないんだ。って言葉知らないの?クレモの最高傑作である『恋死』の中でも有名な一文。」
「し、知らない…」
「え、嘘でしょ?待ってじゃあ『恋死』の内容から話すよ…」
「え!そっから?」
「当たり前じゃん!まず、ある男性が、同じ会社のある女性に恋をするの。2人の距離はだんだん近ずいて行って、互いに惹かれ合って行くんだけど、その女性には、婚約者がいるということが判明するんだよね。だから、彼女はその婚約者と結婚してしまう。それが…」
「うんうん…へー」
適当にあいづちを打っていた綴はある数字に目が止まった。
「報酬…5000万!」
「5000万?」
お金が大好きな京姫はその言葉を耳にした瞬間、今話していた事を全て忘れてしまった。
「どうしよう!5000万でしょ?3人で山分けするとして…1人…1600万くらいもらえるってこと!」
「雲清さーん」
京姫が読んでいたクレモの本は、しおりも挟まれず、寂しそうに緑のタタミの上に置かれていた。
◇
「さっそくだけど、作戦会議よ。幼虫(地下の作戦会議室のようなもの)へ行きましょう。」
雲清の指示通り、幼虫に来た京姫達はクレモについて詳しく調べていた。だが、ここが一番大変だったようだ。いつになっても、情報が出たという声が聞こえない。いつになったら見つかるんだろうと、正直思い始めて来たとき、
「出たわ!京ちゃん、ツッチャン、出たわよー」
「ナイス!雲清さーん」
「良かったー。永遠に探し続けるのかと思った。」
クレモは個人情報があまり知られていないため、京姫達も実際3時間以上探していたようだ。
「あー…パソコンとにらめっことか、何年ぶりだろう。」
「ほほほほ…私は依頼が来るたびに、最強のにらめっこをしてるわよ。京ちゃんもまだまだね。」
「最強のにらめっことか…まじつらいっすね。」
疲れきった体を、イスに持たれさせた3人は、再びイスから起き上がり、前かがみにパソコンの画面を見た。きっと、検索履歴はクレモについての事が頭が痛くなるくらいあるんだろう。と、京姫は静かに思った。
「クレモ、人間独特の世界観を書く作家。有名な作品を多く生み出しており、世界からも素晴らしいというような評価を受けている。また、素顔・年齢・本名など、プライベートは一切明かしてないということで、一部からは注目を浴びている。…っていう人みたいだけど、これ見て」
そう言って、雲清は、パソコンの前から退いた。
「どれどれ?…」
伸びをしていた京姫はパソコンを見て、驚いた表情を。綴は後悔をしてしまうほどだった。
「これヤバイよね…」
「てか、どうやってこんな情報…」
「これは、“同業者”のサイトよ。どうやら、このメッセージの人、私達以外にも頼んだらしいけど殺害できなかったようね。で、頼まれたうちの誰かがサイトを作ったみたい。まあ、私くらいのレベルにならないと、見つける事も難しいわ。それよりも開けるのが難しいんだけどもね。」
肩の骨を鳴らしていた雲清は、「開けるのに2時間くらいついやしたわよ。」と、ため息をこぼした。
「よし、これでやっと作戦がたてられる!」
「頑張っていこうぜ!」
綺麗な夕日に照らされて、クレモの本は淡いオレンジ色になっていく。かわいそうに、みるみると。