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マジックセンス  作者: 金屋周
第八章:決戦
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96:交戦

土煙を起こしそうな勢いで群衆が迫ってくるのが見えた。



「いよいよ来たか……。」



シャドウは石垣の上に立ち上がり、深呼吸を一つする。


ここから出鱈目にでも魔法で攻撃し、少しでも敵の勢いを削ぐ。そして、掻い潜ってきた敵は町中に潜む冒険者たちが倒す。


……よし。何も問題はない。


ただ役割を全うするだけだ。



「――始まったみたいだね。」



町の中からでは見えないが、魔法による攻撃で地面が抉れ敵軍の悲鳴が聞こえてくる。


けど……まだ戦争って実感が湧かないなぁ。


リコリスは暢気に欠伸をし、肩を動かした。



「すぐに忙しくなるんだろうけど……何だかなぁ……。」



「おい、のんびりするな。そろそろ来るぞ。準備しろ。」



如何にセプテムの魔法が強力でも、それに当たる確率はそれほど高くない。


夜中である上に、牽制として魔法を放っているだけで、狙いを定めているわけではないためだ。



「分かってるよ、ネモフィラくん。」



「いや~こんだけの騒ぎって初めてだから、なんかテンション上がるね~!」



頭部に生えた犬耳をピョコピョコと動かし、ラフマは闇夜を睨みつけた。


ワーウルフとのハーフである彼女には、人よりも遥かにこの暗闇が見えていた。



「テンション上がるってのは、何か違うと思うけど……まぁいいか。」



一方、幽霊であるリコリスには、この暗闇はアドバンテージでも何でもなかった。


幽霊だからといって、闇が好きとか得意とか、そういうことは全くないんだよね。



「少しは緊張感を持て。」



「いや、それで良い。」



叱りつけようとしたネモフィラをスクォーラが止めた。



「スクォーラ……?」



「ここが戦場になれば、敵味方を判別する余裕もなくなるだろう。それなら、冷めているくらいがちょうどいい。」



大勢が入り乱れる戦争においては、一瞬の判断が生死を分かつ。


誰もが疑心暗鬼となり、近づいてくる者は誰であっても攻撃する。


それが戦争というものだ。



「それと――パーティメンバーであるからといって、かまける余裕はなくなるだろう。各々個人で行動してくれ。俺もそうさせてもらう。」



勇者の言葉に仲間たちは黙って頷いた。



「来たようだな……行くぞ。」



皆が己の武器をしっかりと握りしめ、敵を殲滅するべく走り出した。














「……チィ……!」



右手のナイフを振るい、サンナは苛立ちを隠せず舌打ちした。


戦闘開始とともに猛攻を仕掛けるサンナだが、エレジーナにその刃は掠りもしない。


全て涼しい顔で避けられている。それも、紙一重でだ。


惜しい、と言うのは間違っている。


ワザと紙一重で躱している。そんな気がしていた。



「おやおやーサンナちゃーん……怒っちゃいけないよー。」



「くっそ……このっ……!」



大きく右から下に向かってナイフを振り、それが避けられるとそのまま重心を下げ、サンナはその場に踏み止まった。


そしてバネで弾いたように勢いよくナイフを正面に向けて突き出した。



「……ほいっ。」



エレジーナは突き出してきた腕を冷静に掴み、その勢いのままに後ろへと引っ張った。


サンナの身体はその勢いを殺すことが出来ず、バランスを崩す。そこに膝が入った。



「がっ……はっ……!」



腹部に強烈なダメージが入り、身体がよろめく。


駄目だ……我慢しろ……。


思わず腹部を手で押さえてしまいそうになるが、その欲求をナイフを強く握ることでこらえる。


ここで隙をこれ以上さらすわけには……!


金色の翼を広げ、一旦空中へと逃げる。



「うーん……空は……無理だなー。」



エレジーナは追ってこなかった。


何故だ?


同じ天使族である彼女ならば、翼を使って宙を舞うことが出来る。



「……エレジーナ……どういうつもりだ……?」



離れた地点に着地し、そう問いかけた。



「えーっと……まぁ……ねぇ。」



言いたくない?


珍しいな。普段ならば、すぐに妙な冗談を織り交ぜて返答してくるというのに。



「それよりサンナちゃん……君にはガッカリだよ。」



「は?何の話だ?」



またお得意の話術で、こちらの気を逸らすつもりか……?



「君の戦闘スタイルには、私の色しかないじゃないか。そんな真似事だけじゃあ、弱い相手にしか勝てないよ。」



「えっ……何で……知って……あ……!」



そう口走ってから、しまったと思った。


たしかにエレジーナの言う通り、私は彼女の戦闘スタイルを真似て……いや、そのまま使っている。



「分かるよー……いつも一緒に訓練してたもんねー。真似することは、悪いことじゃない……でも、それだけじゃ超えられない壁があるんだよ。」



「……ッ……どういう意味ですか!?」



エレジーナはサンナから視線を外し、戦っている自分の仲間を見た。



「結局のところ、自分に確固とした戦い方がないと、生き残れないってこと。心当たり、あるんじゃないの?」



「……。」



心当たり……ある。


あるに決まってる。


今もそうだし、セプテムと戦った時も、死神と戦った時も……全部、勝てなかった。


黙ってしまったサンナを見て、エレジーナは話を続ける。



「だよね。あるよね。だから……今から、お姉ちゃんが妹に説教をしてあげよう。」

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