95:遭遇
地上を照らす灯りは何もないが、暗闇に目が慣れてきた今、誰が現れたのかが分かった。
「エレジーナ……!」
「六号ちゃんとマカナくんもいるよー。」
「……。」
そう言うと、エレジーナの背後からゆらりと二人が出てきた。
何故彼女たちがここに?
明け方にこの辺りで遭遇しただけだ。町には帰ってきていないはず。つまり、この作戦のことは知らないはずだ。
「この奥に君たちの求めるアーウェルサ氏がいるよー。」
やはり知っている?
でも何で?
「でもねーこっちもお仕事だからさー……ここを通すわけにはいかないんだよね。」
そう言って唐突に何かを投げてきた。
「えっ!?」
眼前に何かが迫ってきた。
顔に当たる。
そう感じた瞬間、横から手が伸びてきてそれを掴んだ。
「大丈夫!?」
「う、うん。ありがと、アベリア。……何だろうこれ?」
アベリアが掴んだ物――星形の掌サイズの刃だ。
見たことない武器だ。これが帝国から支給された武器だとしたら……。
「私たちの敵である……そういうことでいいんですね?」
「まーねー……こっちもお仕事だからさ。私たちの役目は、暗殺を目論む兵士を迎撃すること。」
エレジーナはあっさりとそう白状した。
そして、腰からナイフを取り出す。
「だから、ここで……でも参ったなー……。」
急に芝居かかった口調になった。
「私たちは三人なのに、そっちは四人じゃないかー。これじゃ一人は通してしまうなー。あー参ったなー。」
「……何が言いたいんですか?」
「仕事だからとは言ったけど、私は仕事を選ぶんだよね。だからフィーくん、君だけ通してあげるよ。それに、君たちを殺す気は元々ないから。一応、時間稼ぎだけやらせてもらうよ。」
流石に二人以上行かせてしまったら、帝国から怪しまれて最悪処刑されてしまうかもしれない。けれど、一人だったら隙が生まれた時に、みたいな言い訳が効く。
「ほらほら、早く行った。軍師の男さえ倒せば、インペリウムに戦争をする理由はなくなるんだからさ。」
敵に雇われたエレジーナを信用していいのか?
この言葉すらも向こうの指示の可能性も……。
「――分かりました。フィカス、行ってください。私たちはエレジーナたちと戦います。」
「え、でも……。」
「おう!サンナの言う通りだぜ!」
「そうよ。フィーくん、お願いね。」
仲間たちの目を見て、フィカスは決意した。
「……分かった!行ってくるよ。だから……ここは頼んだ!」
森の中を駆けだすと、本当にエレジーナたちは追って来なかった。
大丈夫。そもそも、エレジーナを疑うこと自体、必要ないことだった。
いつも彼女は捉えどころがなくて、何を考えているか分からない。けど、悪意を持っていたことは一度もなかった。
……嘘は沢山あったんだろうけど。
「さーて……ここまでは予定通りかな?で、こっからがアドリブの時間だねー。」
走り去っていくフィカスの背中を眺めた後、エレジーナはサンナの方を向いた。
「サンナちゃん、久しぶりにお姉ちゃんが相手をしてあげるよ。」
「上等です。」
重心を下げ、サンナはいつでも飛びかかれる体勢に入る。
「六号ちゃんはジギタリスくんの相手を、マカナくんはアベリアちゃんの相手をよろしくー。」
「……。」
「……了解っす。」
互いに邪魔にならないよう、離れ合ってスペースを作る。
「サンナちゃんのパーティと会ったのも、こういう風に戦った時だったねー。あの時はサンナちゃんとは戦えなかったから、実は結構楽しみなんだよね。」
「……そうですか。」
「つれないねー。」
……集中しろ。
サンナは自分に言い聞かせる。
相手はあのエレジーナ。全力を出さないと……いや、出しても勝てるかどうか分からない相手だ。
殺す気はないと言ったが、その言葉もどこまで信用していいか分からない。
「うーん……サンナちゃん、考えすぎちゃうといけないから、先に言っておくねー。私たちは絶対に君たちを殺さない。けど、死なない程度には攻撃する。それだけだよ。」
「……信用して、いいんですね?」
「勿論。可愛い妹にお姉ちゃんは嘘をつかないよー。」
「妹になったつもりはありません。」
「ありゃー。」
悲しいなー。姉離れかなー?
……なーんて冗談はこのへんでいいかな?
でもね、サンナちゃん。
「君が私の妹ってのは、変わらないよー。」
いつも私の傍にいて、私の技術を見てきた。
そして、真似てきた。
それは一向に構わない。
むしろ己の真似をしてくれることに、嬉しさすらあった。
そうさせたくなるほど、自分には実力があるという証明になったから。
「そして……憧れてるようじゃ、勝てないよー……絶対にね。」