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マジックセンス  作者: 金屋周
第八章:決戦
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94:開戦

太陽が完全に地平線の向こうへと姿を隠し、大地を闇が覆っていた。


しかし、そこに月明かりはない。


今宵は新月。月もまた影となり、自然の灯りはどこにもない。



「おまけに曇り空。隠密行動にはうってつけの天気だが、迎え撃つ側としてはありがたくない天気だな。」



積み上げられた石垣の上に陣取り、怪盗シャドウことセプテムは溜め息を吐いた。


パーティメンバーのフィカスたちは既に森へと向かっている。


敵の部隊がある程度こちらに来るまで隠れて待機し、頃合いを見て敵将のところに行くという算段だ。



「僕も乗り込む役割の方が正直……おや?」



誰に聞かせるでもなく独りぼやいていると、レグヌム部隊の中に見知った姿を見つけた。



「こんばんは、お嬢さん。」



風魔法で軽やかに着地し、目をつけた女性にそう声をかけた。



「あら……あなたは……。」



暗闇で分かりにくいが、赤黒い髪をした背の高い女性。その美貌は同性であるセプテムでも惹かれるほどだ。



「シャドウです。挨拶するのは初めてですよね、グランディフローラさん。」



「アモローザ、で結構よ。シャドウさん。」



そう言って妖艶な美女は微笑んだ。



「それはどうも、アモローザさん。」



「ふふっ……それでシャドウさん?貴方はどうして私に声をかけたのかしら?」



「僕の友人の――アベリアの姉だから……ですかね?」



正直なところ、暇だったから声をかけた。というのが本音だが、それを口にするほどセプテムは能天気ではない。



「あら……あの子の……そう。貴方みたいなお友達もあの子にはいたのね。」



「意外でしたか?」



アモローザはその質問にニヤリとした。



「ええ、まぁね。」



「フフ、そうですか。」



腹を探り合うかのように、両者は静かにほほ笑んだ。



「時にアモローザさん、あなたはどうしてこの戦に?」



彼女は冒険者ではないし、戦闘に慣れているわけでもない。ましてや上流階級の人間だ。どこか安全なところに避難するものだとばかり思っていた。



「勿論、危険だと判断したら逃げさせてもらうわ。けれど、自慢の庭園を野蛮人に好き勝手にさせてあげる気もない。それだけの話よ。」



「大切なモノを守るために……ですか。いいですね、羨ましい。」



……彼女の言う大切なモノの中には、妹は入っているのだろうか。


きっと……入っていない。


だからといって、ここでどうこう言うつもりはない。


持つものを持って周りを見ない人が大嫌いな怪盗シャドウだが、今アモローザを責め立ててもそれは混乱を招くだけだ。


けど……今回の件、片が付いたら庭園から何か盗んでやる。


しょうもないことを思案していると、静寂なこの場に元気な女性の声が響き渡った。



「集まってくれた同志諸君!そろそろ真夜中になるわ!」



「あの姫様は……本当、声が大きいな……。」



風魔法を再び起こし、セプテムは元いた石垣の上に座った。



「帝国からの攻撃がそろそろ始まるはずよ!けれど、恐れおののく必要はない!」



戦力たちの視線が集まる中、ノウェムは拳を固く握り熱く演説をする。



「貴方たちは冒険者!ただ戦闘訓練を積んでいるだけの向こうの兵士とは訳が違うわ!だからっ……えっと……冒険者の底力を見せてあげなさい!」



「ウオオオオオオオォォォォォォォ!!!!!!!」



何か上手いことを言おうとしたが、結局思いつかなかったようだ。


けれど、戦力の士気高揚には充分貢献出来たようだ。



「申し上げます!」



鉄仮面で顔を覆った偵察兵が走り込んできた。



「帝国の戦力が動き出しましたァ!!」



「分かったわ……皆、開戦よ!」



「ウオオオオオォォォォォ!!!」



こちらのボルテージは最高潮。町中で迎え撃つわけだから、騒いでもあまり意味はないんだが。



「ここにおられたのですか姫様!さぁ城に戻りますぞ!」



「え、あ、ちょ。」



臣下の者たちがノウェムを引きずっていったが、盛り上がっている冒険者たちは誰もそのことに気が付かなかった。














ほぼ真っ暗闇な森の中――。


息をひそめていると、騒がしい声と足音が通り過ぎていった。


フィカスたち四人は現在、国境線のある森の――木の上に隠れていた。


この地点はレグヌムとインペリウム帝国の双方から離れており、ここを通る者はまずいない。さらに木の上にいるとなれば、気付かれることはないだろう。



「……行ったようですね。」



耳を澄ましていたサンナが飛び降りた。



「予想通り、ここを通る者は誰もいなかったようです。降りてきてください。」



「おう!……よっと!」



ジギタリスが最初に降り、次いでフィカスとアベリアが着地した。



「それで、私たちはどっちに向かうのかしら~?」



「えっと……今いるのが……。」



フィカスは目を閉じ、頭の中に地図を描いた。



「……ここから北西の方に行けばいいはず。」



「ですね。行きましょ……誰だっ!?」



小枝が折れる音がした。


そして、サンナの声に応えるように人影がゆらりと木の陰から出てきた。



「ちょ~っといいですか?」

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