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マジックセンス  作者: 金屋周
第八章:決戦
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93:策

「フィカス。」



レグヌム城下町の夕暮れ時――。


人々は皆避難を終え、閑散とした町内で戦闘準備をしていると背後から声をかけられた。



「セプテム、もう用事は終わったの?」



「ああ。それで、僕はどうすれば?」



「えっと、武器は城から支給されるから予備のを貰って……その格好って……?」



アイマスクこそしていないが、黒い燕尾服に身を包んだ姿を見て、思わず訊いてしまった。



「この服装が一番戦いやすいからね。僕の戦闘服さ。」



初めて出会った時から聞いている中性的な声、怪盗シャドウの格好だ。


これを着ていると怪盗シャドウという人物になり切ることが出来、いつもよりも集中することが出来る。


口調までシャドウに変わってしまうのは、気持ちの問題というか、癖みたいなものだ。



「そっか……。」



言葉が出なかった。


戦争ほど大規模な戦いは経験したことがない。


今までにない戦いに対する、不安や緊張がフィカスを覆おうとしていた。



「大丈夫さ。今の君ならね。この僕が保証するよ。」



「……うん。ありがと。」



シャドウにそう言われると、不思議と大丈夫な気がしてくる。


それほどまでに彼女への信頼は厚かった。



「フィカス、姫から作戦を授かってきました。」



別の場所で準備をしていたサンナが近づいてきた。



「作戦?」



「はい。私の話を元に立てたそうです。」



サンナは敵の軍師であるフォルフェクスと一度、手合わせしている。その話を元に作戦を立てたということだろう。



「推測の域を出ませんが、あの男ならばある程度、前線まで出てくることでしょう。そこで私たちのパーティが暗殺しに行きます。」



「まぁ実力を伴った軍師なら、戦場まで来て指示をすることもあるだろうが……作戦というほどの内容でも気がするんだが。」



「……そうではありますが、敵の頭を潰せば勝負に勝ったも同然。ということです。それで――町を戦場とするなら、軍師が来るのは恐らくあの森。そこまで四人で潜入します。」



「つまり、僕はついて行かないと?」



セプテムの疑問に頷いた。



「ええ、あなたは複数の魔法を駆使して、町の入り口で敵の戦力を削ぎ落してほしいとのことです。」



「分かった。まぁその方が派手に戦いやすいし、囮としても動きやすいか。」



「そういうことです。」



依然としてフィカスたちの存在は、向こう側に知られていない。サンナとアベリアの顔は見られているが、レグヌムの冒険者に結びつけることはまずないだろう。


帝国がどれだけこちらの情報を掴んでいて、それを元に作戦を立てていたとしても、その想定の中にフィカスたちはいない。



「じゃあ僕は自分の役割を遂行するが……危ないと思ったら、すぐに駆けつけよう。」



「うん。でも、大丈夫。だから……。」



生き延びよう。


そう言おうとして、口を噤んだ。


その言葉を口にしたら、かえって大事なモノを失ってしまいそうだと思ったからだ。



「……?どうしたんですか?」



急に黙りこんだフィカスに、サンナは心配そうに尋ねた。



「ううん。何でもない。頑張ろう。」



今はただ、前だけ向いていればいい――。















「――準備は整っているか?」



インペリウム帝国――。


軍隊基地――。



「はい、軍師殿。我が軍の用意は全て万全であります。」



「ふむ。そうか。」



フォルフェクスは司令部の部屋から、下層にいる兵士たちを見下ろす。


兵力は十分。通常であれば、レグヌムはこちらの様子を知らない。


しかし、知らない戦力が向こうにいる可能性がある。その戦力を通してこちらのことを掴んでいる可能性はある。


けれど、その戦力は多勢ではない。町が前回の襲撃で疲弊しているのが、その証拠だ。



「もし、こちらの裏をかいてくるとすれば、それは何だ……?」



迎撃部隊とは別の戦力を向かわせる。


すぐさま思いつくのはそれだ。


だが、それに対する回答は既に用意してある。


他に見落としていることは何かあるか?



「ない……はずだ。」



だが、断定はするな。


世界に絶対は存在しない。


どれほど完璧なものを考えても、必ずどこかに穴がある。



「時に軍師殿……これほどの兵士を一体どこから……?」



考え込むフォルフェクスに対し、慎重に部下の男は尋ねた。



「ああ……あれか。何、簡単な話だ。あれらは皆、世の中に不満を持っている者たちだ。それらを掻き集めただけに過ぎない。」



――人間という種族は、他種族と違い何か特別な能力を持っていない。


その点に不満を持っている者は多い。生まれた時点で、差があると。


魔法の才能の有無を含めると、その不満はさらに大きなものとなる。


フォルフェクスはそのような不満を持っている者たちを刺激し、言葉巧みに扇動し己の配下とした。



「要はならず者の集いだ。実力にはそれほど期待していない……。」



しかし、戦争において個の実力は大した問題ではない。



「私がいる。だからこの戦には勝つ。」



必要なのは、戦力の多さ。


そして――。


必ず勝つという強い意思だ。


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