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マジックセンス  作者: 金屋周
第八章:決戦
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89:余興

フォルフェクスに話しかけられた女性――サンナは驚いた表情を見せたが、すぐに頷いた。



「決まり――ですね。それではスタッフの方、彼女に戦闘服と武器を。私も準備をしてきます。」



そう言ってフォルフェクスはステージから下りた。



「サーちゃん、受ける必要なかったんじゃ……?」



「……そうですね。けれど、実力を見てみたいと思ったので。」



この場であの男を殺すことは出来ない。もしそうしたら、自分もこの場で殺されてしまう。


つまり、今回の勝負は力量を見るための勝負。



「まぁ……大丈夫ですよ。」



アベリアにそう言い、サンナはスタッフに連れられ移動した。


事務室らしき場所に移動すると、軍服を手渡された。



「武器は何かご希望は?」



「剣で、お願いします。」



自分の得意なナイフを注文するか迷ったが、オーソドックスな剣を使用することにした。何もここで全力を出す必要はないのだ。


スタッフが部屋から出た後、サンナはドレスを脱ぎ用意された軍服へと着替えた。


ん……思っていたよりも……。


重い。普段着用しているアサシンの服が軽いせいなのかもしれないが。


肩を動かしてみると、多少の違和感はあったが支障はなさそうだ。



「お着替えは終わりましたか?」



「はい。」



返事を聞くとスタッフは部屋に入ってきた。



「これが軍用の剣です。それでは、ステージに向かってください。」



「どうも。」



ふん……剣に特異な点はない……か。


流石にフィカスの小剣よりは長く重いが、これくらいなら気にならない。


さて……やるか。


パーティー会場――。


ステージ上に行くと、既にフォルフェクスが立っていた。



「待っていましたよ。お嬢さん。それでは、これより余興の戦闘訓練を開始いたします。どうぞ、好きにかかってきてください。」



会場の先ほどまでの騒めきは消え、静かな空間の意識が全てステージ上の二人へと集中する。



「……。」



相手の武器を見つめ、サンナは困惑する。


何だ?あの武器は?


見た目は剣に似ている。けれど刀身は真っ直ぐではなく、僅かに三日月のように反っている。そして長剣のような長さを持っていた。


得体の知れない武器だ。あまり接近すべきでは……。



「こないのでしたら、私から行かせてもらいます。」



フォルフェクスが動いた。


大きく一歩目を踏み込み、一気に距離を詰めその刃を振るった。



「チィ!」



負けじとサンナも己の剣を振るったが、互いの刃がぶつかることはなかった。


フォルフェクスの刃はすれすれで剣の横をすり抜け、サンナの袖を掠った。


こいつ……!


わざと当てなかった。


訓練の文字通り、本気で当てる気はないということか。


今の攻防がサンナに火を点け、バックステップで距離をとったフォルフェクスに対し、今度はサンナが前進し距離を詰めていく。



「……ふむ。」



観察するかのように彼はサンナを見つめ、武器を持つ腕を横に伸ばした。



「……は?」



意味不明な行動に思わずサンナは声を出した。


それに構わず、彼は刃を床と水平に構える。


すると――。



「……ッ!?」



刃が消えたっ……いやっ……見えなくっ……!?


手首が曲がるのが見えた。


その次の瞬間には、首元に刃が迫ってきていた。



「――私の勝ちのようだな。お嬢さん?」



何が起きた?何かの魔法か?



「……はい……参りました……。」



驚愕を隠せないまま、サンナは降参の意を示した。


喉元に達した刃は、その言葉を聞いて引いていった。



「――他にも、どなたか私と対戦したいという方はいらっしゃいますか?」



フォルフェクスが会場を見回すが、名乗り上げる者は一人として出ない。



「では、余興はここまでとさせていただきます。皆様、引き続きパーティーをお楽しみください。」



誰も何も言うことが出来ず、ただ去って行く背中を見つめるだけだった。



「……サーちゃん、大丈夫!?」



「え、ええ……大丈夫です。」



何とも言えない感覚になり、ただサンナは混乱していた。


アサシンとして個人で活動を始めたばかりの頃には、失敗も敗北の経験も多々味わった。


けれど、今回のはそんな苦い思い出とは一線を画していた。


自分が負けた理由がはっきりと分からない。


通常であれば、負けた経験と理由を分析し次へと生かすことが出来るのだが、今回はそうはいかない。


何故負けたのか、どのようにして負けたのか?


それが分からない。



「……アベリアは、あの攻撃、見えましたか?」



「えっ?うん……見えたけど……?」



ステージ外にいたアベリアには見えていた。



「どういう技だったんですか?私には見えなくて……。」



意外な言葉にアベリアもまた驚いた。


自信と実力を兼ね備えたサンナの口から、そのような言葉が出るとは思っていなかったのだ。



「どういうって……ただ、あの武器を床と水平に構えて……素早く手首と腕を曲げたとしか……。」



「……よく分かりませんね……とりあえず、収穫はあったので帰りましょう。急がないと。」



いつまでも負けたことを考えているわけにはいかない。


それよりも今は、他にすべきことがある。

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