87:禁制の場
夜――。
町の賑わいは日が沈むとともに落ち着いていくものだが、この日に限って言えば別物である。
事実、暗くなったにも関わらず、人々の活気が鎮まることはなかった。
インペリウム帝国の某所にて――。
パーティー会場となっているそこには、町中から集まった男たちで賑わっていた。
「……凄い人だかりだね。」
「ああ。これだけの規模のパーティーというのも、中々お目にかかれない。大したものだよ。」
フィカスの感嘆の呟きに、男装したセプテムは頷いた。
これだけの集客率があり、女性は禁じられている宴……一体どういうことなんだ?
怪しい、というよりは確信めいた秘密がある。
ここには何かがある。もしくは、何かが起きる。
「おう!会費事態は大したことないし、さっさと入ろうぜ。」
「あ、うん。……ふぅ……よし。」
大きく息を吐いて、自らを落ち着かせる。
このパーティー会場で、何か予期せぬことが発生する可能性が高い。
――大丈夫。冷静にいこう。
頭の中で自分にそう言い聞かせ、フィカスは頷いた。
「入ろう。」
――会場は意外と狭かった。
この大人数を考えると、そもそも会場の広さと合っていない気がする。
「おっ!見慣れない顔だな。初参加か!?」
かなりガタイの良い男が話しかけてきた。
「あ、はい。初めて……です。」
「そうか、そこの線の細い美少年は君の弟かな!?」
セプテムのことだ。
「えっと……親戚です。」
もしかして、疑われているのだろうか。
だとしたら、ここは無難な返答をしつつ、さっさと移動した方がいい。
と、思ったのだが……。
「そうかそうか!いいことだ!今日のパーティーで生まれ変われることだろう!それでは失礼するよ!」
と、話しかけてきた男はあっさりと行ってしまった。
「……何だったんだ?今の奴は?」
「……さぁ?」
話しかけてきたのは、単なる好奇心からだったのだろうか?
「それにしても……。」
会場内を見渡してみると、やたらとガタイの良い男性ばかりがいる気がする。
中には細めな男性もいるが、それは稀だ。
それゆえにフィカスとセプテムは目立っていた。
そしてジギタリスは周りに溶け込んでいた。
「こんな光景、そうそう見ないから何か凄いね……。」
「ホント……ったく、ますます怪しく見えてくるよ。それに……。」
セプテムは心の中で舌打ちした。
ここ……変な気がある奴らの集まりじゃないだろうな……?
「それに?」
「……何でもない。」
そう言って自分の腕を擦った。
「――皆様!大変長らくお待たせいたしました!」
会場の前の方――ステージになっているところに光が集まり、一人の男性が挨拶を始めた。
「このパーティーも今回でなんと、十回目を迎えることが出来ました!これも日頃から会員として運営に協力してくださる方々のおかげでございます!」
十回もやってるんだ。凄いけど……何か引っかかる。
「勿論、会員でないとイケナイ、という縛りもなければ規則もありません!しかぁし!今回でお気に召した方はぜひ!会員登録をお願いいたします!」
「売れない役者みたいな台詞だな。」
セプテムのツッコミ――効く人には効きそう。メンタルに。
「さてさて、今宵は初参加の方々も多々いらっしゃるみたいですので、長い挨拶はこれくらいにしまして、本日の予定を発表いたします!」
「ウオオオオオォォォォ!!!!!」
集まった人々は雄たけびを上げ、拳を突き上げた。
「一つ目!今から三十分後に開催いたします!最初にしていきなりの目玉イベント!」
目玉イベント……どんなことを……。
自然と身に力が入る。
「肉体美コンテキスト!」
「ウオオオオオオォォォォォ!!!!!!」
「……へ?」
緊張から身構えた身体に入っていた力が抜けていく。
司会の男は何かを喋り続けているが、何も耳に入ってこない。
「え、あ、あの!」
嫌な予感がしてきた。
その予感を解消すべく、近くにいた男に尋ねる。
「このパーティーって……!?」
「ん?あ、そうか!初参加ならあまり知らなくても当然か。これは半年ごとに開催される『女人禁制!男どもの肉体美追求の会』だ!」
肉体美……?
「大丈夫!今は細くても、会員になってトレーニングをすれば、すぐに美しい筋肉を手に入れることが出来るさ!」
「……あの……帝国軍主催のパーティーと同じチラシに載っていたのは……?」
「予算節約のためさ!だからここも少し狭いんだが……まぁいつものことだから、いずれ慣れる!」
「あ、どうも……ありがとうございました……。」
嫌な予感、的中。
このパーティーは、たまたま帝国軍のパーティーと同じ広告に載っていただけで、全く関係がなかった。
無駄足というやつだ。
「ねぇ……どうする?」
仲間にこっそりと耳打ちする。
もうここにいる意味はなくなった。
「さっさと帰ろう。」
「待った!せっかく金払ったんだから、料理だけでも食っていこうぜ!」
「ああ……うん……そうだね。」
せめて食べないと、お金がもったいないもんね。