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マジックセンス  作者: 金屋周
第七章:帝国
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86:服屋

軽く朝食を済ませ、町に繰り出してから十数分――。



「今日は人が多いな。何でだ?」



「休日だから、じゃないかしら~?」



前日とは打って変わって、町には人々がごった返していた。


インペリウム帝国は平日は全員が仕事、休日・祝日は全員が休み、という社会システムのもと成り立っている。そのため、人口密度は高いのだが平日に出歩く人はほとんどいない。



「で、問題の服屋だけどよ……どこだ?」



見知らぬ土地で目当ての場所を見つけるのは容易ではない。



「さぁ?誰かに訊いてみる?私はやらないけど。」



「何でだよ……って言いたいところだけど、セプテムの言い分も分かるぜ。なんか話しかけ辛い雰囲気があるよな。」



往来の人々は皆、何か目的があるのかきびきびと歩いている。


そこに話しかけるのは、邪魔をするようで憚られた。



「じゃあ……知ってるところで訊いてみようよ。」



「知ってるところ?」



フィカスは頷いた。


この町のことは、まだほとんど知らないけれど知っている場所もある。


昨日訪れた二店舗だ。


レストランに食事をするわけでもないのに行くのは、店側としては迷惑だろう。


となると……。



「おや……昨日の……。」



人形屋。


フィカスを筆頭にパーティはそこを訪れた。



「今日はどうしたんだい……?」



昨日とは異なる、黒色のローブを羽織った老婆。中々お洒落だ。



「服屋を探しているんですけど、どこにあるか知りませんか?」



「服屋……ほぅ。一体どんな服を探しているんだい……?」



「パーティー用の服です。」



老婆はしわがれた手で顎を擦った。



「……ならば、ここの通りを進んだ先にある路地裏。そこに向かうといい。」



白髪に隠れた瞳がフィカスたちを見回す。



「そこならば、お前さんたちの望むものが手に入ることだろうよ……ヒッヒッヒ……。」



「婆さん……あんた、昨日はそんなキャラ作りしてなかっただろ。」



「はてさて……何のことやら……イッーヒッヒッヒ!」



ジギタリスのツッコミを軽く流し、老婆は甲高く笑った。



「……お邪魔しました。」



人形屋を出て、言われた通り道を進んで行き、路地裏の狭い道を見つけるとそこに入った。


薄暗い路地裏を進むと、赤茶色のドアに辿り着いた。



「……ここかな?」



恐る恐る扉を開けると、紫色の怪しいランプが灯された部屋になっていた。



「……胡散臭いところですね。ここ。」



「――よく来たな!」



突然、部屋の奥から元気な声がした。



「このわしの隠れ家的呉服屋を見つけるとは、大した若造どもだ!」



シャキッとした元気な爺さんだ。



「さぁ何を望む?ここには何でもあるぞ!」



「私たちはパーティー用の衣装を探しに来たんですが、ありますか?」



サンナの質問に老人は大きく頷いた。



「勿論だとも!そこで待っておれ!」



そそくさと部屋の奥に消えていった。


その間にフィカスは部屋の中を見渡してみる。


紫色のランプのせいで分かり辛いが、空間を圧迫するかのように布が置かれている。


手が届かないような高い位置にまで置かれているけど、どうやって取るんだろう?



「待たせたな!これでどうだ!?」



老人が持ってきたのは、豪華そうな薄めの布。



「……何これ?」



「これは生地じゃ。採寸をして、この生地を使った衣装を作る。オーダーメイドというやつじゃな。」



「いや、そんな金ないから。」



セプテムの一蹴。慌ててフィカスがフォローに入る。



「えっと、低予算なので、普通のパーティー用の服があれば、それをください。」



「……そうか。待っておれ……つまらん。」



「あ?今なんつった?」



あからさまにテンションが下がった老人の呟きに、セプテムが噛みついた。



「……やかましい!待っておれ畜生め!」



ドタドタと騒がしい足音とともに老人は、再び部屋の奥に消えていった。



「これならどうじゃ!?」



すぐに戻ってきた。


その手にはパーティーでよく見る衣装が人数分あった。



「あのババアが置いていった古臭い代物じゃ。全く……これからは最先端の呉服屋が流行るというのに、時代遅れの衣装なんぞ……ほれ、うちには要らんから安くしてやるぞ?」



あのババア?それってもしかして……。


それはともかく、老人が提示してきた金額はかなり良心的だった。


これならば、わざわざ記憶して創造する必要はない。


持ち金で充分だ。



「ありがとうございます。じゃあこれを……。」



「待って。」



衣装を受け取ろうとしたフィカスをセプテムが呼び止めた。



「僕の衣装がない。女物ではなく、男物のやつを持ってこい。」



「……なんじゃ、男だったのか。ほれ、待っておれ。」



ドタンバタンと大きな足音を立てて、老人は三度部屋の奥に消えていった。



「これならどうだっ!?」



すぐに戻ってきた。



「……うん。このサイズなら、僕でも着られるだろう――どうも。」



「ふん!ったく迷惑な客だ。二度と来るな……それは困るから、次から普通にしてくれ。」



「……何かすみません。」



何はともあれ、これでパーティー用の服は手に入った。

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