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マジックセンス  作者: 金屋周
第七章:帝国
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84:添い寝

「……。」



灯りが消された部屋――。


窓際のベッドの中、暗闇に微かに自分の顔が反射したガラスが見える。


背中からは、普段は決して感じることのない人の暖かさ。


皆の寝息はすぐに聞こえてきたというのに、眠くならない。


疲れているはずなのに、目が冴えてしまっている。



「ねぇ……起きてる……?」



背後からアベリアの小さな声がした。



「うん……。」



返事もつられて小さくなってしまった。


まるで、他の皆には聞かせたくないように。



「フィーくんはさ……私と一緒に寝るの……いや……?」



意地悪な質問だ。


アベリア自身がそう思った。


けれど、そう思った時には既に、そう口にしていた。



「……いやじゃ……ないよ……。」



背中を私に向けた彼はそう答えた。


ほら、やっぱり。


彼は優しい。人を傷付けることは絶対に言わない。


分かっていた。


分かっていたからこそ、その優しさに甘えた。



「……。」



自己嫌悪が強烈に襲いかかってくる。


彼がどういう返事をするか、分かっていた上で問いかけたのだ。


そんなの、ズルい以外の何者でもないよ……。



「……アベリア?」



不安げに――。


いや――。


心配した口調で私の名前を呼んでくれた。



「……。」



けれどやっぱり。


私は何も言えなかった。


ベッドに入る前に高鳴っていたあの気持ちはどこにいってしまったのか。


いざ、こうして近寄ると何も言えなくなってしまった。



「……寝ちゃった……かな?」



「……。」



いつからだっただろう?


こんな気持ちをするようになったのは。


今でもどこかもやもやとしていて、はっきりと見えてこない。


でも、その感覚が、感情が嫌いじゃない。


悩むような感覚がなぜか、幸せな気持ちにさせてくれるから。


きっと…………。


これが、誰かを好きになるということなのだろう。



「…………アベリアは……。」



なに?


心の中でだけ返事をする。



「……いつも笑顔でいて、優しくて……でも、辛い時もあるんじゃないかな?」



うん。


今が辛い。


嬉しくて、苦しくて。


自分でも思考が分からなくなってきた。


それが睡魔のせいか、そうじゃないのか。


答えが分からない。



「……それで、僕の昔の話を聞いてくれて……感謝してるんだ。」



昔の話。


その言葉を聞いた時、胸に何かがストンと落ちた気がした。


ああ……そっか……。


もっと前から気になっていた。


けれど、今の気持ちを自覚したのは、その時だ。


秘密を、過去を打ち明けてくれた嬉しさと――。


――初めて会った時のこと。


……私の初めての友だち。


そんな気持ちがごちゃ混ぜになって、恋心へと変化したのだろう。



「だからさ……頼って……いいんだよ?」



「……。」



頼っていい。


甘えていいんだ。


私が勝手に怖がって、気持ちを決めつけていただけ。


優しさからの言葉ではなく、いつだって彼は本心で語っていたのだ。


それに気付けなかったのは、ただ私が彼のことを理解していなかっただけ。


でも……。


今はそれで良いのだと思う。


だって、人なんだよ?


簡単に人の気持ちが分かるわけないし、すれ違う時もある。


だから難しくて、だから惹かれる。


アベリア貴方フィカスはきっと似た者同士。


自分のことよりも人のこと。頼り方が分からない。


それが今だ。


これから先、そんな今を少しずつ変えていければいい。


今はただ……。


この状況を楽しめればいい。



「……やっぱり、寝てるか……。」



優しい口調で、フィカスはそう呟いた。


アベリアのあの言葉――。


そこに憂いが――寂しさや悲しさが混じっていた気がした。


僕が言えた義理じゃないが、アベリアは家族愛をよく知らない。


だから、誰かに頼ることを覚えてほしい。


僕はそこをセプテムに気付かされた。


今度はアベリアに、そのことを知ってほしい。


きっと、救われるだろうから――。



「……えっ?」



背後からもぞもぞと音がした。


と思ったら、背中に何かが当たった。


暖かさと柔らかさが背中越しに伝わってくる。


激しい心臓の鼓動が伝わってくる。


窓ガラスを鏡代わりに使うと、後ろから手が回されていることに気が付いた。


僕は手を動かし、胸元に回された両手にそっと触れる。


暖かい……そして……何だか安心する。


遠い昔に忘れてしまった、人肌の温もりが感じられる。


もう覚えていないけど、母に抱きしめられた時、こんな気持ちになったのかな?


安心するとともに、急激に眠気がやってきた。


顔の近くが熱くなる。


ぼんやりとし始めた意識の中、囁きが聞こえた気がした。



「……好きだよ。」



……燃え尽きた。

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