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マジックセンス  作者: 金屋周
第七章:帝国
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83:気持ち

「おっし!まずは俺の一人勝ちだぁ!」



ベッドを一人で使う権利を得て、ジギタリスは拳を高く宙へと突き上げた。


そして、その拳は弱々しく下がっていった。



「いや、ホント……残念じゃねぇから……女の子と添い寝出来るチャンスを逃したとか、全然思ってないから……。」



「黙ってなさい。ほら、好きなベッド選びなさいよ。」



「お、おう……どこも同じだろ……。」



意気消沈しながら、一番出入り口に近いベッドをジギタリスは選んだ。



「次、二回戦やるわよ。」



そんなジギタリスを無視し、セプテムは再びジャンケンの掛け声を放つ。



「……ポイ!……っと私の勝ちね。」



今度はセプテムの一人勝ち。



「私はここ。ほら、次の勝負早くやんなさいよ。」



「分かってますよ!アベリア、フィカス、いきますよ!」



「いや、僕は床でいいから、二人はベッドで寝なよ。」



「いえ!勝負を途中で投げ出すことはしません!」



その心意気は立派だけど、今は折れてほしかったな。


というか、なんでそんな意地になっているんだろうか?


アベリアは目を閉じ、深呼吸をする。



「……これで負けたら……大丈夫よ私……自分を信じて……。」



凄い集中だ。


それを真似て、フィカスも思考する。


この事態は、自分が変なことを口走ってしまったために起きてしまった。


何とか穏便に済ませなければならない。そのための条件は何か?


僕が一人勝ちすること。


年頃の女の子としては、男の僕と添い寝するなんて事態は避けたいところだろう。いくらパーティーメンバーであるからといっても、遠慮すべきところはある。


それが今だ。


僕が勝てばアベリアとサンナが同じベッドで寝ることになる。多少のストレスはあるかもしれないが、男と寝るよりは遥かにいいだろう。



「フィカス……凄ぇ集中してんな。」



「自分を過小評価してるだけでしょ。」



「本当に、変な男ね。」とセプテムは呟いた。


周りが見えているようで、見えていない。


いや……それは違うか。


いつだって彼は、自分のことを無視している。だから、人のために己の命を賭けられ、自分が無価値であると思いこんでいる。


けど、これはちょうどいい機会ね。



「せーの……ジャンケンポン!」



そして……サンナがジャンケンの掛け声を言うと、何か変だ。



「……あ。」



フィカスとアベリアが同時に声を漏らした。



「私の勝ち、ですね。ではこのベッドは私が貰います。」



「あ……うん。おめでとう……。」



「あら……えへへ……そうね~。」



落胆を隠せないフィカスとは対照的に、アベリアは喜びを隠せていなかった。



「ねぇ……。」



「なんだ?」



セプテムはジギタリスに耳打ちする。



「アベリアって……フィカスのこと好きなの?」



「……分かんねぇ。けど、満更でもなさそうだぜ。」



「……そうね。」



アベリアはハッとした表情を見せた後、再び頬が緩んだ。



「……うふふ。」



「気持ち悪いですよ、アベリア。」



「……えっ?」



サンナに言われて再び表情を引き締めた。



「さて、夕食にしますか。」



「うん……そうだね……。」



そしてあんたはいつまで落ち込んでるのよ。


ホテルの食堂に行くと、既にテーブルに料理が並べられていた。


他にも沢山のお客が来ているのだが、不思議と騒がしさは感じられない。


料理はとても美味なはずなのだが、今のフィカスにはそれが分からなかった。


それが緊張からか、落胆からか、それは誰にも分からなかった。


会話もそこそこに夕食は終了し、五人は部屋に戻ってきた。



「男ども、先に風呂に入ってきなさい。」



「おう。行くぞフィカス。」



「え、うん。」



部屋に付いている風呂場は大きかった。



「まぁそんな緊張すんなって!」



「緊張してるわけじゃ……あれ?」



どうしてこう悶々としているのか。


自分でも分からなくなってきた。



「女の子と添い寝する機会なんて、一生ないかもしれないんだぜ。」



「いや、流石に一生は……そうかも……。」



何となく、大人になったら誰かと結婚するものだと思っていた。


けれど、必ずしもそうとは限らない。


出会いがなければ、恋をしなければ、それは一生訪れない。



「なっ?そう考えると、今夜の機会チャンスは貴重だぜ?」



「うん……ありがと……って解決にはなってないよね。」



「ガハハ!バレたか!」



広い浴室にジギタリスの笑い声が響いた。


身体にお湯をかけつつ、フィカスは小さく笑った。



「……結婚か。」



その呟きはお湯を流す音に消えた。


将来のこと、未来のことを考えると、不安な気持ちがどうしても押し寄せてきた。


このパーティーで、皆といつまで一緒にいられるのかな?


やっぱり、大人になるにつれて、誰かいなくなったりするのかな?


そう考えると……寂しいな。



「ん……?どうしたフィカス?」



「あ、いや……何でもないよ。」



「そうか。さて、そろそろ上がるか。」



「……そうだね。」



先のことを考えるのは止めよう。いくら想像したって、時の流れは変わらない。早くその時が来るわけじゃない。


それよりも今は……。


目の前のことだ。




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