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マジックセンス  作者: 金屋周
第七章:帝国
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80:ドール

「ハァ!?何言ってんのあんた!?」



フィカスの発言にセプテムは睨み、怒鳴りつけた。



「流石にそれはどうかと思いますよ。」



サンナは不機嫌そうに彼を見つめた。



「……あら~。それは……ねぇ……。」



そしてアベリアは頬を微かに朱色に染めながら、フィカスに微笑みかけた。



「いいじゃねぇか!そういうのもよ!」



照れてるアベリアをよそに、ジギタリスは豪快に笑った。



「黙ってろ。」



「ウス!」



サンナの一喝。


腕を組み、溜め息を吐く。



「……あのですね。いくらパーティーであるからと言って、距離が近ければ良いというものではなく……。」



「じゃあ、あんたは参加しなくていいわよ?」



「は?そうは言ってないだろうが。」



セプテムに煽られ、諭すはずが乗ってしまったサンナ。


あれ?セプテムも反対みたいな感じだったけど……それはともかくとして。



「あ、いや、さっきのは口が滑ったというか……だから気にしないで……。」



「ちょっと黙ってなさい。この天使に負けたくないの。」



「そうです。フィカスは静かにしていてください。この蛮族を黙らせたいので。」



睨み合うサンナとセプテム。二人の間を火花がバチバチと飛ぶ幻想が見える。



「……なんか、フィカスと添い寝する前提になってねぇか?」



ジギタリスが耳打ちしてきた。


その通りだ。


別に僕限定の話じゃないのに。何でそんなに熱くなっているんだろう?



「……うん。二人はしばらく収まらなさそうだから、観光に行こっか。アベリア。」



「うん。行きましょ、フィーくん。」



「俺もいるぞ!」



言い争いを続ける二人を無視して、部屋を出て階段を下りる。


外に出ると太陽の位置も高くなりつつあり、暖かな日差しが町を包んでいた。



「どこに行く?と言っても、土地勘がないからどこに何があるのか分からないけど……。」



「とりあえず、歩き回ればいいんじゃね?観光ってそういうもんだしよ。」



「そうね~。そうしましょ~。」



人通りが少ないから、ゆったりと道路を歩ける。


どの建物からも人の声がしないから、この辺は住宅街でお店はないのかもしれない。



「レグヌムに近いってのに、国が違うっていうだけで全然雰囲気が違うんだなぁ。」



「うん。何て言うかこう……静かだよね。」



人々の営みの物音がしてこない。


僕たち以外、誰もいないんじゃないかと思ってしまうほどに。



「あら?あそこってお店じゃないかしら?」



アベリアが曲がり角にある建物を指さした。


たしかに、小さな看板のようなものがぶら下がっている。



「入ってみよっか。」



扉を動かすと、小さく鈴の音が鳴った。



「お邪魔します……。」



薄暗い室内。所狭しと棚とテーブルが置かれている。



「ここって……人形屋?」



中くらいのドールが陳列されていた。


熊や犬をかたどったドールもあれば、精巧にできた人形ひとがたもある。


可愛らしいはずなのだが、薄暗い室内のせいでどこか気味悪さを醸し出していた。



「良い出来のものばかりだな。これぞ職人技って感じだな!」



「おやおや、若いのに良い目を持っているな……お主……。」



暗がりから突然声がして、心臓が飛び上がった。


カンテラを持った、腰の曲がった老婆だ。紫色のローブがよく似合っている。



「いや~これでも商人の経験がありますからねぇ。良い物ってのは、雰囲気というか……何か見れば分かるんですよ。」



「ほぉ……大したもんじゃな。うちに置いてあるドールはどれも、爺さんが魂を宿した物じゃ。それが分かるとは……面白い。待っておれ。」



よぼよぼと歩き、老婆は店の奥に消えていった。



「ねぇ……大丈夫なの?」



何か怪しい雰囲気がここにはある。


変な物でも買わされるんじゃ……。



「俺は変なもんは買わねぇから安心しろって。きっと目玉商品を取りにいったんだろ。」



「カッカ!分かっておるなお主……これを見せたくてのぅ。」



そう言うと老婆は抱えてきたドールをジギタリスに手渡した。


大きめな、金髪の女の子のドール。



「これは……?」



「曰く付きのドールじゃ。見てみぃ。よくできているじゃろ?」



フィカスはドールを観察してみる。


たしかに凄い。


肌の部分はまるで人肌のようで、ドレスも細かい刺繍がなされている。


魂を宿した。


この言葉の意味がよくわかる一品だ。



「綺麗ですね。作るの、大変だったんじゃないですか?」



フィカスのこの台詞に老婆は首を横に振った。



「いいや。これは爺さんが作ったものではなくてな。気が付いたら……この店にあったのじゃ。」



「……え?」



それって……どういう……。


心なしか、寒くなった気がした。



「別の世界からやって来たドールじゃと、爺さんは言っておったよ。どうじゃ?いらんかね?」



「いりません。」



すっぱりとジギタリスは断った。



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