79:ホテル
城下町を出て国境線のある森林へ――。
ここでも何か争いがあったのか、折れた枝や焦げた草木が所々にあった。
「セプテムちゃんは、帝国には行ったことあるのかしら~?」
「こっちには来たことないわね。あんまし活動範囲を広げても意味がないし。」
「へぇ……あれですね。」
関所が見えてきた。
「興味がないってなら、素直に言ったら?」
「そうですね……興味ゼロです。」
「あ?あんたに話したわけじゃないのよ。」
「は?新入りが何ほざいて……。」
「はいストップ!ほら、関所に行くよ!」
この二人、相性が悪いのかもしれない。
初対面の時から険悪というか、高圧的だったから。気を付けていないと、すぐに喧嘩しそうだ。
「どうも、観光に来ました。」
関所に入ると、ジギタリスがそう挨拶をした。商人の経験から、こういうことに慣れているのだろう。
「観光ですね。どちらから?」
「レグヌム方面です。」
「レグヌム……ですか?」
「はい。まぁ城下町は何か色々あったみたいで、通り過ぎてきましたが。」
ここまではシナリオ通り。この言い分から、警戒されないはずだ。
「――はい。分かりました。どうぞ、お通りください。」
「どうもっす。」
鉄製の大きな扉が開いた。
光が向こう側から差し込んでくる。
「おぉー!これがインペリウム帝国か!」
黒に近い灰色の道路。建物が所狭しと並んでいる。
レグヌム城下町は人が多くても広々とした印象があったが、こっちはもっと何もかも敷き詰めたような感じがある。
道路の幅が広く狭苦しさは感じないが、どこもかしこも建物に囲まれているため、威圧的のような雰囲気があった。ただ、人通りはそんなに多くない。
朝だからというのもあるだろうが、それを差し引いてもレグヌム城下町に比べて人が少ない。
「凄ぇな……けど、どれが店なのかよく分かんねぇな。」
「そうね~。」
露天商とかは一切ない。全て建物の中にあるのだろう。
「で、どうすんのよ?」
「えっと……とりあえず、宿を探そう。散策はその後にしよう。」
「ですね。行きますか。」
看板を探しながら町を練り歩いてみるが、中々見つからない。
歩くこと十数分――ようやくそれらしき建物を発見出来た。
「……多分、これですよね。」
何の模様も文字もない、真っ白なシンプルな縦長な建物。
「これってホテルでしょ?高いんじゃないの?」
「ホテル?」
「高級な宿屋って感じのとこよ~。」
事情に詳しいのはアベリアとセプテムの二人。
「高いねぇ……まぁいいんじゃねぇのか。贅沢してもよ!」
姫様からいただいたお金がある。これを使えばきっと大丈夫だろう。
城と遜色ない煌びやかなロビー。赤いカーペットと金色の縁取りが施設の豊かさと高級感を表していた。
「あの、泊まりたいんですけど……。」
「はい。でしたら、まずはお部屋をお選びください。」
建物の見取り図を提示された。
チェックがついている部屋が、既に使用されている部屋らしい。
「どこにする?」
「どこでもいーわよ。」
「じゃあ一番上の部屋にしようぜ!」
「はい。かしこまりました。こちらが部屋の鍵になります。どうぞごゆっくり。」
にこやかな笑みとともに鍵とホテルの説明書を手渡された。
「料金は帰る時に……使用人に言えば、基本どんな要望でも通る……そんなところですかね。」
階段を上って部屋に向かう……のだが……。
長い。最上階を選んだのだから、当然ではあるが。
「……絶対、最上階選んだの失敗でしょ。」
「……おう。そだな…………。」
一々階段で上って行くのは、正直面倒くさい。外出するのに苦労しそうだ。
階段を使う経験がほとんどなかったので、意外と足にきた。
「あの部屋ね~。」
ようやく到着。まだ朝だというのに、随分と歩いた気がする。
気を取り直して――。
鍵を使って扉を開けると――。
「おぉー凄いね。この部屋。」
城の一室と言われたら、信じてしまいそうな部屋だった。
ベッドやテーブルだけでなく、浴室も付いている。
お風呂の水って、どういう風に確保してるんだろう?
大きな窓からは景色を一望出来る。値が張るとはいえ、ずっといたくなるような部屋だ。
「中々良い部屋ね……けど……。」
「問題が一つありますね。」
「そうね~。」
女性陣が不服そうな顔を見せた。
「どうしてベッドが四つなのよ!?」
五人で来たというのに、部屋に置いてあるベッドは四つ。
ロビーで何にも言われなかったから、手違いなのかな?
「まぁいいじゃねぇか!気にすんなって!」
「じゃあ、あんたは床で寝なさい。」
「ガハハ!嫌だ!」
こういう事態を解決するのもリーダーの役目?なんか違う気も……。
「じゃあ……ジャンケン、しよっか。」
とりあえず、提案する。
でも、ジャンケンして……どうしようか。ソファがないから……かと言って床で寝るのはかわいそうだし。
「ジャンケンしてどうすんのよ?」
「えっと……。」
何か言わないと。セプテムのジト目が怖い。
「……えっと、負けた二人は同じベッドで!あれ……?」
焦って変なことを言ってしまった気が。