08:遺跡
想像していたよりも遠くにあった遺跡に、ようやく到着した。
砂漠にはほとんど何もなく、遠近感が分かりづらい。
「えっと……。」
遺跡の入り口。通路はそれほど広くない。
一人ずつ順番に、一列になって進むのが妥当か。
その順番をパーティーで相談したが、本人の希望でアベリアが先頭に立つことに決まった。
「それじゃあ、行きましょうか~。」
サンナが持ってきた松明に火を灯し、それをアベリアが握って通路を進んでいく。
アベリアを先頭にフィカス、ジギタリス、サンナの順番になって照らされても尚薄暗い通路を歩む。
石が敷き詰められ、町中とほぼ変わらないくらい整った道を進む。
日が差していたら、遺跡の中であることを忘れてしまいそうなくらい、整えられている。
「ずいぶんと綺麗だな。ほとんど人が入ってないのか?貰った紙に何か説明ないのか?」
「えっと、僕……字が読めないんだけど……。」
農業中心の山間の村で育ったフィカスは、識字の勉強をしていない。文字が理解できなくとも、不自由ない空間で生まれ育ったためだ。
「そうですか。じゃあ私が……。」
フィカスは後ろに手をのばしてサンナに紙を渡す。
「……この遺跡は長い間、天然の洞窟と思われて誰も入らなかったようです。モンスターの住処になっていると思われていたそうです。最近になって入ってみると、古代遺跡であることが分かったと。壁画の意味はまだ解読されておらず……。」
「着いたわよ~。」
先頭のアベリアが突然立ち止まり、フィカスとぶつかった。
大きめな部屋。右手側一面に絵が描かれている。
ここで行き止まりになっているようで、本当に部屋だけとなっている。
「ほぉ~変な絵だな。」
色々な生物がそこには描かれているが、どれも横向きである。正面を向いた絵は一つとしてない。
「なんか……凄いね。」
初めて見る壁画に感動するフィカス。
「それで、この奥に部屋があるんだっけ?」
「ええ。話によると。その入り口を探すのですが……。」
「奥に行きたいなら、これをぶち抜けばいいんじゃねぇか?」
「そうね~。そうしましょう。」
不穏な会話をして、アベリアは壁画の前に立った。
腰を落とし、右手をグッと引く。
「それ!」
掛け声とともに右手を前に突き出した。
バガンッ!!と物凄い音とともに砂埃が巻き起こる。
「は?何やって……?」
「え?アベリア?」
驚くサンナとフィカス。
やがてゆっくりと砂埃は消えてゆき、半分以上が崩れた壁画と、その前に立つアベリアの姿が二人の目に映った。
「おーすげぇ。本当に奥に部屋があるな。」
「え、ちょっと!何してるのさ!」
初めてフィカスは大きな声を出した。
「あら~ダメだったかしら~。」
こうもふわふわした雰囲気で、悪びれた様子がないと逆に怒れない。
「いや、入り口を探すのが目的で、作るのは流石に……。」
「駄目に決まっているだろう!?何をやっているんだアベリア!」
声を荒げたサンナがアベリアに詰め寄る。
「いいじゃねぇか!どうせ入り口が見つからなかったら、こうやって壊すんだからよ!手間が省けたってモンよ!」
ジギタリスの仲裁にサンナは頭を抱える。
「はぁ~……もういいです……。」
深呼吸をして心を落ち着かせる。
「……壊してしまったものは、仕方がありません。老朽化で勝手に崩れたことにします。さっ、帰って報告しましょう。」