76:終結
それから、フィカスとセプテムは城下町を駆け回り、魔物を見かけ次第退治していった。
「飛び道具創れ!」
そう指示するとセプテムは水を前方にばら撒き、数瞬後に炎を同じ場所に放った。
すると爆発が起き、白い煙が辺り一面を覆った。
いわゆる水蒸気爆発である。
その爆発と煙は魔物の足と視界を奪い、そこにフィカスがブーメランを投げ込むことで一網打尽した。
「よし!これで……!」
「あらかた片付いたわね……っと。」
曲がり角からオークが姿を見せた。
だが、次の瞬間にはオークは氷と岩の串刺しとなっていた。
「本当、凄いね……!」
複数の魔法を操れるだけでなく、場面場面に応じて最も有効な一手が打てるその判断力。
そして、フィカスのサポートをこなしつつ最適な指示が出来る。
圧倒的なまでの戦闘センスだ。
「別に。出来ることをやっているだけよ。」
謙遜ではなく、ただ事実を述べた。そんな感じの口調だった。
「でも……セーブをかけずに魔法を撃つってのも、誰かと一緒に戦うってのも、中々悪くないわね。」
そう言って笑ってみせた。
「――だよね。誰かが傍にいてくれるっていうのは……凄く嬉しくて、頼もしいよ。」
「ふーん……ま、これからよろしく。」
「うん。よろしく。」
こうして、レグヌム城下町からモンスターの影はいなくなった。
町に与えた被害は数知れず、しかし犠牲者を誰一人として出さず、町は平穏を取り戻したのであった。
「あ!いた!おーい!」
呼びかけるとともに駆け寄ってくる三人の仲間の姿。
「おうフィカス!やっぱ無事だったか!」
「兵士の人たちに確認しましたが、魔物はもう全滅したみたいです。」
「町の人たちは皆、姉さんが守ってくれたわ。だから、被害は建物や道だけ。」
お互いの安否を、そして喜びを分かち合い、笑いあった。
次いで、フィカスの隣に立つ小柄な少女に注目が集まった。
「で、その子は?」
「えっと……。」
目線をセプテムに向けると、彼女は静かに頷いた。
話していい。目がそう告げていた。
「この人はね――。」
フィカスは三人と別れた後に起きた出来事について話した。
三者三様に驚きながらも、疑いの眼差しを向ける者はそこにはいなかった。
「……事情は分かりました。では一つだけ。どうしてあなたは盗みを働いていたのですか?」
殺気の宿った視線をセプテムに突き刺すサンナ。ただならぬ緊張感がそこにはあった。
「金を持っているくせして、庶民を理解しようとしない奴。そういう奴に天誅を下すためよ。私は私の正義に従って行動してきた。たとえ、それが世間の言う悪だとしてもよ。その正義に文句があるなら……受けて立つわ。」
セプテムはサンナを睨み返す。
「……私からは何も言いません。正直、一理あるとは思っているので。それで……今回の件――魔物襲撃と怪盗シャドウのことは、ノウェム姫様に報告します。あなたの処分は姫様に任せるので、そのつもりで。」
「ハッ!脅しにもなんないわよ。あのポンコツ姫がアホなこと言わなきゃいいけど。」
今の発言は……いや、色々と怖いから何も聞かなかったことにしよう。
それからは急展開。兵士の人に事情を話して、城内に入れてもらった。
レグヌム城もバタバタと騒がしかった。
後から知ったことだが、町の外に出ている冒険者を呼びに行ったり町民の避難勧告ををしたり、飛び出そうとした姫様を押さえつけたり……色々とあったらしい。
魔物がいなくなったことを町民に伝え、壊れた建物や道路を修繕する手続きやらで忙しいらしく、姫様以外誰もいない応接間に通された。
……姫様を一人にしておくって、大丈夫なのかな?
「――話は分かったわ。一つひとつ言っていくわね。」
腕を組み、フィカスたちの話を黙って聞いていたノウェムはそう切り出した。
「まずは、町を救ってくれたことに感謝するわ。勇者をはじめとする冒険者たちにも通達をしたのだけれど、間に合わなかったのよ。だから、貴方たちがいなければ、このレグヌムは大変なことになっていたことでしょう。ありがとう。」
背筋を伸ばし、ノウェムはそう言って深くお辞儀をした。
「そして、怪盗シャドウの話よ。」
顔を上げ、セプテムを真っ直ぐに見つめる。
「はっきり言って、あなたは大罪人よ。いくつもの価値ある物を盗んだのだから。まず、死刑は免れないでしょう。」
厳しい口調で、そう言った。
けれど、表情が優しいものに変わる。
「でも、町を救ったという功績も確かにあるわ。だから、レグヌム王女として、あなたに判決を言い渡します。これまでのことは水に流します。その代わり、ここにいるパーティーの一員となり、これからは冒険者として国のために働いてもらいます。」
「……私がいうのもなんだけど、甘くないですか?」
呆れ声でセプテムがそう訊くと、ノウェムはにっこりと笑った。
「ええ。他の方が聞いたら、きっと甘いって言うことでしょう。でもね、それで良いのよ。どれだけ気を張っていても、貴女はまだ子供。大人の私に甘えなさい。」
そう微笑みかけた後、また凛とした表情に戻った。
「さて、次の話よ。他でもない、貴方たちにしか出来ない頼み事があるの。」