75:共闘
「え……右手?」
何を一体したいのか。
言われるがままに右手を前に出して、フィカスは初めて痛みに気が付いた。
そうだ……氷柱で刺されて……。
他のことに夢中になっていて忘れていたが、一度意識すると痛みがジンジンと出てきた。
「包帯、出しなさい。」
そう言ってセプテムはフィカスの右手に魔法で水をかけた。
「ッ!」
「我慢しろ。洗っとかないと後で何かあるかもしんないのよ。」
「……うん。」
顔をしかめて痛みを我慢し、言われた通り包帯を創造した。それを巻いてもらい、応急処置は完了。
「次、私の服を創って。」
「……服?」
「そうよ。あんたの仲間の……髪長い女の服、あれを創りなさい。」
アベリアのことだろう。
服……えっと……シャツとホットパンツ……だったよな……。
頑張ってアベリアの服装を思い出し、何とかそれっぽいものを創造することが出来た。
「まぁ……これなら何とか着られるわね。私が着替えている間に私とあんたの武器を創っておきなさい。」
威圧的、というか上から目線な物言いだ。
サンナと衝突しそうだな……。
何て感想を抱きながらフィカスはセプテムに背を向け、博物館に落とした武器をイメージした。
「よし。行くわよ。」
やがて、後ろからそう声をかけられた。
フィカスが振り向くと、褐色の健康的な肌を露出した格好のセプテムがそこにはいた。
あれ……こんな服だったっけ……?
記憶通りに創造したはずだが、アベリアが着ている時とは違った印象がある。
「あ?なにジロジロ見てんのよ?」
「あ、いや……何でもないよ。」
「ふーん……さぁ行くわよ。」
来た道筋を辿り、再びレグヌム城下町へ。
建物の崩壊が酷くなっており、魔物たちが我が物顔で通りを歩いていた。
しかし、少し違う点もあった。
城から来たであろう兵士たちが魔物と応戦し、人々に避難誘導をしていたのだ。
「あ!そこの二人!」
フィカスとセプテムに気付いた兵士の一人が駆け寄ってきた。
「今この町はモンスターの襲撃を受けているんだ!町の外に出ていた方がいい!」
「いえ、僕たちは冒険者です。えっと、戦いに来ました!」
「そうか!それはありがたい!それなら、逃げ遅れた人を見かけたらフロス庭園へと誘導してくれ!町に残っていた冒険者が、そこなら安全だと言っていたんだ!」
きっとアベリアたちの話だ。
「はい。分かりました!行こうセプテム!」
「分かってるわよ!」
町の中心部へと向かって行くと、大型の魔物・オークが複数体いるのが目に入った。
「まずはあれね。私はサポートにまわるから、あんたが先陣を切りなさい。」
「うん!分かった!」
ここまで来て、怖いなんて言ってられない。
生死を賭した勝負に恐怖心は拭いきれないが、それを強く意識してしまえば身体は強張り、たちまち殺されてしまうことだろう。
だから――。
「おい!僕が相手だ!」
――相手を威嚇するため、そして、自分を奮い立たせるためにフィカスは叫んだ。
「かかってこいモンスター!」
フィカスの言葉を理解したかは定かではないが、その声に気が付いた三体のオークがこちらに向かってきた。
どうする?短剣ではきっと通らない。別の武器が必要だ。動きを牽制するための武器が……。
大剣?いや……あれは駄目だ。今の自分の力では上手く扱えない。それならば――!
フィカスが選んだ武器は大鎌。
己の腕力で扱えるよう軽めに創造したが、牽制には充分だ。
敵を遠ざけるように大鎌を地面と水平に何度も振るい、隙が生まれるのを待つ。
焦るな……敵は三体。油断したら、相手を甘く見たら、あっという間にやられる。敵が焦れてアクションを起こすのを待て。
「伏せろ!」
背後から声がした。
咄嗟に身を屈めると、頭上を火炎が走っていった。
火炎はオークたちを包み込み、炎を消そうとオークたちはもがいた。
今だ――!
自分の存在がオークの中から消えた――その隙を逃さず、フィカスは大鎌を投げ捨て短剣を引き抜き、一体のオークの喉元に突き刺した。
これで一体は倒せたはず。次は……。
火を振り払い、拳を振り上げた姿が目に映った。
力比べでは勝てるはずもない。ここは避けて――。
「うわっ……うわわわわっ!?」
足が地面から離れ、フィカスの身体が宙へと舞い上がった。もちろん、自分の意思ではない。
セプテムの風魔法だ。
「岩だ!創造しろ!」
地上からそう聞こえた。
高所からオークを見下ろしている状態の最中、火山で見かけた巨大な岩石をイメージする。
「……これでどうだ!」
目の前に岩石を創造すると、それは物理法則に従って落下し、地上にいたオークたちを押しつぶした。
「こういう戦い方もある。あんたは自分の魔法の可能性を狭く考えすぎなのよ。」
風が徐々に弱まり、静かに地上に着地するとセプテムがそう言ってきた。
「うん……何か……凄かった……。」
本当に彼女には、色々と気付かされる。
「何ボーっとしてんのよ?ほら、次行くわよ。」