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マジックセンス  作者: 金屋周
第六章:陰謀
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74:素顔

最初、シャドウが何を言っているのかが分からなかった。



「協力……僕に……?」



何も思考出来ず、ただ聞き返すことしかフィカスにはなかった。



「そうだ。僕が協力してやれば、確実に生存できる。」



頼れると取るか、傲慢と取るか、人によって今の言葉の受け取り方は変わってくるだろう。


ただフィカスは、それを前者に受け取った。



「それは頼もしいけど……何で……?」



「だから、取引だと言っただろう?」



シャドウはフィカスを指さした。



「物質を創造出来る魔法が使えるんだろう?それを僕のために使ってもらう。」



「どういう風に?」



犯罪に手を貸せと言うのなら、断る以外に選択肢はない。



「まずはコップだ。出せ。」



「え?コップ?」



まずは、という言葉が気になったが、拍子抜けだ。もっと凄い内容を言ってくるのかとばかり思っていた。


ギルドで使っているコップをイメージすると、すぐに創造出来た。



「はい。」



「よし。」



シャドウはコップを受け取ると、魔法でそれに水を注いだ。そして、一気に飲み干した。



「……ふぅ。少しはましになった。さて、ここからが本題だ。僕の正体をお前に明かす。」



「……へ?」



一体、何を言いだして……。


国が追っている怪盗の正体が知られるというのなら、それは願ったり叶ったりだが、なぜそんなことを言いだしたのかが理解出来なかった。



「だから、取引だと言っただろうが。」



またしても、思考を読まれた気がした。



「この格好で戦ったら、絶対に噂になるからな。正体で戦った方が、怪盗シャドウとしては都合がいい。ここからが取引内容だ。」



フィカスにぐいっと近寄った。



「お前は僕の正体を言いふらさず、正体を追わない。もっとも、シャドウはもう潮時だと思っているからな、あまり関係ないことだが。その代わりにお前を生存させ、レグヌム城下町を救ってやる。どうだ?」



「どうだって……いや、潮時ってどういうこと!?」



教えてくれない。


と思いきや、あっさりとシャドウは白状した。



「怪盗シャドウの人物像が、だ。噂に尾ひれが付くのは当然だが、あまり広がるのも困ったものだ。そのせいで、シャドウとしての寿命が近い。」



どういう意味だろう……?


噂?それって……複数の魔法が使えるとか……いや、それは事実だった。なら他の……。



「シャドウとしての活動はもう終わり……でもいいか。お前のパーティーにでも入れてもらおう。それと、ここで町を救う代わりに、これまでの罪を帳消しにしてもらって……。」



「いや!ちょっと!何色々言ってるの!?」



考え事をしていたうちに、色々と決まりそうになっていた。



「うるさい。事が済んだら色々話してやる。時間がないんだろう?」



それもそうだった……って誰のせいだと……。



「さて、と……。」



シャドウはアイマスクに手をやって、躊躇いなくそれを外した。


大きめな目があらわになった。


これが……怪盗シャドウの素顔……。


あれ?


この顔……どこかで……?



「意外と反応が鈍いな。顔を見たら悲鳴でも上げると思っていたのに。」



今の言葉。やっぱり、知っている顔……ん?


紺色の髪。褐色の肌。アベリアよりも少し低い身長。


イメージが違いすぎて、気が付かなかった。


この人は――。



「――セプテムさん!?」



「――そうよ。ほんと、気が付かないのね。」



シャドウの声よりも高い声、けれど以前聞いた彼女の声よりは低いこえでそう言った。



「えっ!?何で!?どういうこと!?」



「やっぱり、そういう反応になるのね。めんどくさ。」



シャドウ改めセプテムは溜め息を吐いた。



「私の身長と演技して低めの声を出していたら、世間が勝手に十二歳くらい少年だって言い始めただけよ。」



――そうか。怪盗シャドウとしての寿命というのは、そういう意味だったのか。


少年ならば、近いうちに声変わりがくる。


しかし、女性であるセプテムにそれは再現出来ない。



「え、じゃあ髪は!?」



セプテムと会ったのは二回。


『ヴェイトス・オムニス』という喫茶店で彼女はウェイトレスをやっていた。


その時には、長い髪をおさげに結んでいたはずだ。



「あんなもん、ウィッグ……というかエクステってやつよ。」



「ウィ……エクステ?」



「ようは付け髪ってことよ。他に質問は?ないなら準備して町に行くわよ。」



何だが、理解が追いつかない。


怪盗シャドウは普段はウェイトレスとして働いていたわけで、それで……。



「あれ?じゃあ僕たちと姫様の会話も……?」



「シャドウの話題でしょ?笑いそうになったわよ。私の目の前で私の話をするんだから。」



「ええ……?じゃあ、ウェイトレスも演技だったってこと?」



明るく可愛らしい少女、という印象だったが――。



「全部演技に決まってるでしょ。あんなぶりっ子、現実にいるわけないじゃない。夢見すぎよ。」



「ああ、そうなんだ……。」



何だかもう、わけが分からなくなってきた。



「それじゃ、戦闘準備よ。まずは……右手を出して。」

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