67:大工
翌日――。
フィカスたちはレグヌム城下町にあるギルドへと足を運んでいた。
冒険者であれば、その町のギルドに登録していなくても仕事を受けられる。もちろん、登録しておいた方が色々と得ではあるのだが、ただ稼ぐだけなら何ら問題ない。
ギルドは大勢の人が絶え間なく出入りしており、まるで祭りのような盛況ぶりであった。
「……で、俺たちが受けることが出来たクエストが……。」
工事現場のサポート。
城下町をより快適にしようと年がら年中、様々な工事が行われている。その内の一つに、自然に囲まれたレストランを建設する、というものがあり、今回彼らがやるクエストはそのサポートだ。
「やることは木材運び、近づくモンスターの排除……とかそういうことだ。要は肉体労働だな!」
「冒険者は関係ない気もしますが……これしかなかったのでは仕方がない。行きますか。」
町の外へと出て、隣町とのちょうど中間地点。そこに数人の大工と建造物の土台と思われるものがあった。
「おっ来たな。冒険者たち。簡単にこの仕事について説明しておくぞ。」
現場リーダーの男が土台を見る。
「見ての通り、そこにレストランが出来る予定だ。隣町とレグヌムを行き来する時の休憩場所って感じだな。で、お前たちの仕事だが……そこに石材と木材があるだろ?」
少し離れたところに、乱雑に沢山の材料が置かれていた。
「必要な分だけ、指示するからこっちまで持ってきてほしい。それと……足りなくなるだろうから、向こうに森があるんだが……そこからも持ってきてもらう。」
遠くにある森を指さした。
あそこから持ってくる……大変そうだ。
「でもよ大工さん、俺たちは木の伐採なんて出来ないぜ。」
「ああ、それは大丈夫だ。あっちにも冒険者がいて、そいつらが伐採しているらしい。だから、それをここまで持ってきてくれ。何か訊きたいことはあるか?」
「いえ、大丈夫です。」
「そうか。では、作業開始だ!」
それから黙々と、指示通り材料を運んだ。
石材は抱えて運ぶことが出来るが、木材は長くバランスが取りづらい。これは中々大変だ。
段々と気温が高くなってきたこの時期。太陽を遮るものが一切ない中の労働は、辛く苦しいところがあった。自然と汗が流れ、身体中の筋肉が悲鳴を上げる。
額の汗を拭い、フィカスはふと周りを見ると、涼しい顔で材料を運ぶアベリアと爽やかな様子のジギタリスが目に入った。
あの二人はこういう作業に慣れているのだろう……もっと鍛えておけばよかった。
サンナは……?
気になって姿を捜してみると、地面に置かれた材料の傍に佇むのが見えた。
「あーっもうっ!暑い!」
と小さく叫び、身体を隠す大きな黒い布のような衣装を脱ぎ捨てた。
白い肌をあらわにした黒いタンクトップとショートパンツ姿になり、彼女は再び働きだした。
ああいう服を着てたんだ……。
何気に、初めて衣装の下を見た瞬間であった。
「そろそろ補充した方がいいな……誰か、森の方に行ってきてくれないか?」
作業は滞りなく進み、材料が目に見えて少なくなってきた。
「あ、じゃあ僕が行ってきます。」
ここではあまり戦力になれていない。修行も兼ねて、その役割を担った方がいいだろう。
「私もついて行きますね~。」
「おっそうか。なら頼むぞ、二人とも!」
アベリアも名乗りを上げ、二人は一旦仕事場を離れ森を目指す。
「結構距離あるね。運べるかな……?」
「あら?私が運ぶから、フィーくんは別にいいのに。」
「いや、そういうわけにはいかないよ。僕もちゃんと働かなくちゃ。」
遠くに見えていた森が近づいてくるうちに、人影があることに気が付いた。
大工さんたちが言っていた、冒険者の方たちかな?
「あれ……あの人たちって……?」
見覚えがある人たちだった。真っ先に目についたのは、頭部に犬の耳が生えている少女。
「ラフマ?リコリスとネモフィラさんも。クエストですか?」
火山洞窟で知り合った、勇者の仲間たちだ。
「おーっすフィカス!元気になったみたいだね!」
「無事だったか。」
「はい。おかげさまで。」
この三人がいなければ、死神と戦った時にフィカスは死んでいたことだろう。
文字通り、命の恩人たちだ。
「スクォーラくんは木を切りに行っているよ。で、僕たちは切った木材を渡すのが役割。ほら、そこにあるの持っていって良いよ。」
リコリスが指さした先には、大量の木材が。
……ちょっと多すぎる気もするけど。
「何でこのお仕事を?他にも色々あったんじゃないかしら?」
アベリアの質問にネモフィラがため息を吐いた。
「まったくだ。国の方から言われてな……モンスターの様子を見ることも兼ねている。だが……。」
「モンスターが全然いないんだよね。だから、僕たちは暇を持て余しているってわけ。」
モンスターがいないんだ。流石城下町付近って感じだ。それで……。
どうやって運ぼうかな……この量……。