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マジックセンス  作者: 金屋周
第六章:陰謀
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64:フロー

「こんちはー!不法者を捕まえましたー。」



森を進んだ先にある関所兼国境線。ラフマはそこに来ていた。



「ああ、どうも!ご苦労様です!」



黒い鎧をきた兵士――インペリウム帝国兵が応対をする。


世界有数の軍事国家であり、法律や制度に世界一厳しい国と呼ばれている。



「んじゃ、この人たちのこと、お願いしまーす。」



「はい。こちらで処理させていただきます。ありがとうございました。」



厳しいとは言っても、国に住まう全員がストイックに生きているわけではない。あくまで国の方針がそうというだけであり、一般兵や国民にまでその思想が行き渡っているわけではないのだ。



「さって……なーんか嫌な感じするなぁ……。」



根拠は特にない。


けれど、何かある気がする。


野生の勘が彼女にそう告げていた。








静かな森の中――。


地面をせわしなく蹴る音と、金属がぶつかり合う音がひっきりなしに響いていた。



「……んッ!」



レイピアを避けたエレジーナは、唐突に足を上げ回し蹴りをしたがスクォーラは一歩下がり、ギリギリのところで回避した。


そのままその足を掴み、木に向かって投げつけた。



「……っと!」



両手両足を使って虫のように木に張り付き、エレジーナは地面に着地した。


勇者だから勝負慣れしていて当然。


そう思っていたが、今の挙動を見て思い違いをしていたことに気付いた。


喧嘩慣れしている。


ルールに則った戦術ではなく、勝つためには何でもする。


そういう勝負に、戦いに慣れている。



「どうした?もう終わりか?」



「そう煽られちゃあ……やるしかないよねー。」



いつも通り、涼しい顔でエレジーナは喋るが、内心はしかめっ面だ。


判断ミスだな……逃げるべきだった。


この相手ゆうしゃは自分よりも強い。初撃で仕留められなかった時点で、正面戦闘を挑まず撤退するのが正解だった。


しかし、そのことを悔やんでも現状は変わらない。それより今、思考すべきことは……。


どうやって勝つか……だね。



「それじゃー……行きますか!」



短刀を二刀流に構え、突進する。妙な小細工をするよりは、この方が勝率が高い。


休みなく左右の刃で攻撃を繰り出すが、上手いことレイピアに防がれる。


だが、この太刀筋はレイピアのものではない。普通の剣の太刀筋だ。


そこを強く意識する。見た目こそレイピアだが、普通の剣を持っていると思って戦えば……。



「……ん?」



彼女エレジーナの動きが変わった。


これまでのフェイクを混ぜた戦術から一転、短刀を生かしたスタンダードの戦い方になった。


しかし、それだけではない。スピードが上がっている。攻撃が鋭くなってきている。



「っ……これはっ……!」



忘我状態フローか!


この世界に住まう、はたして誰がその名前を付けたのか。


時を忘れるだの、時間が止まって見えるだの、様々な見解が学者間を飛び交っているが、本当のところは定かではない。


ただ――。



「ぐっ……!」



速い!


これまでとは次元の違う動きだ!


エレジーナは負担の大きい動きを軽々とやってみせ、スクォーラの守りをすり抜け攻撃を当て始めた。



「……ハァ…………。」



大きく距離を取り、エレジーナが近寄ってくるまでの僅かな時間に息を吐いて、気持ちをリセットする。


焦るな。相手のペースに呑まれるな。冷静になれ。


暗示を数瞬のうちに言い聞かせるように掛け、スクォーラは攻撃に出た。


もう対応してくるのか……。


目に追えない程のスピードで両者の刃が行き交う中、エレジーナは思考する。


この状態はそんなに持たない。このままだと、負けないけれど勝てもしない。別の打開策が必要だ。仲間は今、頼れない。一人でどうにかする必要がある。勇者の隙はどこだ。相手には自分がどう見えている。


これだけの思考が一瞬に浮かび、水に沈むように消えていく。


踊っているかのように両者は激しく動き、光のように刃が動き不規則な軌道を描く。


思考は止まっているようで、働いている。無意識に思える程の速さで脳が己の戦略を、相手の挙動を処理し、ほぼ反射だけで身体が動く。


永遠に続くかに思えるような、息を止めたくなる時間が続く。


だが――それは唐突に終幕を迎えた。


狼……?


そう思ったのも一瞬。気が付くとエレジーナは何かに押し倒されていた。



「ふぅ~やっぱ嫌な予感が当たった。で、スクォーラ。何やってたの?」



ラフマがエレジーナの馬乗りになり、その身体を押さえつけていた。



「成り行きで戦っていただけだ。」



この場にあった緊張感は跡形もなく解け、ただ静かな森に戻る。



「あーとりあえず、どいてくれますかー?」



もっと周りを見ていれば良かった。目の前の相手だけに夢中になり過ぎた。



「あいよー。仕事終わったし、帰ろー。」



「ああ。ネモフィラ、リコリス。もう帰るぞ。」



エレジーナは地面に寝たまま、去って行く勇者の姿を見つめた。


あれだけあった殺気は消え、戦った相手に背を向けて歩いて行く……。


集中が完全に途切れ、真っ白になりつつある頭で考える。


負けたかー……それにしても……。


一体何なんだろう?あの勇者という人物は?

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