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マジックセンス  作者: 金屋周
第五章:家族
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59:清算

日差しの心地よい正午――。


そんな陽気とは反対のどんよりとした空気が一室を包み込んでいた。



「姉さんは私に色々教えてくれた。いえ、刷り込んできた……という方が合ってるかな?」



洗脳にも似た支配術。


それをアモローザは実の妹に試した。その身体を、精神を、家族という存在を何とも思わずに。ただ、自分の持つ能力を試した。


実妹を己の道具かのように扱い。



「幸いだったのは、その頃にはもう、私は今の私になっていたこと。一歩身を引いて、人に流れを任せる性格だったから。」



他人というものをあまり信用せず、自分からは発言せず、人に言われたことをやり、言われるがままに行動する。


非自主的な性格にアベリアは育っていた。姉と姉を取り巻く環境によって。



「だから私には、姉さんの教育は全然効果がなかったの。けど、いつまでもその状況にいるのはイケナイと思ったの。」



正確に言えば、それに気付かせたのは召使いだった。


まるで人形のようになっていくアベリアの身を案じて、もっと外に興味を持つよう言ったのだ。



「そう思った日から、外でいっぱい遊ぶようになって……。」



家にいる時間を極力、少なくした。初めは召使いにほぼ無理やり外へ連れ出されたのだが、翌日からは自主的に外出するようになった。


アベリアが、自分の持つ魔法の能力センスに気が付いたからだ。


それから、自分の魔法を試すために、歩きで行ける範囲に色々向かった。


山、森、川……色々な地形で魔法の感触を確かめた。走り回った。


無意識のうちに、ファルトレクというトレーニングを実践していたのだ。



「当然、泥んこになって、傷だらけになった私は良い子なんかじゃなくて、家に入れてもらえない日もあったの。」



しかし、そのことで後悔することは一度もなかった。


大自然を目の当たりにし、それを体感することで、家のルールに縛られるのが嫌になった。


また、れっきとした恐怖の対象となっていた、姉から逃れたいと思うようになっていた。


まだ支配されているわけではない。けれど、いつの日か、姉の言う通りにしか動かない存在となってしまう。そんな未来を想像してしまった。



「だからね。家出をしようと思ったの。」



特に親しかった召使いにだけ家を出ることを告げ、ある程度生活出来る金を貰い、生まれ育った屋敷を飛び出した。



「家出したその日にフィーくんたちと出会ったんだよ。だから、ここを出たことをこれっぽっちも後悔してないよ。」



「そうか、色々あったんだな……家出した日にギルドに着いたのか?」



「うん。走ればそんなに時間かからないよ。」



「お、おう……肉体強化すげぇ。」



改めて部屋を見回す。きっと、幼い頃の――幸せであったと確かに言えた時から、この部屋は変わっていない。姉が変化したその時から、この部屋の時間は止まっている。



「結局、姉さんの影響は残っているの。でも、それが今の私だから、別にいいと思っているわ。」



「……そっか。それなら、大丈夫かな。」



どれだけ過去を思っても、時間は逆戻らないし何も変わらない。


大切なのは、しっかりと自分の中で昇華すること。


過去を過去として清算し、前を向ければそれで良い。



「でも……姉さんが怖いことに変わりはないから、正直早くここを出たいわ。」



「あ、うん。出よっか。」



屋敷を出る時、召使いの方がアベリアを引き留めようとしたが、アベリアははっきりとした声で



「私はこの家に戻るつもりはないの。今の私は、冒険者アベリアだから。もうグランディフローラ家の人間じゃないわ。」



と告げ、フロス庭園を後にした。



「金持ちにも色々あんだなぁ。」



勿体ない、とジギタリスが呟いた。



「私には合わなかったから。だから、これでいいのよ。」



身分も経済力も、自分には要らない。他人が羨むようなステータスも、自分にとっては価値のないもののように思える。


だから、これでいい。


アベリアはそう言った。



「それじゃあ、他を鑑賞しましょう。ほとんど町を歩いたことがないから、い~っぱい遊びたいトコ、行ってみたいトコがあるの!」



三人を見つめて満面の笑みでそう言ったアベリアは、どこか吹っ切れたような清々しさを含んだ表情だった。


このレグヌム城下町にあった、たった一つの問題が自分の中で片付いた。それにより、これまでにあった不安や憂いが、太陽の前の雨雲のようにいつの間にか綺麗さっぱりなくなっていた。



「ほら、フィーくん!ジギくん!サーちゃん!早く行きましょ!」

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