06:夜
食事が終わり、サンナの路銀で格安の部屋――このギルドで一番小さく狭い四人部屋に泊まることになったパーティー。
浴場にはいらないもの――武器や防具は寝るベッドに置き、浴室へと向かう。
「ジギタリスは商人やってたって言ったけど……どうして商人になったの?」
桶で湯をすくって汚れを流し、肩を並べて風呂につかる。
「俺が山出身ってのは言ったか?」
「うん。」
「そうか。俺たち悪魔が暮らしていた山はな、人里からしてみれば霊峰みたいなもんだったらしくてな、俺たちにとっては普通のその辺に生えている薬草も、人間にとっては貴重なモンだったらしいんだ。」
フィカスは目にかかった前髪を指で払う。
ジギタリスのボサボサヘアーがしおれていて面白い。
「だから冒険者がよく登ってきたんだ。薬草を求めてな。それを見ていて俺様は思ったわけよ、そこらに生えてる薬草を売りに行けば、大儲けできるんじゃないかってな!とまぁ、商人になった動機はそんなもんだ。」
「あはは……。」
想像していたのと違った。けれど、その方がジギタリスらしいとも思った。
「さぁそろそろ上がろうぜ。明日は早ぇぞ。」
「うん。」
身体は充分に温まった。
風呂から出て、冷えないうちに身体を拭いて服を着る。
部屋に戻ると、既にサンナとアベリアがベッドに座っていた。
「お二人さん、早いな。」
「ええ。烏の行水ですので。」
サンナはランプを手に持つ。
「灯りを消しますね。おやすみなさい。」
「うん。おやすみ。」
「おう!」
「おやすみ~。」
部屋が暗闇に包まれた。
カーテンによって月明かりも遮られ、完全な暗闇となる。
「ふぅ……。」
今日一日で色々あった。
フィカスは闇の中の天井を見上げ、起きた出来事を振り返った。
故郷の村を出、ずっと歩いてギルドにたどり着き、そこで三人と出会って……。
まだ、何も始まっていない。ここからがスタートラインなのだ。
明日からはきっと、想像できないような日々になるはずだ。
早く休むべきなのだが、気分が高揚して寝付けない。
「そういえば……。」
家族以外の誰かと同じ部屋で寝るのは初めてだ。
他の皆は、そういうことを気にしないタイプだろうか。それとも、こういう体験を既にしたことがあるのか。
……女の子が隣のベッドにいるのか。
中々どうして緊張する。
ちゃんと寝られるかな?何て思っていたが、やがて瞼が下がってきて、気が付くと眠りについていた。
そして、次に目を開けた時には朝になっていた。
あれ?いつもと天井が違う……?
身体を起こすと、思い出した。ギルドに来ていたんだった。
他のベッドを見てみると、二つはもぬけの殻だった。残り一つにはジギタリスが落っこちそうな体勢でいびきをかいていた。
ベッドから下り、ジギタリスを揺さぶって起こした後、ギルドの表――昨日いたホールに行く。
「あら~フィーくん、おはよ~。」
「おはようございます。」
「二人とも早いね。おはよう。」
アベリアとサンナは昨日と同じテーブルに座っており、そのテーブルの上には朝食が置かれていた。
「先に注文しておきました。ジギタリスは?」
「さっき起こしたから、そろそろ来ると思うよ。」
「そうですか。では、来たら食べましょう。朝食後はクエストを受注しましょうか。」