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マジックセンス  作者: 金屋周
第五章:家族
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56:庭園

姫様からの直々のお願い。断る理由などあるはずがない。



「はい。もちろん、協力します。」



パーティーの代表として、フィカスがそう答えるとノウェムは顔を輝かせた。



「本当!?ありがとう、とても嬉しいわ!」



ソファから立ち上がり、そのままフィカスの手を握ってブンブンと振る。



「実を言うとね、私の発言権とかって城内でそんなに強くないの。だから、怪盗への警戒を強化するっていう意見も、ろくに聞き入れてくれないのよ。」



「あの……姫様……?」



「ああ。失礼。」



掴んでいた両手を離した。



「怪盗シャドウを放っておいたら、いつかきっと混乱を招く。勇者にも声をかけようと思っていたのだけれど、上手いこと時間が取れなくてね。」



そうか。スクォーラさんたちもレグヌムに来ているんだった。今はどこにいるんだろう?




「あの、それで、具体的には何をするおつもりなんですか?」



「まだ何も決めていないわ!」



堂々とそう断言した。当然、何も考えていないことに威張ってはいけない。



「……。」



さっきまでの勢いと空気は消え失せ、気まずさのような冷たい空気が部屋に流れた。



「……コホンッ。お昼に会食の予定があるの。悪いけどこれで失礼するわ。しばらくレグヌムにいるのよね?時間が取れたらまた呼ぶから、その時に色々話し合いましょう。」



そう言ってノウェムは慌ただしく部屋を出ていった。多分、忙しさの他にも恥ずかしさとかもあったのだろう。



「皆様、外までお送りいたします。」



執事に連れられ、フィカスたち五人は城下町へ。



「じゃあ私は仕事があるんで、いったんお別れでーす。エレジーナ・ハウスは好きに出入りしていいからねーっと鍵を渡しておかないと。はい、サンナちゃん。」



「どうも。」



「じゃーねー。」



手を大きく振ってエレジーナはその場を去っていった。



「それで、どうしよっか?」



見知らぬ町での、久々の何にもない日。いつもならクエストを受けているところだが、今日は冒険者としての予定は何もない。


この町にあるギルドを探してクエストを受けるのもアリだが……。



「フロス庭園に行こうぜ!エレジーナが気になること言ってたしな!」



ジギタリスから、そう提案された。



「それは構いませんが……ジギタリスがそう言うと、違和感が凄いですね。」



「なっ!?おいおいサンナ、俺ほど花が似合う冒険者は他にいないぜ。花の悪魔とは何を隠そう、この俺様のことだ!」



サンナの冷ややかな目線がジギタリスに向けられる。



「花ならフィカスの方が似合うでしょうが。そもそも、何ですか花の悪魔って?」



「ガハハ!さっき思いついたんだ!カッコイイだろ?」



二人が盛り上がっているところに、アベリアが控えめに手を挙げた。



「あの~私は庭園はいいから、ゆっくりしてたいな~って思うんだけど……。」



「アベリア?」



行きたくない。彼女の目がそう告げていた。



「どうしてですか?あなた、前に花の本を読んでましたよね?好きなんじゃないんですか?」



「お花は好きだけど……あそこには行きたくなくて……。」



「そうか……でも待ってったって暇だろ?行くだけ行ってみようぜ。すぐに帰ったっていいんだしよ。」



ジギタリスの強引さに折れたのか、アベリアはこっくりと頷いた。



「まぁ……それなら……。」



あのおっとりしたアベリアがここまで嫌がるなんて、どうしたんだろうか。



「すぐに帰ったら入園料の大損ですけどね。」



サンナ、今はそういうことは言ってほしくなかったな。


フロス庭園の場所はすぐに分かった。


広い町だけれど、案内板があちこちになるし、通行人に尋ねたらすぐに聞くことができた。


レグヌム城とは逆方向に進んでいき、大通りを曲がった先――町の西側にあった。


入り口のそぐ傍にレストランがあり、綺麗なバラが咲いた低木によって庭園は構成されていた。



「綺麗なところだね。」



入園料を入り口で支払い(思っていたよりも安かった)、中に入るとバラを中心に多くの花々で彩られている。



「ええ。流石、国一番の庭園ですね。」



「あら。ありがとうございます。」



曲がり角の先から女性の声がした。それを聞くなり、アベリアはフィカスの後ろに隠れた。



「ようこそ、お客様。我がフロス庭園へ。」



赤みがかかった黒髪の、息を呑むほどの美人だ。ゆっくりとお辞儀をすると、ショートヘアがサラサラと流れた。



「私はこの庭園のオーナーのアモローザ・ルブルム・グランディフローラといいます。どうぞゆっくりしていってください。」



黒色の薄いドレス姿で、左手に如雨露を持っている。水やりに歩いていたのだろう。



「それでは、私はこのへんで……あら?そこにいるのはもしかして、アベリア?」



その言葉に、アベリアの肩がビクンと動いた。

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