54:早朝
「いやぁ~ベッドふかふかだなぁ!」
ギルドにあるベッドよりもずっと柔らかい。ジギタリスはトランポリンのようにベッド上で跳ねていた。
「そうね~。良いベッドよね~。」
これまで使っていたベッドに不満を持ったことはないが、この高級な質感を知ってしまうと元のベッドで満足できるか怪しくなってくる。
「お待たせしました。さ、明日は早いのでもう寝ましょうか。」
「おかえり、サンナ。何を話してたの?」
「まぁ……色々と……ほら、寝ますよ。」
何だか誤魔化された気がしたが、それは些細なこと。彼女の言葉通り、朝は早い。姫様をあまり長くお待たせするわけにはいかないからだ。
「うん。それじゃあ、おやすみ。」
各々自分のベッドの傍にあるランプの灯りを消し、眠りについた。
昼寝をしたため寝付けないとフィカスは思っていたが、意外と早く眠気が襲ってきた。自覚がないだけで、まだ身体に疲れが残っていたのかもしれない。
目を閉じれば自然と物音が耳に入ってくる。夜だというのに、様々な音が外から聞こえてきた。城下町だけあって、この時間帯に働く人もいるのだろう。
そんな見知らぬ町の音をBGMにしているうちに、いつの間にか眠りについていた。
…………。
フィカスは不意に目が覚めた。
寝た体勢のまま窓の外に目をやると、まだ暗かった。
まだ夜なのかな……?
壁掛け時計に目をやると、時刻は朝の六時前。起床には早いが、環境が変わったことで目が覚めてしまったのかもしれない。
物音を立てぬよう慎重に歩き、部屋を出て階下へ向かう。
とりあえず、何か飲もう……。
自由に使っていいと言われていたし、飲み物をいただいても大丈夫だろう。
「おや?早いねー。」
「あ、おはよう。」
階段を下り切ったところで、エレジーナと顔を合わせた。
「エレジーナも早いね。」
この人、いつもこんなに早起きなんだろうか。
「まぁ……私は、長く寝ることが苦手なんでねー。フィーくんはどうしたの?いつも早起きのくち?」
「ううん。偶々早起きしただけで……何か飲もうと思って。」
「そっかー。私も付き合うよ。」
台所に二人で行き、ジュースを貰った。
「リーダーやってるよね?どうー?」
「え……どうって……うーん……。」
唐突な質問に考えさせられる。パーティーリーダーを務めて、どう思ったか……。
「正直、リーダーをやってるって実感は、ほとんどない……かな。皆の方が凄くて、頼りになって……でもね。そんな皆が僕と一緒にいてくれて、仲間だって、友達だって言ってくれた……だから、いつになるか分からないけど、リーダーらしくなって、恩返ししていきたいなって思うよ。」
言うのは恥ずかしいが、これが本心だ。
「そっか。じゃあ安心だね。リーダーに大切なのは、カリスマとかよりも、皆に気を使えること。気配りができること。気に掛けることができること。それが分かっていれば、何があっても大丈夫。お姉さんが保証しましょう。」
飲み干したコップを置く。
「皆を起こしてくるよー。少ししたら朝ごはんにしよう。」
「あ、うん……。」
これまでとどこか雰囲気の違ったエレジーナに、何も言うことができなかった。
言葉に重みがあったような、妙な説得力があったような……。
結局、何も訊けずに時間だけが過ぎていき、レグヌム城に向かうこととなった。
「私がいれば入城できるから安心して。顔が鉛筆みたいなものだから。」
「顔パスですね。」
「じゃあ六号ちゃん、お留守番よろしくー。お土産に石でも拾ってくるからねー。」
「ガキですかあんたは?」
「サンナちゃん、ツッコミは綺麗な言葉にしてねー。」
どこまでが冗談で、どこまでが天然で言ってたんだろうか?
貸家から大通りに出て、先に見えるお城に向かって真っ直ぐ歩く。
まだ朝早い時間だというのに、町はもう元気に動き出している。静けさも残っているが、それ以上の活気があった。
「そうそう。この町には初めて来たんだっけ?それなら、ぜひフロス庭園に行ってみるといいよー。」
「フロス庭園?」
サンナとフィカスは疑問符が頭の上に浮かび、ジギタリスはさも当然のように頷いた。アベリアは視線を逸らした。
「国一番の庭園だよ。綺麗だからね、観光地として有名でね。それと、多分君たちに関係があると思うからさー余裕があったら、行ってみな。」
関係?商人として耳に入っていたジギタリスはともかくとして、その名前を聞くのも初めてなのに?
「ほらほら、レグヌム城に着くよ。姫様に会おうか。」