52:長閑
ギルドのテーブルにて――。
卓上には皿はなく、カードだけが置かれていた。
「うーん……二人でトランプするのは、やっぱり無理なんじゃないかな?」
「そ~ね~……どうしようかしら?」
二人がいつ帰ってくるか分からない以上、ギルドを出るわけにはいかない。この場所に残っている必要がある。
そこで、暇つぶしにとアベリアが受付嬢のコールからトランプを借りてきた。フィカスにルールを教え、ババ抜きを開始したのが現在だ。
アベリアもトランプに対して詳しくなく、ババ抜きくらいしかまともにルールを知っている遊びがない。
そんなわけで二人は早々に勝負に飽きてしまい、タワーを作ることに意識が傾き始めた。
「……やっぱり、勉強をしようかな……。」
以前、火山で濡れてしまった本はすっかり渇き、一応読める程度には回復していた。もっとも、文字がかすれてしまったり、ページ同士がくっついてしまい読めない部分も多々あるのだが。
「う~ん……そうね~……。」
アベリアの返事はどこか上の空。
五段目まで積み重なったトランプタワーから目を外すと、テーブルに突っ伏したアベリアがそこにはいた。
「……アベリア?」
「……そうね~。」
「疲れてる?」
「……そうね~。」
駄目だ。完全に上の空だった。目は虚空を見つめ、手に数枚持ったカードをいじっている。
どうしよう?
一度意識が逸れると、先ほどまで何で熱中していたのかが分からなくなった。タワーを崩し、カードをまとめて箱に戻す。
後でコールさんに返しにいこう。
「さて、と……。」
どうしようもなく退屈だ。窓に目をやると夕日が沈んでいくのが見えた。
思っていたよりも長い時間、よく分からない作業に没頭していたようだ。
これからの時間、何をして過ごすか。
そうだ、訓練するのはどうだろう。ちょうど良い相手もいることだし。
「マカナ、少し訓練の相手になってもらえないかな?」
何かの本を読んでいたマカナにそう声をかけた。
「あーいや、今オフなんで。営業時間に出直してください。」
「あ、うん……そう……。」
こっちも駄目だった。
いよいよ本格的にやることがなくなった。仕方がない。遅めの昼寝でもするとしよう。
コールに借りたトランプを返すと、フィカスはアベリアの向かいの席でテーブルに突っ伏して目を瞑った。
……。
…………。
………………。
……………………。
「おーい。起きろ。待ちくたびれたのか?」
どれくらいの時間が経っただろうか。フィカスは優しく揺り起こされた。
「ん……ジギタリス?おかえり……。」
重い目を開けると、室内は灯りが点され窓の外は真っ暗になっていた。
「あれ?今……何時……?」
前を見ると、同じく寝ていたアベリアがサンナに起こされていた。
「七時になったところだ。んで、二人が起きたところで飯にしようぜ。」
「うん……あ、そうだ。マカナが……。」
「マカナ?あいつがどうかしたのか?」
ギルド内を見渡すと、寝る前と変わらぬ位置で読書する姿があった。
「うん。レグヌムに来てほしいって……おーい、マカナ。」
「あ、出発っすか?」
フィカスに呼びかけられ、本を閉じマカナは立ち上がった。
「じゃあ行きましょうか。俺について来てください。あー飯、買っといた方がいいっすよ。レグヌムまで一時間くらいかかるんで。」
彼の助言に従い、ギルドで持ち運べる食料と水を買い、ギルドを出てそのまま町の外へ。ノウェムと別れた場所であり、死神と出会った場所だ。
そこに大きな幌馬車が停まっていた。
「さ、乗ってください。出発しますよ。」
馬車にはラグが敷かれ、大小のクッションが置かれていた。
「随分と良い馬車だな。」
「俺の雇い主……エレジーナの私物です。まぁくつろいでください。操縦は俺がやるんで。」
「儲かってるんですね。」
各々気に入ったクッションに座り、パンをかじる。
「そういえば、二人とも思ったよりも早く帰ってきたね。」
「おう!色々あってな……フィカス!俺たちはずっとお前の仲間で友達だからな!」
「そういうことです。」
ジギタリスとサンナはそう言って、力強く頷いた。
「ええ!?急にどうしたのさ?」
そう言ってくれるのは嬉しいが、照れ臭さもある。
「何でもないって!俺たちは最高のパーティーってことだ!」
「そうね~。良い仲間に巡り合えて……パーティーを組めて幸せだわ~。」
「アベリアまで……あはは、ありがとう。」
何だか恥ずかしいけど、嬉しいな。