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マジックセンス  作者: 金屋周
第五章:家族
52/222

49:父親

「ねぇフィーくん。訊きたいことがあるんだけど、いい?」



昼下がり――


体操をして身体の感覚を確かめているフィカスに対して、アベリアははっきりとそう言った。



「……。」



フィカスは黙ったまま身体を動かす。その様子を見ても臆さずアベリアは喋る。



「言いにくい気持ちも分かるわ。けどね、黙っているだけじゃ駄目なこともあると思うの。だから、話してみてくれない?クルトゥーラ村の名前を聞いた時、悲しいような……辛そうな顔になったの、分かったよ。だから、何が昔にあったのか、私に教えて?」



「嫌って言ったら……どうするの?」



アベリアは笑顔で質問に答える。



「その時は、本気で殴るわ。」



怖いよ、その回答。誰に似たんだろう?



「……分かったよ。話すから……その拳を解いてくれないかな?」



「は~い。」



心の中にある、もやもやした気持ちはまだある。心苦しさのようなものもある。


でも、これもいい機会なのかもしれない。


嫌でも、無理やりにでも誰かに話せば、きっと何かが変わるだろうから。



「えっとね……僕が自分の魔法に気付いたのは――。」











中年の男性の後をついて行き、村の外に向かって歩きながらサンナは尋ねた。



「あの、お父さん?フィカス……さんのことですけど……。」



「あの子は元気かい?」



男性は振り向かずにそう訊いた。



「え?はい。元気にやってますよ。」



「そうか……あの子には、新しい人生を送ってほしくて冒険者になることを勧めたが、間違っていなくて安心した。おっと……詳しい話は村を出てから。ここだと誰に聞かれているか、分からないからね。」



落ち着いた雰囲気だ。けれど、どこかフィカスと似ている。


その大きな背中を見ながら、サンナはそう思った。


来た道を進み、また山道に入った頃、男性は脇道に逸れていった。



「こっちに来てくれ。昔、廃棄された椅子や机があるんだ。少し汚いけどね。」



草木に囲まれ、荒れたテーブル席がそこにはあった。木製のそれらは自然に還ろうとしているのか、いやにボロボロで汚れが付いていた。



「親父さん、詳しいんですね。」



「まぁ……村は居心地が悪いからね……探検していて、偶々見つけたんだ。ここは子供たちの秘密基地になっているんだろうけど、そうそう人は来ないよ。」



三人はいたく古い椅子に腰を下ろした。



「君たちは、フィカスと同じパーティーの人かな?」



「はい。フィカス……さんがリーダーをしているパーティーのメンバーです。」



「そうか、あの子がリーダーか……僕と一緒で引っ込み思案だから、色々と大変だろう?」



「いやいや、俺たちにはあいつがいないと。フィカスのその性格に助けられているんで。」



ジギタリスの言葉に、男性は表情を輝かせた。



「それは嬉しいな。君たちはどういうことをやったんだい?やっぱり、大冒険をしたりするのかな?」



「まぁ……色々と……。」



死神にやられた姿が脳裏をよぎった。このことは話さない方が良い。


言葉を濁し、話題を変えるために質問する。



「子供の頃のフィカスは、どういう子だったんですか?」



『さん』を付け忘れたサンナ。普段さん付けしない相手に、いきなりさん付けをして会話するのは難しい。



「フィカスはね……何も聞いていないのかい?」



「……?ええ。彼はあまり語らないタイプなので。」



男性はそれを聞いて笑った。



「それはそうだ。何しろ、僕と同じような気質なんだから。それで、聞いていないか……まぁ大丈夫だろう。あの子は君たちに心を開いているはずだし、遅かれ早かれ聞いていただろう。それが僕の口から、このタイミングで聞くことになっただけか。」



思い出すように空を仰ぐ。



「あの子の――フィカスの魔法に皆が気付いたのは、あの子が五歳くらいの時かな。鍬を納屋から持ってきてほしいと頼んだ時のことだ。それを見事に持ってきた。けれど、本当は納屋にはなかったんだ。誰かが別の所に置き忘れていてね。それに鍬はデザインが少し違っていた。」



カサカサと音がした。


そちらに視線を動かすと、リスが落ち葉を踏んで駆け抜けていった。



「つまり、そこには本来ない物を持ってきたんだ。そこであの子に訊いてみた。『その鍬はどこから持ってきたの?』と。そうしたらあの子はこう言ったよ。『ここにあったはず……って思っていたら、本当にあった』って。」



「それで、フィカスの創造魔法に気が付いたと?」



「ああ。神の子だって、皆が大騒ぎしたよ。最初はね。」

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