48:村
カイドウたちと別れて少しすると、山間にある村――クルトゥーラに到着した。
村興しが必要とされると聞いて、小さく人の少ないイメージがあったが、実際には村は大きく賑わっていた。
大勢の人々が農業に勤しんでいる。そんな村の様子に呆気に取られながらもジギタリスたちは村の中に入った。
「すみません。私たち、村興しの話で来たのですが……。」
畑を耕している男性――二人と同い年くらいに見える少年に話しかけた。
「ああ、町の人たちか。話は聞いているよ。って言っても、俺もどうすればいいのか全然知らないからな……村長の所に行ってみてくれ。あの大きな家がそうだ。」
少年は木でできた大きな家を指さした。
二人は少年に礼を言って、言われた通り大きな家を目指す。
「特に困っているようには見えませんでしたね。」
「だな。まぁギルドに依頼がくるくらいだし、何かしらあんだろ。」
「そうですね……あれ?」
目立つ金髪が視界の隅に映った。
「どうした?」
「いえ。あそこの人……。」
農作業をしている人は沢山いるが、その中でも一際目立つブロンドの髪。
「……ああ。あの人か。目立つ金髪してんな。」
「……そうですね。」
フィカスの金髪によく似た髪だった。だが、観察してみると背の高い中年の男性。そもそも、ギルドで休んでいるはずのフィカスが先回りしてここにいるはずがない。
「――行きましょうか。」
止めていた足を動かし、村長の屋敷に入る。
「ごめんください。」
「あ、えっと……どちら様でしょうか?」
家政婦と思われる女性が出てきた。
「ギルドで村興しの話を聞いた者です。」
「ああ!それでしたら、こちらへどうぞ。上がってください。」
女性は頷き、サンナとジギタリスは応接間へと案内された。
テーブルに差し出されたお茶を飲んでいると、長い髭が立派な老人が部屋に入って来た。
「ようこそ。我がクルトゥーラへ。村は見て回られましたかな?」
「いえ。先ほど来たばかりなので……。」
老人は髭を撫でる。
「ほほう。でしたら、ぜひ見て回ってください。都会から来た方々には少々退屈かもしれませんが、それ故に気付くこともあるでしょう。そうしたらまた、ここに来てください。」
「はぁ……。」
どうもよそよそしい。
サンナは直感的にそう思った。そのせいで気の抜けた返事をしてしまったが、村長はそれを気にする様子はない。
「では、村を回ってみますね。失礼します。」
村長の屋敷を後にし、村を歩きながらサンナは呟く。
「カイドウさんの言う通り、何かが変ですね。この村は。」
「だな。なんかこう……雰囲気がな……。」
口では言い難い。妙な空気がそこにはあった。
一度そのことを意識すると、景色もどこか違って見えてくる。懸命に働く人々も、どこか――何かに不満があるような、不服そうに見える。
「フィカスが来なかったのは正解かもな。こりゃあ……。」
「フィカス!?君たち、フィカスの知り合いなのか!?」
彼の名前に飛びついてきた少年がいた。その少年の台詞に反応して、次々と近くにいた人々が集まってくる。
「え、あ、いや……。」
ジギタリスが反応に困っているうちに、どんどん言葉が飛んでくる。
「今どこにフィカスはいるんだ!?」
「友達なのか!?ならここに呼んでくれないか!?」
「――私たちの友人の、黒髪の青年ですが……皆さん、知り合いですか?」
サンナのこの言葉に村人たちは「人違いか……。」とぶつくさ言いながら去っていった。
そんな彼らの様子を見て、先ほどからあった妙な雰囲気――違和感は確信めいたものへ変わっていく。
この村はフィカスの故郷……だとして、この反応はなんだ?
歓迎とは違うように思える。もっと欲が垣間見える……何か……。
「君たち、ちょっといいかな……?」
サンナが思考を巡らせていると、金髪の中年男性が二人に話しかけてきた。
「……なんですか?」
「さっきの話が聞こえてきたんだが……二人は、フィカスと知り合いなのかな?僕と同じ金髪の少年なんだけど……ちょうど君たちと同い年くらいの。」
「――はい。」
慎重にそう答えると、男性は表情を明るくさせた。
「やはりそうか。良かった。……少し話さないか?誰にも聞かれないように、村の外でね。色々と知りたいんだ。息子の話を。」