47:山道
「村興し?」
「そうだ!」とジギタリスは力強く頷いた。
「町から結構離れたところにある農村なんだけどよ。その村の若者が減っているとかで、それの改善をするってクエストだ!」
「農村……。」
小さな声でフィカスはそう呟いた。
「それって時間かかるし、大変なんじゃないですか?」
「いや、視察をして、意見を出すだけでいいみたいだ。まぁ俺たちは村興しに関しちゃ素人だしな。クエストを通じて、色んな意見を集めたいってことだろ。これなら歩くだけで負担は少ないし、フィカスの復活クエストには丁度良いだろ?」
それを聞いてフィカスは苦笑い。
復活って……死んではないんだけど……。
「何て言う村に行くの?」
ジギタリスはクエスト用紙に視線を向ける。
「えーっと……クルトゥーラ村、だな。麦とか家畜とか色々やってる村らしいぜ。」
「クルトゥーラ村……か。ごめん……僕は留守番でも良いかな?あんまり動きたくなくて……。」
「まぁ病み上がりですしね。では、私とジギタリスが行くので、フィカスとアベリアは待っていてください。ノウェム姫様の使いがいつ来るか分かりませんし。さぁジギタリス、早く行きましょう。」
「おう!留守番頼んだぜ!」
どこか急いでいる様子でサンナはジギタリスを連れて部屋を出ていった。静かになった部屋でアベリアはフィカスに尋ねる。
「ねぇ……何かあったの?」
「えっと……何の話かな?」
フィカスはとぼけてみせたが、アベリアは止まらない。
「フィーくんの顔を見たら分かるよ。クルトゥーラっていう村で何かあったの?」
「……昔、色々あってね。」
それだけ言って、フィカスは黙り込んでしまった。
そんな彼の様子を見て、アベリアはしばらくベッドの傍にいたが、やがて立ち上がると「何か持ってくるね。」と告げて去っていった。
「……言えない……よね。」
独りフィカスは呟いた。
誰かに聞いてほしい気持ちもあれば、誰にも聞いてほしくない気持ちもある。自分でもどうすればいいのか分からない。
やっぱり、誰かに話すべきなのか。でも、それを口にするのが怖い。
仲間を疑っているわけではない。けれども、どこか躊躇している自分がいた。
「分からないよ……。」
上体を寝かせ、フィカスは毛布を頭から被った。
「姫様のお使いはいつ来るんだ?」
町を出て村に向かう最中、ジギタリスはサンナに質問した。彼とアベリアは直接ノウェムと会ったわけではないので、詳しい話はよく知らないのだ。
「近いうちに……としか聞いてません。でも、三日経ったので、そろそろ来てもおかしくないかもですね。」
ジギタリスは頭を掻く。
「あー……そりゃあタイミングが悪かったかもな。」
「金が少なくなってきたのは確かです。こればっかりは仕方ないと割り切りましょう。私たちが出掛けている間に来てしまったら……アベリアに判断を委ねます。」
丸投げかい。とジギタリスは思ったが、それを口には出さなかった。
道を進むにつれて、坂が多くなり山の中に入っていく。
「……本当にこっちなんですか?」
「おう!そのはずだぜ!」
ギルドで受け取った地図によると、方向は間違っていない。地図の読み方を間違えていれば別だが。
落ち葉が溜まった山道は意外と整っていた。頻繁に人が行き来している証拠だ。
「ほら、こっちで合ってただろ?」
「……そうですね。」
得意げなジギタリスとは対照的に気だるそうなサンナ。
さらに進んでいくと、動物や肥料などの、農村独特のにおいがするようになってきた。
「そろそろだな……おっ?」
奥から人が歩いてくる。
背の高い男性とまだ幼さの残る少年だ。
「ジギタリスか。久しぶりだな。どうしたんだ?」
眼鏡をかけた、背の高い方の男がすれ違う時に話しかけてきた。
「この奥にある村にクエストで行くところだ。カイドウは行ってきたのか?」
カイドウという名の男は頷いた。
「ああ。あの村からは色々と仕入れることができるからな。……だが、雰囲気がどこか変だった。俺としては、あまり行きたくない所だ。」
「ん?そうなのか?まぁ俺たちは大丈夫だからよ。あんま心配しなくていいぜ。それで、その子は?」
カイドウの横に立つ少年のことを尋ねると、彼は少年の頭に手を置いた。
「弟のカナメだ。勉強させようと思って連れてきたんだが……あまり良くなかったかもしれない。じゃあ俺たちはそろそろ行くよ。ジギタリス、縁があったらまた会おう。」
「おう!」
遠ざかっていく二人を見ながら、サンナは尋ねた。
「知り合いだったんですね。どういう関係なんですか?」
「商人仲間だ。カイドウから色々教わったんだ。つーわけだ、そろそろ村に着くだろうし頑張ろうぜ!」