46:目覚め
新年から新章
「ほら、早く創ってくれよ。」
「お前がいないと困るんだって。」
いや……僕は……。
「どこいってたんだ?手伝ってくれよ。」
「皆、お前を頼りにしてんだからさ。」
違う……皆が求めているのは……僕じゃなくて……。
「どうしたんだ?俺たち、友達だろ?」
「友達の頼みなんだ。聞いてくれるよな?」
やめて……僕は……。
「早くしてくれよ。待ってんだからよ。」
嫌だ……僕は道具じゃない……だから……。
「やめてくれぇ!!」
自分の声に驚いて目が覚めた。
すっかり見慣れたギルドの天井が見える。
フィカスは小さく息を吐いて、自分が置かれている状況を整理する。
今、ベッドで寝ていて、嫌な……昔の夢を見て……えっと……。
そうだ。死神と戦って……あれから……。
「おっ?やっと起きたか。」
誰かが顔を覗き込んできた。白い髭の生えた褐色の男だ。
「ジギタリス……?えっ?どれくらい寝てたの!?」
一体、何年寝れば同い年の彼があんなに髭を生やすというのか。
「おう!三日だぜ!」
「そっか……三日も……三日?」
「おう!助かって良かったぜ!ナイスガッツだ!」
そう言ってジギタリスは付け髭をとった。そして「サプライズの変装だ。」と笑って見せた。
「変な冗談はやめてよ……。」
身体を起こしてみると、痛みはほとんどなかった。意識がなかったので詳細は分からないが、きっと彼の回復魔法のおかげなのだろう。
「腹減ったろ?ちっと待ってろ。なんか持ってくるからよ。」
「うん。ありがとう。」
意識がなかった三日間。飲まず食わずだったのだ。当然、飢えているし渇いて……。
「喉はそんなに渇いてない……?」
「水はサンナが飲ませてたみたいだからな。どうやって飲ませてたかは知らんけど。皆が来たらお礼言っとけ。」
そう言ってジギタリスは部屋を出ていった。
水は飲ませてくれていた……。
無理やり水を流し込まれる絵面を想像してしまい、フィカスは首を横に振った。
いくらなんでも、そんな乱暴なことを……やらないとは言い切れない。サンナならやりかねない気がする。
「目覚めたんですね。良かったです。」
「調子はどう?フィーくん?」
パンと瓶を持ったアベリアとサンナが部屋に入ってきた。
「うん。多分、大丈夫だと思うよ。二人とも、ありがとう。それで……ジギタリスは?」
「ジギくんなら、クエストを探しに行ったわよ。お金がそんなにないからね~。」
「……そっか。」
僕が寝ている間、ずっとこの部屋を借りていたんだ。当たり前のことだけど、それはいつもよりもずっとお金がかかる。
「さぁ食べてください。食欲はないかもしれないですけど、食べ始めたらきっと弾みがつくので。」
パンと瓶に入った牛乳を受け取り、口に含んでみると想像以上に美味しかった。ずっと何も食べていなかったせいかもしれないが。
「ごめんね。私たちも一緒にいたら、きっとフィーくんがこうなることはなかったのに。」
「悪いのは死神です。アベリアが負い目を感じる必要はありません。」
サンナの言葉にフィカスも頷く。
「うん。サンナの言う通りだよ。それに、ネモフィラさんたちが戦ってくれて……そうだ。ネモフィラさんたちは今、どこにいるの?」
「隣町……レグヌム城下町に行ったみたいです。勇者とその仲間たちですから、何かと忙しいのでしょう。きっと。」
「そうなんだ……お礼を言っておきたかったけど……。」
「次に会った時に言えばいいことです。」
パンを食べきり、牛乳を一気に飲み干す。
「まぁ……うん。そうだね。あ、そうだ。水を飲ませてくれたって聞いたけど、一体どうやって……?」
ふとそのことを思い出し、何となくで聞いてみたものの、サンナは顔を逸らして何も答えなかった。心なしか、頬が赤い気がする。
「……あら~。」
そんなサンナの様子を見て、アベリアは口元に手を当てて笑った。
どうしたんだろう?
その疑問を口に出そうとした時、扉が開いた。
「よう!楽そうなクエストを見つけてきたぜ!」
ジギタリスが手に持つクエストの説明用紙を三人に見せる。
「ずばり!村興しの企画だ!」