44:死闘
「こっちです!急いで!」
サンナはネモフィラとラフマを引き連れて、町中を走っていた。
リコリスとも出会ったが、彼は勇者を捜すために別行動だ。
ジギタリスとアベリアも捜したが、その姿を見つけることはできなかった。おそらく、事情を知らないためギルドに戻ったのだろう。だが、ギルドにまで行く余裕は今のサンナの中にはなかった。
「……あそこです!」
赤いローブを着た人物に追い詰められるフィカスが遠方に見えた。
「がっ!」
フィカスは腕を軽く斬られながらも致命傷を免れた。
自然と呼吸が荒くなる。切り傷は大鎌が振られるたびに増え、運動と失血でどんどん身体が重くなる。
くっ……そ……。
足が重い。身体がだるい。
まるで寝起きかのように、視界がはっきりしない。
夜の闇と相まって、死神の動きが分からなくなってきた。
頭が回らない。
何かを創造して逆転する。というのは、もはや不可能だろう。
「……っ…………!」
よろめきながら刃を躱したが、足が止まった。痛みと疲労で限界がきている。
もう……逃げることもできない……か……。
「う……らああああぁぁぁ!!!」
諦めたその時、白い衝撃波がめがけて飛んできた。
死神は身体の向きを変え、大鎌を横に振って衝撃波をかき消した。
その直後、豪炎が生き物のように死神に襲いかかった。
それに対しても大鎌が振られ、火の粉を払うかの如く豪炎は消えた。
「フィカス!!」
サンナが両者の間に飛び込んできた。そして、フィカスをかばうように前に立ち、死神に斬りかかる。
「……。」
死神は柄でナイフを弾くと、大鎌を背中側に振った。
「チィ!」
背後から鉄杖で殴りかかろうとしたネモフィラが舌打ちした。鉄杖は大鎌の刃によって真っ二つに斬られ、ネモフィラは後退を余儀なくされる。
その隙にサンナは再び、死神に襲いかかる。
その視界の下から銀の刃が映った。地面を通して真下から大鎌が飛び出した。
「……くっ!」
翼を羽ばたかせ、サンナは急停止。
胸を浅く斬られただけだ。刃は上を向いている。好機だ。
そう思って三度前進する。それに対する死神の反応は、大鎌の勢いを殺さずそのまま刃を振り上げたのだった。そして、肩を大きく回して背後に。一回転して再び地面の中から刃が飛び出した。
「なっ……!?」
斜めに動くことで直撃を免れたが、死神に腕を掴まれた。そのまま振り回され、宙に放り出された。
サンナは飛びかかろうとしていたラフマと空中で激突し、二人は落下した。
その様子を横目に死神は、立ったまま動けないフィカスとの間合いを詰める。
「させんっ!」
ネモフィラが炎魔法を発動し、フィカスと死神の間に炎の障壁を作った。
だが、死神の大鎌は紙を切るように炎を裂き、何事もなかったように前進する。
「待ち……やがれぇ!!」
獣のようにラフマは地を蹴り、死神の背中めがけてその腕を、爪を振るう。
「……一々吠えるな。」
素早く体の向きを後ろへと変えると、ラフマを正面に見据え死神は大鎌を振った。
「ラフマッ!」
サンナが飛んでラフマの背中に追いつくと、服の襟を掴んで後方に引っ張った。これにより刃は空振りし、空気のみを切り裂いた。
死神はラフマに詰め寄ろうとしたが、ネモフィラが火炎弾を発射しその歩みを止めた。
「……っ!」
死神の意識は助けに来た三人に向いている。
フィカスは身体の痛みをこらえ、よろよろと立ち上がった。
距離を取るタイミングは、きっと今しかない。
「こんの……野郎ッ!!」
左右にフェイントをかけながら、ラフマは衝撃波を出して攻撃する。だが、それは全て死神の大鎌によって掻き消える。
ネモフィラが炎魔法でラフマを援護するが、死神はまるで気にしない様子で二人の攻撃を斬っていく。
その戦況を見て、サンナは思考する。
迎撃するのは無理だ。フィカスを何とか救出して、逃げないと……。
そのためには、死神の注意をより引きつけられる存在が必要だ。
ここにいる三人では、それには一手足りない。
せめてもう一人……。
サンナはエレジーナの姿を思い浮かべる。無い物ねだりなのは分かっている。それでも、彼女に来てほしかった。
「待たせたね!もう大丈夫だ!」
その時、とある人物の声が辺りに響き渡った。