40:親友
サンナとエレジーナは黙って見つめ合った。
数秒間の沈黙が場を支配した後、先にエレジーナが口火をきった。
「久しぶりだねーサンナちゃん。元気にしてた?」
「……私のことはどうでもいい。それより、なぜ私の仲間に手を出したのですか?」
「ああ、サンナちゃんの友達だったんだ?それは悪かったよ。仕事だったからねー仕方がなかったんだよー。ほら、もっと私に近寄ってきて。薄暗くて可愛いお顔が見えないよ。」
サンナは溜め息を一つ吐き、ゆっくりとエレジーナに近づいていく。
「一年ぶりくらい?美人になったねー。親友として鼻が高いよ。」
親友?
フィカスは首を傾げたが、その直後に納得がいった。お互いにすでに知っているような会話だったのは、親友だったからか。
「……親友ではないでしょう。まったく……手を引いてくれますか?私としても、自称親友のあなたとは戦いたくないので。」
日が沈み、暗闇になった住宅地で二人は会話を続ける。
「そんなこと言わないでよー。昔はエレジーナお姉ちゃんって懐いてたのにー。悲しいなー唯一の親友に、そんなこと言われちゃって。」
「変な思い出を捏造しないでください。あと唯一って……あそこの少女は親友ではないんですか?」
屋根の上から、猫のようにアベリアを威嚇している六号を見やる。
「あっ……悲しいなー数少ない親友に、そんなこと言われちゃって。」
今、あって言った。忘れてたの……?
「本当にあなたって人は……とにかく、もう帰ってください。」
「お天道様もいなくなっちゃったし、そうするつもりだよー。あーそうそう、サンナちゃんの仲間、強いからさ、死神に気を付けた方がいいよ。」
「死神?」
そういえば、さっきもそう言ってた。死神って何なんだろう?
「私も噂でしか知らないんだけどね。色んなところに出没する、正体不明の人物。強い奴が狙われるって聞いたことあるから、闇には気を付けてねー。じゃあ帰るよ、六号ちゃん。」
「……。」
リスのように六号は軽やかにエレジーナの元に飛び降り、二人はフィカスたちに背を向けて歩き出した。
「じゃーねー。また会いましょー。」
手をヒラヒラと振って、エレジーナたちは闇夜の中に消えていった。
「……全員、無事なようですね。」
「無事……ではないかもだけど。どこか余裕があったように見えたよ。あの人。」
「そうですか……まぁ確かに、エレジーナは私と同じアサシン。正面戦闘よりも暗殺に長けています。本気ではなかったんでしょうね。きっと。」
そっか。そうなんだ。
それでも、得意分野での戦いではなかったとしても、あの人は強かった。
「そうね~強かったわね~。」
いつの間にか、アベリアはニコニコしている。普段通りだ。
「お腹も減ってきたし、ご飯にしない?」
「おう!そいつは賛成だ!で、俺を助けてくれ!」
足をネバネバした物で地面と接着され、ジギタリスは放置されていた。フィカスは駆け寄って引っ張ってみるが、どうも上手くいかない。
「私に任せて~。フィーくんとサーちゃんは先に行ってていいわよ~。」
「――というわけだ!俺のことは気にするな……あだだ!もうちっと優しく頼む!」
「ええ。分かりました。先に行ってますね。」
なんだか心配な気もするが、多分大丈夫だろう。
大通りへと出て、二人は肩を並べて歩く。
「エレジーナたちは、なんで襲ってきたんですか?」
「うーん……アベリアが良い子か悪い子か……みたいなこと言ってたけど、分かる?」
フィカスと同じく、サンナも首をひねる。
「アベリアの昔に何かあったか……それとも……分かりませんね。まぁ、あの人、変ですから。あまり気にしなくていいのかも……ん?」
ギルドに到着すると、入り口の前に誰かが仁王立ちしている。
ミニスカートのドレスに手甲や胸当てを付けた、アッシュグレーの長い髪の女性。
その女性はフィカスにビシッと指を突きつけた。
「やっと見つけたわよ!金髪くん!」