39:エレジーナ
「死神?」
エレジーナの質問に対し、フィカスはオウム返しにそう言った。そんな様子を見て、彼女は無表情でいたが、やがて首を傾げた。
「……知らないみたいだね。ならいーや。戦闘再開だよー。」
エレジーナの意図が分からない。が、今は気にしなくて良さそうだ。
フィカスはそう思うことにして、向かってくる彼女に小剣を向ける。
見ろ。見るんだ。動作を。
必ず癖がある。特徴がある。本人にしかない戦い方がある。
目前まで迫ってきた頃、腰に手が伸びるのが見えた。
「ふっ!」
「ありゃ?」
息を短く吐いて、喉元を狙ったナイフを防いだ。次は……!
一歩下がり、ナイフを鞘に戻すのが見える。そして、両手を顔の前まで持ってきて……。
パァン!
眼前で突然拍手をされ、フィカスは反射的に目を閉じてしまった。
猫騙しだ。
「ぐあぁ!」
瞼を閉じ世界が一瞬の間、暗闇になった。その一瞬に蹴りを入れられ、フィカスは地面を転がった。
何者かに腕を掴まれた。そして、上へと引っ張られる感覚がする。気が付くとフィカスは空中に放り投げられていた。
「え……ええええぇぇ!?」
地上にいる人々が小さく見える。
一体何が……って、こんなことができるのは一人しかいないか。アベリアだ。
「おー凄いねぇ。」
「……。」
黙ったまま、瞳に殺気を宿したアベリアを見て、エレジーナは軽口を叩きつつ頭を働かせる。
六号ちゃんは……屋根の上に逃げたか。あの大男は地面に固定されて動けない。金髪くんは少ししたら落ちてくる。つまり、二対一。証明終了。
肉体強化を受けた拳を避け距離をとる。
「怖い怖い。」
そんなに怒らなくても……仲間が攻撃されているのを見たんだから、まぁ仕方ないか。
「仲間のために怒る……優しいねー。」
再び繰り出されたパンチを避け、その腕を掴んでその勢いのまま後ろへと流す。そして、無防備にさらされた背中に蹴りを入れる。
アベリアは地面に激突したが、すぐに立ち上がってエレジーナに向かっていく。
「力は凄いけど……当たらないと意味が……およ?」
てっきり襲ってくると思っていたら、超人的なジャンプを見せて頭上を跳び越えていった。
アベリアは空中で落下してきたフィカスを抱きかかえ、力強く着地した。
「あ……ありがと。」
「ええ。フィーくんは見てて。私が戦う……。」
「いや!僕が戦うよ!」
フィカスにはそぐわない大声を出して、アベリアの台詞を遮った。そして、腕の中から下り小剣を強く握ってエレジーナめがけて走っていく。
投げられて空中にいる間、地上の観察していたが、アベリアの様子がいつもと違うことに気付いた。どういう風に?と訊かれたら口ごもってしまうだろうが、それでも変に思えてしまった。
だから、今のアベリアとあの人を戦わせてはいけない気がした。
「うおおぉ!」
小剣を投げつける。エレジーナはそれを身体を斜にして躱した。
その隙に想像する。
多分……有効な武器は……!
「げぇ!何ソレ?」
突如、何もない宙に大剣が現れ、彼はそれを握って横に薙いできた。
「うっ……!」
思ったよりも重い。これを振り回して戦うのは無理がありそうだ。
フィカスは大剣を脇に捨て、次はブーメランを創造する。そして、大剣の刃から逃れるために離れたエレジーナに投げつける。
だが、ブーメランはエレジーナの身体まで届かなかった。回転する刃は指に挟まれ停止した。逆にそのブーメランが投げられフィカスへと迫ってくる。
「えっ!?キャッチし……えっと……!」
防がないと!どうやって?そうだ!盾を創れば!
盾……?どういう見た目だっけ?重さは?材質は?大きさは?
ダメだ。頭の中が真っ白になっていく。ブーメランは迫っているのに……避け……間に合わ……。
「そこまでです!」
黒い影が空から降ってきて、ナイフでブーメランを弾いた。
「サンナ!良かった……助かっ……。」
「どういうつもりですか!?エレジーナ!」
駆けつけてきたサンナは、そう大声で言った。