35:仕事
夕暮れ時――町全体が橙色に染まる頃、フィカスたちはギルドへと戻ってきた。
「寄り道したけど……夕飯にはちょっと早いね。どうしよっか?」
本や服を抱えたリコリスはラフマを見る。
「買い物はもうヤダ。もっと身体動かしたーい!」
「じゃあ……家に荷物置いたら、また出掛けるか。それじゃあフィカスくん、僕たちはこれで。」
「バイバーイ!」
「うん。またね。」
リコリスとラフマは貸家へと歩いていき、フィカスはギルドに入ろうとした時――。
「おう!偶然だな!」
ジギタリスとアベリアがバザーから帰ってきた。
「うん……あ、そうだ。アベリアに会いたいって人に会ったんだけど。」
夕日に照らされたアベリアの表情が僅かに曇る。
「あら……誰かしら~?」
フィカスは、その女性の人相を思い出す。
「えっと……サンナくらいの身長で、セミロングの癖っ毛……クリーム色の髪だったかな。あとは……あ、たれ目の女性だったよ。」
「あら?心当たりがないわねぇ。」
あれ?じゃあ誰だったんだろう?
「おやおや、もしかして、もしかすると、私のことでは?」
「えっ?」
急に後ろから声がして、フィカスは心臓が飛び上がった。
フィカスの後ろにいつの間にか立っていたその女性は、ゆっくりとアベリアに近づいた。
「あなたがアベリアさんですね?ちょっとお話があるんですよ。来てくれますか?」
「ええ。もちろんよ~。」
「俺たちも一緒に行っていいか?」
たれ目の女性は頷いた。
「もちろんですよ。屈強な君も金髪の君も来ちゃって大丈夫ですよー。」
女性に連れられるように歩き、表通りを外れて住宅地の方まで来た。
「あーそうだ。アベリアさん、その方たちってお友達だったりします?」
「はい。私の大切な友達です。」
しっかりと、力強くアベリアは頷いてみせた。
それを聞いて女性は立ち止まり、頭を抱えた。
「あーそれは困ったなー。いや、こっちの話なんだけどね。どうしようかなー?」
何だろう、この人?
フィカスは女性の言動に猜疑心を覚えた。
言葉に感情がこもっていないというか、どこか上の空というか……。
「実はですね。とある匿名からですね、アベリアさんが良い子かどうか見てこい、とお願いされたんですよ。その匿名というのは……あーこれ、言っちゃダメか。えーと、良い子じゃなかったら……これも言っちゃダメだ。」
変な人だけど、演技には見えない。凄い天然ってこと?
「まー詳しくは言えないんですけど、悪い子だったら始末しろってお仕事なんだよねー。ん?これ言っちゃダメだよね?言っちゃったしいいか。」
近寄ってきて、アベリアの頬に女性は手を添えた。
「けど、お友達がいて、とても悪い子には見えないからー帰ろうと思うんだけど、始末してほしい、みたいな感じでお仕事頼まれちゃったから、一応は戦うことにしたんだよねー。」
女性は真っ直ぐにアベリアの瞳を見つめる。
「けど、良い子を始末するのは忍びないからー。時間制限をつけようと思います。お天道様が寝て、夜になったら引き上げるので、それまで頑張ってくださーい。」
アベリアの頬から手を離した。そして、フィカスたちに背を向けて奥に歩いていく。
「おい、あんた。一体何を……。」
ジギタリスがそこまで言った時、上から何かが降ってきた。
ノコギリのような、幅の広い木製の武器を持った少年が民家から飛び降りてきて、フィカスめがけてその武器を振るった。
フィカスは前に跳ぶようにして、その攻撃を躱した。結果として、たれ目の女性の前に出るようになる。
攻撃を仕掛けてきた茶髪の少年はフィカスは追わず、振り向くとそのままアベリアを追い詰めるように攻撃を開始した。
「おい!どういうつもりだ……っと!」
屋根から小柄な少女がジギタリスの前に飛び降りてきた。
「はーい。それじゃあ戦闘開始でーす。」