34:休暇
「う~ん……こりゃあ、買い直した方が早いかもね。」
窓の傍に置いてある本を見て、リコリスはそう言った。フィカスが買った武器図鑑。一度も読まずに水に落ちてしまい、こうして天日干しをしているわけだ。
ダンジョン攻略と宴があった日の翌日。
二つのパーティーは骨休めの意味を含め、各々自由に過ごしていた。
「うん……仕方ないし、また買おうかな。」
お金が貯まったら。と語尾に付けた。
「ところで、スクォーラさんは?」
「ああ、スクォーラくんはね、どこかに行っちゃったよ。クエストがない時は、フラフラっとどこかに行ってるみたいなんだ。まぁ多分、隠れてどっかで特訓でもしてるんだと思うけど。」
オフの時は基本自由。それが勇者たち一行の暗黙のルールだった。
「ヒマだー!なんかクエスト受けにいこー!」
勢いよく扉が開き、元気いっぱいな半獣の少女が入ってきた。
「へぇ、いったいどんなクエストがあるんだい?」
ラフマは胸を張ってこう答えた。
「まだ見てない!だからこの三人でなんかやろう!」
「まだ見てないんだ……。」
受付に行って担当のコールさんに、受注できるできるクエストがないか訊いてみる。
「そうですね……鉱石採集やゴブリン退治。他には村おこしのクエストが現在、受注可能となっております。いかがされますか?」
「村おこしも肉体労働もご免だね。ゴブリン退治にしよう。」
「かしこまりました。ゴブリンたちが森に巣食っているそうです。気を付けていってらっしゃいませ。」
「はーい。」
リコリスを先頭に、即席パーティーはギルドを出た。
「あのー。冒険者の方々ですか?」
ゆったりとした雰囲気の女性が話しかけてきた。
フィカスたちが頷くと、女性は胸の前で手を合わせた。
「そうでしたか。実はですね、アベリアさんという女性を捜しているのですけど、心当たりはありませんか?」
アベリアを捜している?友達かな?
「はい。あ、でも、今アベリアは外出してまして……。」
バザーを見に行くって言っていた気がする。ちなみにジギタリスも一緒だ。
「あらら。タイミングが悪かったみたいですね。それでは、出直してきますね。ではでは~。」
ヒラヒラと手を振って女性はその場を去っていった。
「……知り合い?」
「ううん。初めて会った人だよ。口ぶりからして、アベリアの友達みたいだけど……。」
「アベリアさんって、自分のことを話すタイプじゃないっぽいしね。まぁ帰って来たら訊けばいいよ。じゃあ僕たちも行こうか。」
火山へと通じる道中にある森。そこに到着すると、クエスト通り複数のゴブリンがたむろしていた。
「……十体か。ラフマが九……僕とフィカスくんが一だね。」
「計算がおかしいぞリコリス。」
「気のせいさ。さぁやるよ!」
勢いよくリコリスが飛び出していった。フィカスは小刀を引き抜き、深呼吸を一つしてから、リコリスの後に続く。
ゴブリン――背の低い、猫背で緑色のモンスター。知能はそれほど高くないが、力と縄張り意識が強く、彼らの領域に入った者に対しては、統率の取れた攻撃をする。
「僕が引きつけておくからさ、攻撃は頼んだよ。」
霊体となり、ゴブリンたちの中央でリコリスは創作ダンスを披露する。そんな彼を攻撃しようとゴブリンたちは群がり、半透明のリコリスに空振りの攻撃を繰り返す。
「よーし。んじゃ、フィカスは下がってて。あたしが一気にやるから。」
ラフマに野獣の眼光が宿る。
「あ、いや、僕も戦うよ……?」
右腕を大きく振り、爪から出た白い衝撃波がゴブリンの群れを一掃した。
「はいお終い。帰ろうか。」
「う、うん……。」
僕、何にもしてないんだけど……。
帰路に着くリコリスとラフマを見て、フィカスは心の中で密かにそう呟いたのだった。